第二章・共犯者(Співучасник) 中間

 竹島スヴィトラナの視界(точка зору Світлани)


 紀序くんが驚愕の顔を作ったのは、私の予想通りだ。彼は私の大切な仲間、誰も彼の代わりになれない。しかし、強いてこの子を戦場に行かせたいなら、騙してもしょうがないね。

 「スヴィタ姉、なぜ平山さんとここにいるの?武器を取りに来たの?」

 「いえ、紀序くん、あの販売者もいないし取引もないよ!ごめんね、全ては作り話だ。」

 「ちょっと、意味分からないね。」

 「私は柚依と一緒に長野に行く計画を練っていた。食べ物と薬品を持って行かせたのは私たちの旅に補給品が必要だから、だけど、他人の目を引きたくないから、作り話を伝えて、橋本兄貴を頼んであなたをここまで送った。そして、私たちはここで合流した。」

 今、紀序くんも柚依も信じがたいと感じていそうだ。

 「って意味はもう平山さんと二人で逃げる計画を練った。でも、一言も漏らさないで、全然教えてくれなかったのか?」と紀序くんは声が大きくなった。

 「いいえ…私は彼女が武器を与えようとすることだけ知っている。私と一緒にあの村に戻るなんて言っていない……」

 「嘘つかないと、そんなに簡単に安全ゾーンを離れることができない。二人とも、ちょっと解釈させてもらってもいい?」

 「何を解釈?僕より出会ったばかりの平山さんを信じる?私はあなたを裏切らないのに!」

 見ると、紀序くんは激怒していた。

 「紀序くんが芝居を打って安全ゾーンのみんなを騙す必要があったから、あなたは見事に任務を達成した。」

 「でも、先に言っとくことができないのか?この一年間、僕は確かに色々な面倒をかけてたけど、一緒に無数の危険も乗り越えた。そうだろう?今、僕は自分勝手に操る人形にされた?」

 「実はね、別々に二人に計画の一部分だけ教えた。だって、私は一番危なげない道を選ばなきゃ。」

 「そうか、そうか。じゃ、次のプランは?銃器を持って長野行って、ヒーローになってやくざを散々殴ってやるか?」

 「私は後でゆっくり一つ一つ説明する。でも、先ずは家の中での装備や物資を確認するべきだ。柚依、紀序くん、私についてくれる?」

 「言っとくけど、僕はあなたのようなヒーローの助手くんになって、一緒に悪い人を懲らしめるなんてできないぞ!」

 「なぜ私の計画を聞いてくれないの?私は無鉄砲な人じゃないわよ。」

 紀序くんは文句を言い切っていないけど、私と一緒に家に入る。


 「すみません…銃器はよく分からないけど、これってサブマシンガンでしょう?」

 私が本棚の後ろで銃器を差し出す時の柚依の反応は、明らかにこのUMPサブマシンガンが怖いのだ。

 「正直に言っておきます。この銃はどこからもらったって質問しないほうがいいです。恐ろしい出来事を回想したくないですから。」

 いつまで経っても、紀序くんは私が藤澤警官を殺して彼の武器を奪ったことを忘れられないだろう。手を出したのは紀序くんではなかったが、自責の念がずっと彼の心を蝕み続けている。

 「これハイテクなスコープが付いていて、250メートル以内とても致命的だ。残念なのは、一つしか弾倉がないので、ゾンビを撃つと勿体無いです。」

 私は銃を肩で支えて、使い方も柚依に見せてあげる。

 「スコープで目標を確認してから射撃して。肩でちゃんとストックを支えて反動を抑えて外れないように。弾薬を無駄にしないために、半自動発射モードしか使えない。」

 「この銃は僕たちを何回も救った。プロじゃない僕でもきっちり敵をヘッドショットできた。惜しいのは、安全ゾーンは暫く平和になった後、政府は『動乱を防ぐため、みんなの銃器を集めて管理する』って命令したこどだ。僕たちは銃を隠す他になかった。」

 紀序くんは不満を言う。「今はどんな時か、サブマシンガン、ピストルはともかく、どうせ持ってる人が少ないし。民用のライフルとショットガンも管制するのは一体どうして?」

