和解

 俺がアルムの町に引っ越してから数日が経った。

 当初は家をどうしようかと思っていたが、ゲルドの手下たちが出ていって空いている家を、俺の仕事を評価してくれたギルド長の口添えで安く譲ってもらえることになった。


 ギルドでの仕事も少しずつ慣れていった。コリンズとの関係は気まずいままだったが、それでも正面から俺に突っかかってくることはなかったし他の職員とは少しずつ打ち解けていった。


 そんなある日のことである。受付係の職員が急病にかかったので俺とコリンズはたまたま受付の仕事に駆り出されていた。

 そこへ一人の冒険者が依頼を終えて報告に戻ってくる。確か彼は周辺の森から稀少な薬草を採ってくる依頼を引き受けていた男で、コリンズが管理していた依頼だった気がする。


「依頼が終わりました。これが指定された薬草です」


 そう言って彼は採ってきた薬草をコリンズに渡す。彼はそれを受け取って間違いないか確認する。


「よし、これで問題はない。ご苦労だった、これが報酬だ」


 そう言ってあらかじめ依頼主から預かっていた報酬を渡す。

 すると冒険者はぺこりと頭を下げた。


「あの、この依頼の難度を修正していただきありがとうございました。元々Dランクの依頼だと思って軽い気持ちで受けたのですが、Cランクに修正してもらえたおかげで他の冒険者の手を借りていくことにしたのですが、そうでなかったらきっと負傷していたでしょう」

「そ、そうか」


 思いもよらない言葉にコリンズは困惑しながら頷く。


「これまでは依頼の難易度が適切かどうかは受けてみるまで分からないところがあったのですが、今回は助かりました」

「いや、何、当然のことをしたまでだ」


 そう言ってコリンズは照れくささと気まずさが混ざった表情で咳払いをする。


「お忙しい中ありがとうございます」


 そう言って彼は何度も頭を下げながら帰っていく。

 それを見てコリンズは気まずそうにこちらを向く。


「今までは言われた仕事だけやればいいと思っていたが、冒険者のことを考えるのであればやはりそれだけでは良くなかったようだ。お前の言っていることが正しかった」

「他のギルドで働いた経験があったから分かっただけだ」

「そうか……初日はあんな風に突っかかって悪かった」


 そう言ってコリンズは頭を下げる。それを聞いて俺はほっとする。彼に嫌われても業務に支障が出る訳ではなかったが、ずっと職場の空気が悪いのはやはり嫌だ。


「俺は別に気にしていない」

「そうか。ならば厚かましいかもしれないが、一つ頼んでもいいか?」

「何だ?」

「俺は一人で依頼の難易度確認作業をしていたが、やはりそれだと時間がかかってしまう。だからいいやり方を教えて欲しい」


 確かにこれまで俺に対して冷たい態度をとっていたのに手の平を返したように教えを請うことにためらいがあるのだろう。

 とはいえ俺としては出来れば彼とは今後もうまくやっていきたかったのでそのことでねちねち言うつもりはなかった。


「分かった。代わりにこの周辺の魔物のことを教えて欲しいんだ。俺は来たばかりで分からないことも多いからな」

「それなら任せてくれ」


 俺が拒否しなかったためか、彼はほっとした顔で言った。

 こうして俺が町に越してきてからずっと気にしていた職場の雰囲気の問題は解決したのである。

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