VSデーモンⅡ

 剣を投げ捨てたデーモンの周囲に黒々とした魔力が集まり始める。その魔力に触れると周囲にわずかに生えていた雑草が次々と枯れていくのが見える。

 そしてデーモンの手の中に大きな魔力の塊が出現した。


「ではまず小手調べといきましょうか」


 そういってデーモンが魔力の塊を俺に向かって投げつける。彼は詠唱すらしなかったが、こんなものは魔法ではなくただ魔力をぶつけているだけということだろうか。


 だが、俺は手に持っている剣を信じることにする。玉鋼は物理的な強度だけでなく魔術的な強度も兼ね備えている。それにより打たれた剣ならこの程度の魔力も怖くないはずだ。

 魔力というのは目をこらしてみると流れのようなものがある。もちろんそれは誰にでも分かるものではないが、アリカやセレンのような魔力を持つ者と共闘し、このような膨大な魔力の敵と戦っているとおのずと見えてくる。

 だから魔力を霧散させるにはその流れを乱すように刃を入れればよい。


「はあっ」


 俺が剣を振るうとかたまっていた魔力は音を立てて爆散した。

 それを見てデーモンの表情が変わる。


「なるほど……ならこれはどうかな?」


 すると今度はデーモンの周囲に今の魔力と同じぐらいの大きさの球が六つほど出現し、一斉に俺に向かって飛んでくる。六つ同時に魔力の流れを見切って斬りつけるのは不可能だ。

 仕方なく俺は大きく跳躍し、魔力のかたまりの隙間を縫うように回避していく。俺の耳元やわき腹のすぐ隣を魔力のかたまりが通過していき、一瞬心臓が凍りそうになる。


「ふん、これで避けきれたつもりになるなよ?」


 デーモンは不敵に笑った。すると今度は避けたはずの魔力の塊がブーメランのように俺の体に向かって戻ってくる。


「そんなことが出来るのか!」


 だが魔力の塊が俺を追ってくるというのであればやりようはある。俺はインプと戦っているメリアとセレンの方へ駆けていく。


「伏せろ!」


 俺の声で二人が慌ててその場に伏せる。俺はインプにぶつかりながらもその場をただ駆け抜ける。爪や牙で攻撃されてダメージは受けるが所詮それだけだ。


 すると。


 俺を追尾するいくつもの魔力の球がその場に残されたインプたちを蹴散らしていく。

 キキィッ、と耳障りな悲鳴を上げてインプたちは次々と魔力にぶつかって命を奪われていった。さすがにデーモンの全力の攻撃だけあってその威力はすさまじい。


「セイクリッド・ブラスト!」


 インプの攻撃から解放されたセレンがすかさずデーモンに攻撃魔法を放つ。デーモンはそれをあっさりとかわしたが、集中がとぎれたせいか俺を追っていた魔力の塊はそのままあらぬ方向へと飛んでいき、山肌を大きくえぐって消滅した。

 幸いメリアとセレンはインプの数と素早さに翻弄されたものの、大きなダメージを受けた様子はない。


「助かったぜ、お前の魔力のおかげで邪魔なインプたちを一網打尽に出来た」

「おのれ……とはいえあのような下級魔族、いてもいなくても変わらん」


 そうは言うもののデーモンは少し悔しそうに歯ぎしりしていた。


「大丈夫?」

「ああ、俺はほぼ無傷だ。だがあいつと魔法勝負になれば俺たちではさすがに勝てない。魔法を使う間もなく攻め込むぞ」

「分かったわ」

「セレンは変わらず援護を頼む! 敵が押されているとなったら遠慮なく攻撃魔法を使ってくれ!」

「分かりました!」


 こうして今度は俺とメリアの二人でデーモンに斬りかかる。

 デーモンの正面で俺たちはぱっと左右に分かれ、挟撃の構えをとる。


「こざかしい、何人来ようがまとめて葬ってくれる! ブラック・ストーム!」


 デーモンはいくつもの魔力の塊を出現させると一斉に俺たちに向かって発射する。


「セイクリッド・シールド!」


 が、それらの攻撃はほとんどがセレンの防御魔法によって止められる。さすがにセレンの魔力はデーモンには及ばないが、一瞬でも防いでくれれば十分だ。その隙に俺とメリアはデーモンに向かって斬りかかる。


「ダーク・シールド」


 すかさずデーモンは自身の周辺に魔力の盾を展開し、俺たちの攻撃を防ぐ。

 が、デーモンは一度に複数の魔法を使ったことで強度は落ちていた。


「喰らえっ!」


 俺の剣がパリンっ、と音を立ててデーモンの魔法を叩き割る。

 そしてその勢いで俺はデーモンに斬りかかった。


「おのれ、人間風情が……」


 突如デーモンから異様な雰囲気が発されたかと思うと、まとっていた服がびりびりと破れて体が肥大化し、魔物のような鱗がびっしりと全身を覆っていき、人型から竜種のような外見へと変化していく。

 これが奴の真の姿か。だが、わざわざ真の姿になるのを待ってやる道理はない。


「させるか!」


 変化途中に俺は剣を振り降ろす。剣はデーモンの固い鱗に阻まれるが、玉鋼のきらめきはデーモンの鱗すらも切り裂いていく。


「ぐああああああっ」


 脇腹の辺りを切り裂かれたデーモンは大きく悲鳴を上げながらも反撃に転じようとする。


「させない!」


 が、そこへメリアが斬りかかったためにデーモンの右手はメリアの攻撃を受け止めるのに使われてしまう。メリアの剣はデーモンの右腕を切り裂こうとして、鉤爪で受け止められ逆にボキリと折れた。


「セイクリッド・ブラスト!」


 そこへセレンも攻撃魔法を放つ。するとデーモンは口から瘴気のようなものを吐き出してセレンの攻撃を防いだ。おそらくそれで反撃するつもりだったのが、防御に使われたのだろう、デーモンは俺への応戦に手が回らなくなる。


「これで終わりだ!」


 俺は今度こそ全力の突きをデーモンの胸の辺りに繰り出す。

 ぶすりっ、という鈍い感触とともに俺の剣は鱗を切り裂いてデーモンの胸に食い込んでいく。


「ぐああああああああああああああああああああああああっ」


 デーモンは耳をつんざくような断末魔の叫びをあげるとその場にばたりと倒れた。

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