 国によって、「銃器所持は民衆の権利」ということに全然異なる意見がある。アメリカみたいに「銃器所持」の権利を憲法で保障した国では、進化ウイルスが高速で広がる時、民衆はもっと自衛しやすいが、平和の時代なら、銃撃事件が多発した。日本では厳しく銃器を管理しているので、世界中でも治安の良さがトップだ。しかし、災いが起きると、民衆は武器に乏しくて自衛しにくい。

 「政府はたぶんみんなが環境の重圧で狂っていて、銃で人を無差別に殺すことを心配したんでしょう。安全ゾーンの住民の中でも、PTSDが起きる人がいる。でも、政府は充分な医療支援を行うことができない。」

 「こういうことを言えば…銃で敵を殺すことは難しくない。」

 柚依は真剣にサブマシンガンを見続けて、何かを振り返ったようだ。

 「はっきり覚えている。私は消防斧でゾンビの頭を斬った時の気持ち悪い感覚を。彼たちはもう人間じゃないと分かっていた。でも…骨と肉が砕けた恐怖感は私の夢の中で繰り返した。銃を使えば楽になる。少なくとも接触感がない。」

 「できれば、僕は全くあいつらと戦いたくないです。あと、どういう訳か、僕は過去の平和世界の記憶が幽かになっています。」

 「紀序くん、リボルバーちょうだい。」と私は二人の会話に割り込んだ。今は過去に囚われている時じゃない。この世界に慣れるか否か、敵を殺すことを思い迷ってはいけない。

 「柚依、拳銃を使ったことある?」

 「はい、警察の制式拳銃は一番取りやすい武器の一つ。でも、ゾンビが私と何歩かの近いところにいなかったら、ちゃんと目標に当たらなかった。」

 「アクション映画のおかげで、みんなは拳銃に少なくない違う印象を持っている。先ずは、活動目標を射撃する場合、20メートルを超えたら的中率が低くなる。それは平山さんのせいじゃない。あと、的中率の高さを決定するのは技術だけじゃなく、心理状態も影響を与える。僕たちはゾンビと怪物に攻撃されることが怖くて、急いで撃ったら目標に当たりにくい。」

 紀序くんは沢城三尉が教えてくれたことを詳しく精確に暗唱した。これは彼が学校でいつも成績が上位のわけだ。

 「紀序くんの言った通り、拳銃は頼もしい武器じゃないから、強敵と戦わないでね。」

 「スヴィタ姉、ちょっと待って、質問がある…一体何丁の銃器をこの家に隠した?」

 「また一丁のオートピストルがある。あなたも分かるでしょう?逃亡した時、多くの銃器を見つけられなかったって。」

 「それなら、無事に今回の旅を終了できる自信、どのぐらいある?」

 紀序くんはまた眉をしかめた。彼は言っていないけど、彼が今回の旅で荒野に死体が残る可能性が高いと考えていることを知っている。

 「銃器以外、もちろん他の武器が必要だ。さっき、酒と砂糖を持ってきたでしょう?それで火炎瓶を作れる。でも、今さっさと持ち物を準備して、長野に出発しよう。」

 「言ったはずだ。お付き合いしたくない。快適で安全な家から出て、外で面倒なことを受け持ちたくないんだ。僕たちが遭った災いは多くないと感じる?」

 「こういうことに巻き込まれたくないけど、もう共犯者になっちゃったわね。覚えてるの?安全ゾーンに厳しい法律があるって。」と私は紀序くんに今の局勢について言及する。「『臨時ウイルスの予防と治療法』により、感染者が政府の監視を避け、安全ゾーンを離れることを助けることがあったら、犯罪だよ。」

 「騙されちゃったから!闇市の武器取引をやると伝えられたから、物資を携えてこの家に来た!」

 「もちろん、自分は騙されたと主張できる。でもね、政府は紀序くんが私の話に従い、物資の準備を手伝ったことを確認したら、つまり、犯罪の準備行為を確認したら、共謀者とされる。例え一緒に逃亡してくれなくても、有罪だ、わ、よ!」

