衣・食・銃 全16話+おまけ

旧15話：おみやげ

　治安のよい地域で眠れるのは、レタには久しぶりのことだ。

　どんなに堅牢そうなホテルでも、やがては出発のときが来るし、内部に入り込むこそ泥だって決して珍しくない。野宿の日は壁もないので、近づいた者を先に見つける必要がある。さもなくば文句が言えない結果になる。

　今日はケイジの家に泊まる。塀と警備のおかげで街に入るだけでも信用が必要なおかげで、周囲の治安はどこよりもよい。もし鍵をかけ忘れてもまだ普段よりリスクが低い。

　夕方に着いた時点で、浴室を用意されていた。有能なハウスキーパーを雇っている様子で、一人ずつ順番にでありながら、まるで人数分の部屋があるように感じた。

　ケイジが先に、その間にレタは届け終えた記録と、道中でのケイジについてあれこれ質問を受けた。ケイジの母が気にする話は、邪魔にならなかったかとか、失礼がなかったかだった。

　これに対しては正直に、ケイジのおかげで助かったこともあると答えた。初めは体力に難があったが、すぐに追いついた。面構えや心持ちも、はじめの印象とは様変わりしている。これは出迎えのわずかな時間でもわかった内容で、こうしてレタから聞き、気のせいではないと確信したのだ。

　浴室をレタが使う番だ。これまでは隙を減らすために、洗うにしても部位ごとに洗っていた。顔だけとか、右脚だけとかを、順番に。

　それが今日は、体の隅々まで入念に洗い、全身が同時にすっきりした。数年ぶりに味わう感覚だ。ずっと忘れていた、優雅なひとときになった。

　その後では食事も用意されていた。運び仕事で到着が遅い時刻のとき、ご馳走してもらえる機会は何度もあった。今日は明らかに格上の料理になっている。ヒレ肉をナイフで切りつけたら、拍子抜けするほどあっさりと切断された。ここまで柔らかくする方法があるとは知らなかった。

　そんなことがあって、寝室もやはり上等だった。柔らかな寝台が体重を分散してに受け止める。立った姿勢と寝た姿勢を比較して、背骨の曲がり方が同じになるのがよい寝具だ。腰の下に手を入れるには隙間がない。これもよい寝具の条件だ。

　ただの客人のために用意された部屋でさえ上質とあって、レタが今の暮らしを始める前を思い出した。巨大な変化があっても、習慣は変わりない地区もあったのだ。

　そんな部屋でも、念のため罠は仕掛けてから眠った。窓や扉を開けたら、音で教えると共に、一度は開いた痕跡を残す。元通りにするには、初めの状態を知っておくか、偶然にも同じ状態に戻すしかない。

　寝付いた後、深夜に扉が開いた。

　寝具の上質さのおかげで、レタの眠りは深く、普段なら気付く音が鳴っても眠ったままだ。入った者は驚きながらも、そのままで寝台の隣へ向かった。

　枕元に手紙を置く。