玉鋼

「グリンドさん、ようやく玉鋼と碧鋼の精錬が出来たぞ」


 ギルドにいる俺の元にギルムが報告にやってくる。鉱山で採掘した鉱石はこの村に移送し、工場で精錬していたがようやく最初の精錬が終わったらしい。


「何もない状況からよくここまでやってくれた。鉱山の方もあるのに、大変だっただろう」

「いや、お金と人手だけでも用意してもらえたからまだ楽だったわい。昔は近くに誰も住んでいない鉱山に行って我らだけで全部やったこともあったからなあ」


 そう言ってギルムは豪快に笑う。彼らのような何でも出来る集団が来てくれて本当に良かった。


「おぬしこそ、何もない村をよくぞここまで発展してくれたものだ」

「ギルドマスターやアリカの協力や、色々幸運にも恵まれたからな。よし、早速見せてくれ」

「もちろんだ」


 俺は立ち上がるとギルムに続いて工場へと歩いていく。工場も最初は粗末な一軒家に魔導炉を設置しただけの質素なものだったが、最近は庭に屋根だけ設けて五つの炉が並べられている。


 耐熱性の金属で作った容器に鉱石を入れ、そこで高温で熱することにより目的の金属だけが溶解し、取り出すことが出来るというのが大ざっぱな炉の仕組みだ。

 もちろん簡単に作れるものではないが、ギルムたちは魔導炉の核となる魔導石を持っていて、炉の形を作ってそれをはめ込むだけでどこででも炉を建てることが出来るらしい。魔法の術式を込めた魔導石という存在は広く知られているし、俺も使ったことはあるがまさかこんな使い方をされているとは思わなかった。


 炉の前では雇った村人や外から雇った人たちが石を運んだり、燃料をくべたりとせわしなく動いている。つい最近出来たばかりではあるが思ったよりも作業は軌道に乗っているようであった。


「短時間でよくここまで工場を作り上げられたな」

「これまで色んなところでやって来たからな。慣れた」


 そう言ってギルムは工場の隅にある倉庫に案内してくれる。するとそこには箱に入れられたきらきらと輝く玉鋼と碧鋼があった。

 見た目がきれいなのは碧鋼で、元々は濃い緑色の金属だが、ドアが開いた拍子に外からの光が差し込むときらきらと表面が光る。また、俺が魔力を流すとそれに反応して少し透き通った色に変わる。

 一方の玉鋼は見た目は白く鈍く輝くだけであまり鉄と変わらない。しかし他のどんな金属で作られた剣も玉鋼であれば弾くことが出来ると言われている。


「ふう、これでやっとギルドマスターからもらった支援を返すことが出来る」

「とはいえグリンドさんはそれだけでいいのか?」

「俺か? 別に金が欲しくてこの仕事している訳じゃないしな」


 そもそも元々金は冒険者時代の貯金が残っている。ギルドマスターになっているのは成り行きという面が大きかった。もちろん、良いギルドを作りたいという気持ちは常にあるが。金についてはおいおいもらえる手はずにはなっているからそれでいいだろう、というぐらいの気持ちだった。


「まあそう言うと思ったぜ。だから知り合いの鍛冶師を呼んだんだ。おい、オンドル」


 ギルムの言葉に応じてギルムと同じドワーフの男がのそのそとこちらに歩いてくる。こちらも日焼けしたがっしりとした体躯のいかつい男だった。


「こっちのオンドルは俺が知っている中でも最強の鍛冶師なんだ。金がいらねえって言うなら玉鋼でいい剣を一振り打ってもらおうと思ってな」

「なるほど、確かにそれはありがたいな」


 玉鋼の剣と言えば全ての剣士が一度は憧れるものだ。実際は原価の高さや、そもそも玉鋼をまともに加工できるほどの鍛冶師が少ないから断念されることが多い。俺も純粋なパワータイプの剣士というよりは魔法を併用して戦う戦士だったので最強の剣はなくてもいいかと思い、これまで持たずにきた。


「でもいいのか? 剣一振り打てる分の玉鋼があれば一年以上遊んで暮らせると思うが」

「大丈夫だ、これは俺の勘だが多分ここの山からはまだまだ玉鋼が出る。だから最初の分はお礼ということで剣にするぜ」

「そういうことならありがたくもらっておこう」

「うむ、わしも一度玉鋼で存分に剣を打ってみたかったところだ。なかなか玉鋼で剣を打ってくれという豪気な依頼をしてくる者はいないからな。それに我が自慢の剣を使ってもらうにはそれ相応の使い手が必要だ」


 そう言ってオンドルも満足そうに頷く。


「それなら本当に俺でいいのか? 今はギルドマスターをしているし、正直あまり使う機会があるとは思えないが」

「大丈夫だ、おぬしほどの腕の持ち主であれば望むと望まざるとに関わらず、使う時が来るだろう」


 そう言ってオンドルは意味ありげに笑う。そこまで言われては俺に異存はなかった。


「では今使っている剣を見せてくれないか? それに合わせて大きさや重さを調整しよう」

「分かった、頼む」


 最近は街に冒険者が増え、俺自身が戦いに出ることは減っていたので剣を渡す。今使っているのはちょっと上等ではあるが普通の剣だ。が、その剣を見たオンドルは小さく感心の声を上げる。


「なるほど、なかなか使い込んでいるようだな。よし、必ずやこの剣を超える名剣を打ってみせよう」

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