 紀序くんは腕を組んで、怒ったまま側の椅子に座った。

 「じゃ、また荷物を負う役にされる?」

 「あら、もし私たちに混ざって曇島村の人々を助けに行かなきゃ、代わりに刑務所に行くしかない?私に付いて行けば、せめてあなたをきちんと守れる。」

 私は年上のお姉さんっぶりをして、紀序くんを私に服従させる。

 「申し訳ありません。私のせいで天笠くんまで巻き込まれました。そうなるとは分かりませんでした。」

 ずっと側から紀序くんの怒り姿を見ている柚依は、彼に腰を低くして謝った。彼の態度がちょっと和らぐ。

 「いえいえ、僕に謝らなくてもいい。平山さんも騙されたじゃない?」

 この子は私をじろりと見る。「彼女は僕と知り合ったばかり、よく僕を使っていたさ。学校でいつもあれこれ命令したんだ。」

 「とりあえず、速く荷物を片付けて、ここに長く留まらないほうが良い。」

 「また他の重要なことを忘れてないか?」と紀序くんはもう一度質問した。

 「どの重要なことを?」

 「どうやって曇島村に行く?足でいっぱいゾンビと怪物を通り越したい?」

 「心配しないで、もう車両を準備しといた。庭に停まってるよ。」


 「スヴィタ姉、全然貴女が運転免許を持ってること知らなかった。」

 「すみませんが、本当に車を運転するの?私は心配している…」

 正直に言えば、私も日本で初めての運転に自信がないから、二人とも怖くなって当然だ。しかも、今の道路は状態が非常に悪い。

 「信じてお願い。二年前に、バカンスでウクライナに戻った時、父に車の運転を教えてもらった。運転の経験があるので、大丈夫。」

 紀序くんと柚依は互いに見ている。彼たちは私が嘘をついたと思うだろう。確かに一般の両親は簡単に未成年の子供に運転を教えたりしない。しかし、父は私が健康が回復した上、理想の高校に受かったことを見て凄く喜んだ。その機会に私に何回も要求された後、やっと私のわがままを許してくれた。

 父はきっと私の運転技術がここで役に立つと思わなかっただろう。でも、予想できたら、私に過保護の彼は銃を向けられても絶対に運転を教えない。

 お父さん、どう考えても、私は自分の計画を貫くべきだ。

 「二人とも、これはは先進技術の三輪自動車で、AIの運転システムが付いてるので、初心者でもうまくドライブできるから、心配しなくてもいいよ!」

 「っていうか、いつこの車を取った?」

 「この前、河霜湖の周囲を掃除した時、ある村でこれを発見した。車の主はたぶん東京から来たか。」

 私は二人にこの車を選んだ理由を説明し続ける。

 「これは自動車とバイクの長所が混ざってる。幅が狭いし重量も軽いし、自由に方向が変わって色んな道路を縦横無尽できる、今、沢山の道で停まった車があるから、障害物を超えられるこの車、ちょっといいね!」

 「それじゃ、車の動力源は?」と紀序くんはダッシュボードに目が行った。

 「主に電気だけど、電気が不足になったら、予備用のガス貯めも使える。もう調べたわよ。満充電の状態でこの車の航続距離は90キロメートルまで。」

 「もう路線を話し合って決めた?」

 「私は西北の道で、甲府市を通って来た…でも、あの道は十分危ないと認めないといけない。」

 「そうか、二つの道があると思う。速度、それとも安全、二つの選択肢で一つしか選べない。きっちり話し合わないとだめだ。」と私はドアを開けて、地図の本を差し出した。

 「必要な前提がある。なるべく高速道路に入らない。大疫病が始まったばかり、多くの人は車で逃げたせいで、車がそのまま道路を阻んでる。」

 「西北へ向かわないなら、次の道は?」

 「次の道はね、埼玉を通って長野の東南に入る。この道は人気がない…って意味は感染者が少ないはずだ。でも、もっと時間かかる。」

 「私は松本から東京への高速バスに乗ったことある。西北のは確かによく使う道だ。」と紀序くんは柚依の顔を見る。「平山さんは長野出身ですか?あそこの交通に詳しいですか?」

