2 招待

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



4/10 9:00


「くあああ!」

真っ赤な髪をした和装の女性が伸びをする


(のどかな所じゃの~)


火の国を抜けてしばらくになる

周辺にまだ活気は足りないがやっとこさっとこ人間が幾人見えて来た所

ちらりほらりと商人達の馬車も通る、ので一応は大きな通りまで来れたのであろう


因みに『火の国』と言っても地域名であり、火まみれとか暑いとかそういった意味では無い



(う~む、そろそろ何か口に入れたいところじゃが)


「酒が飲みたいのぉ」


ここ五日程、村と言う村が無かったので『補給』が出来ていない

正直な所そろそろ通る人間からでも何かを奪いたいくらいだ


(やっと王都が見えて来たか)

右方面3~40キロ程先だが栄えているのが分かるくらいの城壁、建物が見える

(これなら今日は宴!  じゃが少し遠いか、許可書やらなんやら審査みたいなもんがあったらすぐに入れんだろうし、、大きな国の近く、なんかしらあるか?)


ぐるりと大きく見渡すと左方向に村?と呼べる程では無さそうな集落から湯気が立ち上る


「カカカ、口に入れる物にはありつけそうじゃな」

ウキウキワクワクと足取りも早くなる


(干し肉程度あるかの?  しかし、手持ちは取られてしまったしのぉ、どうしたものか)


3日前の野営

何も考えず寝ていた所をゴブリンに持って行かれたと思われる

起きた時に何体かの死骸があり、拳に血痕があったので恐らくは間違いない筈だ


(最悪、悪党でも見つけてひっぱいたらなんとかならんかのぉ)


集落に悪党がいる事前提での考え


だが


運命か必然か


幸運にも集(たか)る相手、、基(もとい)


小金持ちと出会う事になる






(さぁてもうそろ、お腹がペコじゃ~   おん?)


集落まではまだ距離がある、が見えるくらいの距離

見慣れない姿の男が少し前でバタバタと忙しそうにしている


(なんじゃあ?芸人か何かの類かの?)


男の足元には軟体

じわじわと動く物体だか生体だかが見える


(あ~スライムか、、ってなんじゃあの面白い動きは)



「うえはあああ」



慌てまわる男から甲高い悲鳴が聞こえた


「ぶふぅ、あっはっは! うえはあああって、くくっ、しょうがないのぉ、ぷくくくく」

笑いを堪え切れず噴き出し、とりあえずは


『助ける事と決めた』


(あ~毒持ちがいるからスライムは手で触りたくないのう)

辺りを見渡すが武器になりそうなものは無い

石ころ、岩、、森の方へ行けば木の棒くらいは拾えるかもしれない


(ん~どうしたもんかのぉ、、お!? あれなら良いか、ちょっと待っておけよ~青年?)

そんな事を思いながら髪を一つに束ね

目に付いた目標物の方、森の手前まで駆け足で向う


「すまんのぅ」

と一言だけ発すると



ズボゥ!



2~3m程の木を引き抜いた


「うっし」





バヂンッ!  バチン!!

ビジャ、バジァ!!


スライムなんぞなんの問題も無い

とりあえずは面白かったので変な格好をした男を救ったのだが、、数分もしないうちに倒れてしまった



「うぉう!それはちょっとめんどくさいのう!?」






4/10 9:30


「い、、お~い、こらぁ」

スパン!


倒れた男を軽くひっぱたいてみるのだが反応は無い


(毒にやられおったか)

「解毒薬なんぞ持っておらんからのう、どうしたものか」

そもそも何も持っていない

いや、木材?だけならば、、



ガラガラガラガラ



集落の方面から馬車が向かって来た


「お~これは良い所に」


見晴らしの良い通りなので山賊には見えないだろう


「お~いお~い」


しばらく2~3m程の木を振り回し呼びかける





少し前で馬車が止まると1人の女性がいそいそと駆け寄って来た


「どうかしましたか?」


黄緑色のセミロングを真ん中から分け

使い勝手の良さそうな革製の前掛け姿

落ち着いた感じもあり 30代中~後半といったところか


「すっごい!おねえちゃん! ちからもちだね~!」

その後ろからはこの女性の娘なのだろう

黄緑ロングの少女がひょっこりと顔を出す


「おおおう!可愛いのう、なんって名前なんじゃ?」


「え!? あ、あぁこの子は娘のウルです、私はルトリと言います」


「おお!ウルか、ええのう可愛い可愛い」

小さな黄緑をこねくり回し

「あ~、あっしは~ ん~?あ~じゃあカセンと呼んでくれ、それでじゃのう解毒薬があれば分けて欲しいのじゃが」

少し頭の悪そうな挨拶である


「あら、スライムにやられましたか? 最近多いんですよね~ ちょっと待ってて下さいね」

母親の女性ルトリは自分の荷馬車に小走りで駆けて行く


「おねえちゃんはおにのしゅぞくのひと? ちからもちだし」

少女ウルが不思議そうな顔で見上げる


見た目、そうカセンと名乗る娘には二本の角がある

「お~ん? 詳しく言うと違うんじゃがのぉ、まぁそんなもんじゃな! 珍しいか?触ってみるか~」

そう言うと近くにしゃがみ込む




「塗る方だったらありました~   ってコラァ何してるの!」

小瓶を片手に戻った母親が声を上げる


「カカカ、ええんじゃよ」

少女を肩車しキャイキャイと戯れている

「あ~ しかしのう解毒が必要なのはそこに転がっている男の方でのぉ」

木の陰に寝かされている何かを指差す


「毒をもらった場所が分からんから飲み薬がいるのう、まぁスライムの毒なんぞ寝てれば治るんじゃが」


三人の視線が男に移る


「あら、、その格好」


「へんなふく~」

黄緑家族は揃って『不思議なもの』を見た様な顔をする


「変わった格好じゃろ? そこそこ金銭も持ってるようじゃから恩を売っておこうと思ってのぉ!」

赤鬼、カセンはにししと企み顔をする



それを見て母ルトリは少し考える

(悪い人達では無さそう、、なのとあの人の格好)


・・・


「分かりました、飲み薬なら家にありますので馬車に乗せて一旦村に戻りましょう」

そう言うとせっせと荷馬車の中を整理し始めるのだが


「お~お~なんじゃあ?勿体無い 物資捨てるなら勿体無いからあっしが抱えて行くぞ?」

子猫を持つかのように男を軽々と抱え込む


「え、しかし~え~あ~   大丈夫そうですね」

小脇に抱えるソレを見て母は整理する手を止めた


「あ~しかしのぉ~それとなんじゃがの~」

カセンの顔が強張る






「村に酒はあるかの?」

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