 「はい、生まれてからずっと長野に住んでいます。でも、長野は広いから、各地の道は詳しく分からない…」

 「それに、もう一つのことを考える必要がある。もし能登三佐たちが私たちを捜したいなら、多分常用の道からね。山梨と長野の境界線の辺り、また小さい安全ゾーン三つある。あそこの民兵と喧嘩したくないよ!」

 「そう言えば…埼玉の遠い道はもっといい選択?」

 「投票で決めればいいわ。とにかく、民兵や自衛隊が私たちを追いに来ないうちに、速く出発しよう。」

 「あの、もし安全ゾーンからヘリコプターが追捕に来たら、どの路線でも捕まっちゃうね?」と柚依は心配して私たちに問う。

 「それなら、心配しなくても大丈夫。自衛隊のパイロットはもう何人かしか残ってない、私たちも別に偉い人物じゃないから、ヘリコプターまで派遣できない。」

 「はい、えっと…やはり埼玉に行こうか。長野に入る前に、誰かに傷ついてほしくないから。速度を選ぶより安全だ。」

 柚依が選択した後に、紀序くんも自分の意見を言った。

 「基本的に、僕は平山さんに賛成しますよ!でも、遠い道を選んだら、他の悩みもあります。」

 「ガスなら、途中でガスステーションを見つけないと。道はそんなに遠いとは思えないから、予備のガスを貯めてない。」

 「それより、あなたの運転に不安が募ってる。」

 私から見れば、紀序くんは私を信用しない上に、拗ねていそうだ。でなければ、疑いがあっても心に留める。この子ったら、よく従順の様子をするのに、意外に黙って拗ねることも堪能だ。

 「この選択よりいいのがない。或いは自転車に乗りたいの?重い荷物を負ったままで、一週間かかっても長野に着けないこと、心配するね。」

 紀序くんは鼻で「フン」と鳴らした。いつもの通り仕方なく私の計画を受け入れた。もちろん、気まぐれで柚依を助けたいことではない…父は私のメールを読んだ後に、柚依の病状に深い興味を持っていると伝えた。彼女の免疫システムはワクチンを作れるキーポイントの可能性があるので、観察し続けてお願いって頼まれた。

 それに、父からの悪い知らせもある。富山県の安全ゾーンにある医療団がウイルスが細胞に入り感染するのを抑える薬を発明した。しかし、進化者に襲われたせいで、安全ゾーンが焼け失せた。医者たちは行方不明で、最後残したメッセージは||進化者に拉致されて、研究の資料と薬物を持たされたって。

 富山は長野の隣なので、両地域の進化者群れは連絡し合うかもしれない。

 新薬の原料は偶然に前に働いた研究所に貯めたって父も言っていた。私もあの研究所に行ったことがあるが、暫く原料は取れないようだ。今は紀序くんと柚依に、私が考える計画を余計に知らせないほうがいい。


 「じゃ、二人ともベルトを締めて。出発しよう。」

 私はエンジンをかけてハンドルを握る。人生で初めての長途のドライブに挑むことが死人まみれの環境だと思うとなんて刺激的だ。

 私はわざわざ窓を開けて、周りの道路を見通して問題ないと確認した後で、アクセルを踏んで前に進む。

 この三輪車を運転する感じは、自動車よりクルーザーに似ている。十分ぐらい経った後で、もう車のAI自動運転システムに慣れた。敵に襲われなければ、あまり事故や迷うことに悩まない。

 しかし、後ろの二人は緊張でたまらなく見えて、もし彼たちに紙とペンを渡せば、きっと待たずに辞世の句を書いておく。

 「柚依、紀序くん、ちょっと楽にするよ。外の景色を見ながら、敵の姿も留意してね!」

 「あの…この車は確かに軽いけど、たぶん堅くないね?」柚依は質問した時、頑張って微笑んだけど、表情が逆に固くなってしまった。

 「心配しないでね、この車はハイテクな回転儀が付いてるから、ぶっつけられても転倒しにくい。」

 「でも、何か衝撃があったらくぼみやすい感じがする…」

 「大丈夫。そんな時にこの車がどんなに堅いか分かるよ!」と私は神妙な様子をして答えた。

 進化ウイルスの重要な情報を手に入れる前に、もし私たちが事故で死んでしまったら面白くない。私だってそんなことを許すわけがないね。お父さん、待っててよ!私は人類を救うかぎを見つける。人類という動物は、もっと進化しないといけない。



 天笠紀序の視界(точка зору Норіцуня)


 スヴィタ姉と知り合ってから、彼女は時々常識外れの行動を取るので、彼女の友達と仲間になりたいなら、肝っ玉が大きくない人ではだめだ。でも、僕が怒っているわけは、僕たちは一緒に嵐を凌いだのに、なぜ重大なことを決める前に、ちゃんと僕と話してくれない?

 今、僕は自分がまるでかずら橋を渡るようだと感じて、進んでも折返しても難しい上に、気をつけないと落下して身が砕けることになってしまう。

 スヴィタ姉はどういう訳で平山を助けたい?彼女は冒険が怖くないけど、同時に自分のリスクと利益を細かく計算するに決まっている。彼女は一体平山さんとどんな約束をしたの?僕はどうやって問いかければいいの?

 僕は窓から外を見ると、絶えない緑色の田圃と森が僕の目に入る。僕の思いは徐々にスヴィタ姉と初めて会った日に戻った……


 学校のみんなにとって、昼ご飯の時間にグループで食べりのは当然の事だ。でも、僕は偶にクラスメイトを避けようとする。特にテスト直前に。もうすぐ三年生になる学生として、両親と先生だけではなく、クラスメイトとの比較も圧力を与える。

 僕は成績がトップ10%だが、クラスメイトと一緒にいる時、優勝劣敗の競争での激しい圧力を感じる僕は居ても立っても居られない。毎回の試験のミスは僕の頭に残り続ける。

 今日、僕は弁当を持って音楽と芸術ビルの屋上に行った。ここは殆ど他の学生がいないから、しばらく嫌なことを忘れられるいい場所だ。

 ドアを開けると、気楽な歌い声を聞くとは思わなかった。このいい場所は、まさか他の人に占められている…

 僕は音源に目が行き、高等部の制服に目立つ金髪と緑の瞳、彼女はあの有名な先輩に違いない。でも、名前は何だっけ?ちょっと思い出せない、日本とウクライナのハーフということしか覚えていない。

 彼女が歌っている歌詞が分からないけど、歌の強烈な活力を感じられる。考えずに手でリズムを合わせて拍を打っている。

 歌が終わると、自分は彼女を邪魔してしまったと気付いた。

 「先輩、すみませんでした。わざと邪魔する気はありません。」とすぐ彼女に謝った。

 「気にしないでください。君は中等部二年生でしょう?お名前は?」

 「はい、2―Eの天笠紀序と申します。」

 「天笠くん、私が歌った曲はね、ポーランドとウクライナの民謡『おい、隼よ!』。この曲は19世紀の詩人が書いたものです。あるコッサクの戦士は彼の恋人と故郷に別れを告げるシーンを描く。君はこんなに専念して私の歌を聞いてくれたから、歌について教えましたわよ!」

 「先輩の歌い声は感動的だと心からそう思うんです。」

 「そうですか?でも、歌い人の心が違えば、歌い声も聴き手の感じ取り方が変わりますよ!天笠くん、さようならの曲は、どんな時に歌えば一番人心を打つと思いますか?」

 「えっと………自分は家族や親友を離れる時かなと思います。」

 「私なら、他郷で流浪して故郷へ戻れない時で、さようならの曲を歌うと、その悲しくて寂しい美しさが忘れられないと思いますよ。」

 先輩の話を聞いた後、瞬間に背筋が寒くなってしまった。

 「すみませんね、余計な話言っちゃいました。経験談だけしたつもりだけど。」

 「いえいえ、曲の知識を教えてくれてありがとうございます。」

 僕は座れるところを捜してご飯を食べ始めた。そして、先輩を何回も覗いた。明日…またここにくるのかな?


 少し躊躇っていたが、次の昼、僕はまた屋上に来た。どうせ教室の焦燥感に比べたら、性格が格別な金髪先輩は僕にとって大した問題ではない。

 「天笠くん、こんにちは。今日もここで食事しますか?」

 「はい、先輩。」

 「ここに来てください。」と彼女は僕に手を振る。

 そして、僕に千円札を渡した。

 「購買部に行ってレモンティーを買ってください。あと、自分が飲みたいドリンクも買っていいですわ。」

 何だ、僕を使うか…まあ、美人の先輩にものを買ってあげて、報酬ももらえるから、一応引き受けられる頼みだ。


 僕が戻った後、先輩がご褒美の笑顔を作った。

 「私の側に座って話しましょうか!」

 「先輩、ちょっと失礼ですけど、どうして僕が金を取って二度と戻らないことを心配しなかったんですか…昨日、先輩と出会ったばかりですよね?」

 「今日はまたここに来たじゃないですか?」

 先輩が何を言っているか、全然分からない。

 「屋上で何人か、男子も女子も出会ったことがありますけど、彼たちは再び戻る勇気がなかったです。またここに来たってことはこの場所は君にとって意味があるらしいです。もしお金を盗んだら、戻ってこれないでしょう。」

 「そうですか…ハハ。」

 僕は確かにある先輩に関わる噂を聞いた。彼女は孤高の美人であまり友達がいない。教師でもちょっと彼女を恐れる。しかし、それは彼女が団体に馴染めない表現だけかもしれない。

 先輩の近くに座ると、彼女のスタイルは僕が思ったより良いと気付いた。スカートから出ている長い足、制服を引っ張る豊かな胸、彼女は明らかに同年代の女の子より成長が著しい。さすがヨーロッパの血が入ったハーフだ。

 「ちょっと、先輩、すみません…名前を聞いていないですけど。」

 「竹島スヴィトラナと言います。この名前はウクライナ語で「光の女」って意味です。」

 「竹島先輩の金髪はまさに光っていますね!」

 先輩は僕の褒め言葉を聞くと、眉をしかめた。やばい、考えずに彼女の金髪を褒めた。もし彼女は人の目を集めるのが好きではなかったら…

 「あの…何か変なこと言っちゃったかもしれません。」

 竹島先輩は頭を左右に振る。「いえ、褒めてくれてありがとう。でも、私はハーフじゃないほうがよかったと思います。それなら、私の人生は変わっていたかもしれません。気にしないで。」

 先輩は僕の弁当を見る。「お母さんは毎日弁当を作りますか?」

 「いいえ、一週間に三回か四回ぐらいです。たまに学生食堂の食べ物を買いたくなります。」

 「いいね、私の父は仕事で忙しいので、自分で料理を作ったり、販売部に行ったりします。しょうがないですね。」

 「僕も自分で料理ができます。一か月に五回ぐらいかな、勉強で疲れた時の趣味としてやります。」

 「ところで、成績はいいでしょう?昨日、廊下で成績の発表を見ました。学年で30位ですね。」

 「ありがとう先輩。いつも勉強して大変ですけど。」

 「そうですか。『知識こそ力』って言葉を聞いたことあります?人間は知識で輝く文明を作りました。どんな動物も私たちの敵になれない。」

 彼女は話の繋がりを変えて、嘆きそうな口調で「でもね、私たち人間はまだ弱くて、疫病やら飢饉やら戦争やら老化やら、私たちが容易く亡くなることは多すぎます。」

 「確かにそうですね。人間の技術がいくら発達しても死亡から逃れられないです。」

 「人間が求めるべき目標は、完璧な方向に進化することです。」

 竹島先輩が言った「完璧」は何か分からない。抜群の知力、それとも強壮な体なの?どういう訳か、彼女の心にいる理想的な人間は一般人が思うのと遥かに違うと感じる。

 「先輩、どの領域の知識に一番興味があるんですか?」

 「医学、生物学、人類学、歴史学、心理学…こられの学科を習えば、人類って動物はどうやって世界各地に居て、複雑な社会の体系を建立できることが分かりますから。」

 先輩の答えでちょっと驚いた。普通の高校生が知っている学科なら、多分数学、国語、歴史、物理、化学など、でも、彼女はもう気に入った大学の学科を見つけた。

 「先輩は優秀であまり高校生らしくないなと思いますね。」

 「そうですね。よく同年代のみんなと上手く付き合いにくいと感じます。」

 竹島先輩はごくごくドリンクを飲んで、また話し始める。

 「だから、私は常にどこかに身を隠して、静かに将来の事を考えます。私ね、絶対に人並みが嫌いです。」

 僕は突然言葉にできない喜びを感じる。やっと自分みたいに人々を遠ざける方と出会った。僕は孤独な変人ではない。


 その後、時折屋上へ昼ご飯を食べに行った。しかし、毎回竹島先輩に会えるわけではない。もし先輩に会ったら、彼女は気兼ねなく僕を使った。でも、嫌ではない。だって、彼女に色んな知識を教えてもらって、暫く勉強の悩みから解放できる。

 「大疫病」が爆発的に起きた後で、彼女はゾンビになってしまった僕の家族から、僕を救った。あの時、この先輩と知り合って、本当に運が良いと心から思った。

 ただし、彼女がどこまで僕を信じているか確認できない…僕は運転席で一心不乱にドライブしているスヴィタ姉を見ている。彼女は仲間を見捨てないし、仲間の命も賭けないことを知っている。だが、彼女は専断で我が儘なせいで、将来、また想像できない危機に巻き込まれるかもしれない。

 あ、人生は儚いんだ。自分は再び地獄へ戻らないと思ったのに。

 「天笠くん、大丈夫ですか?顔色が悪いよ。車酔いしましたか?」

 「平気です。ただ過去を振り返っていました。ありがとう。」

 「あの…もう一度謝りたいです。天笠くんを巻き込むつもりはなかったです。もし私がもっと強ければ、みんなを救えるのに…」

 「大丈夫です。この狂っている秩序のない世界で武器を構えて他人のために戦うだけで勇敢です。」と僕は平山さんを慰めてみた。

 「みんな、前方に敵がいるよ!しっかりつかまって!」とスヴィタ姉は頭を回して僕たちに注意した。前を見たら、猿みたいな怪物が車を睨んでいる。

 あいつは「類人猿モンスター」、ウイルスに感染して肢体が異常に発達している人間だ。あいつは屋根で飛び回って、人を襲う機会を狙う。

 「ライフルでいい?」と僕はライフルを備えた。

 しかし、スヴィタ姉はちょっとだけスピードを下げて車を止めていない。類人猿モンスターは僕たちに駆けて来て、互いの距離が近くなっている。

 「注意しろ!」とスヴィタ姉は力んでアクセルを踏んだ。僕がまだ反応できないうちに、車は怪物を突き転ばした。僕はものが砕けた音を聞いたけど、ガラスもエンジンも無事のようだ。彼女はちょっとハンドルを切り、倒した怪物を避けて進む。

 「弾薬を無駄に使う必要ない。」

 スヴィタ姉の運転技術がまるで007シリーズの主人公のように勇猛だとは思わなかった。彼女は時機に投じて、怪物が跳ぶ前に直接突き当たった。僕は後ろを見る。あいつは必死に立とうとするが、前肢の骨が折れそうだ。

 この軽い車が怪物をボロボロにするなんて。

 「この車、超がっしりだね…」僕だけじゃなくて、平山さんも車の頑丈さが不思議だと思っている。

 「十年前、京都大学のある研究部門は木材からナノメータの繊維を分離して作った。この繊維は鋼鉄より五倍堅くて、鋼材と混ぜると軽くて強靭になる。しかし、生産コストが高いので、これで造った車は少ない。」

 「スヴィタ姉、車にも詳しいこと知らなかった。」

 「別に、父の車も同じ材料だから。」

 僕は携帯を持ちあげて、運転中のスヴィタ姉の写真を何枚か撮った。

 「紀序くん、何を撮った?」

 「運転中の英姿を記録したいから。」

 「英姿?あなたの言葉は独特だけど、好きだね。」

 「ところで、日が沈む前に、休憩できる場所を見つけたほうがいいね?」と平山さんはスヴィタ姉に聞いた。

 「そうね。夜行したらめっちゃ危ない。早く暫く泊まれるところを探そう。」

 僕はスヴィタ姉の運転技術(あとこの車)がもっと信用できるようになったけど、嵐の中で航行している船員みたいに、船が岸に着くまで一刻も安心できない。


 「正直に言えば、もう疲れちゃったよ!九時になったら寝るね。」

 「紀序くん、大切な仕事を忘れた?私たちは交代で夜間哨戒をしなくちゃ。」

 「さっき、もうこの辺りのゾンビを片付けた。このぶどうだらけの田舎では、多分感染者が少ないだろう。」

 午後六時、つまり日が沈んでいる時間に、僕たちは一軒の農家に宿を求めた。でも、ゾンビになった家主たちが同意するか意思確認できないので、棍棒と軍刀で彼たちを安眠させるしかなかった。

 この農家は太陽光発電システムを設置しているおかげで、電気が正常に使える。僕たちはIH調理器で量が少ないけど美味しい晩ご飯を作った。もちろん、調理の役は僕だ。ウクライナの血の影響かもしれない、スヴィタ姉は料理のセンスが独特だ。だから、安全ゾーンにいた時でも彼女に調理の役を頼んでいなかった。

 僕はオニオンスープと貽貝の缶詰めを混ぜて、海鮮スープを作った。スープはトマトとオニオンの酸っぱい味で、少しペッパーを入れたら更に美味しくなった。

 「もっとサワークリームとマッシュルームを入れればいい、味が濃くない。」

 スヴィタ姉の評価を聞くと、泣いても笑ってもいられない。初めて彼女の作った野菜スープを飲んだ時、僕は歯を食いしばって、油っこくてバターいっぱいのスープを飲み尽した。僕は彼女に文句を言ってみた時、「料理の味より、ウクライナ人は栄養のほうが一番だと思う。これは私の祖先が劣悪な環境で生きてゆけた理由の一つだよ。」と彼女が返答した。

 でも、平山さんは結構僕の料理を褒めてくれた。

 「天笠くん、ありがとうございます。スープを飲んだら、体の疲れが消えたなと感じます。」

 「そう褒めてもらえば、このスープを作ったかいがあります。」

 自分の料理を褒めてもらったのは、確かに嬉しいが、自分は家族を失ったせいで、無理に色んな料理の作り方を習ったことを思い出すと、心の中でため息をついてしまった。

 「僕はファストフード店のハンバーガーとかチキンとかフライとか恋しいな!以前、両親はいつも僕にジャンクフードを禁止してた。でも、こんな時はジャンクフードも夢幻の美食になるんだ!」

 「中学三年生になると、初めてファストフードを食べた。そして、瞬間に世界が壊れちゃった。」とスヴィタ姉はスープを飲んだ。「三十年後、ハンバーガーやチキンは、人間の記憶の中で前の文明を記念する象徴になるかもね!」

 「スヴィタ姉は悲観的過ぎない?」と反論したかったけど、道で見た悲惨な光景を考えると、話をやめた。

 「ラーメンも煮たから、冷めないうちに!」と僕は彼女たちにラーメンを渡した。

 「これ凄くいい味ですよね!」と平山さんがまた褒めてくれたのに、スヴィタ姉は何も言わない。いいか、彼女の味覚は変わっているから、文句言わなければ、ご褒美だと思う。

 「ラーメンに七味や香辛料を入れました。チャーシューとか卵とかないので、ラーメンの香りを強めてみました。」

 僕はラーメンをじっくり噛んでいて、味を自分の口で長く残せるように。


 「ちょっと聞きたいけど…私たちが持っている食べ物は何日分?」

 「倹約して食べれば、十日を過ごせる分がある。もちろん、最初から道で補給品を探すつもりはある。」

 平山さんの質問は、僕にもう一つ大切なことを思い起こさせる。「最も遅くても明日の午後、予備用のガスを集めなけりゃ、でしょう?」

 「そうね。明日私たちは冒険して近くの町に行く必要がある。そこにはでガスステーションがあるから。」

 スヴィタ姉はガスを使い尽したことを全然心配していない。これは多分大疫病が起きてから、人々の死亡が速すぎるせいで、車の運転に費やした機会がないからだろう?

 僕は窓の外に目を向ける。今夜の空は曇で月が見えない。その上、偶に響き渡る怪物の叫びもある。あの有名な監督であるジョージ.ロメロが生きていたら、きっとそういう舞台を大変愛しただろう。



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