2021年2月上旬(約800字)
入試休みの間は、妙な既視感がある日々だった。4月ごろの休校期間中である。
一応学校からは課題が用意されており、それをこなしながら遠隔で部員やら友達同士やらで連絡を取り合う。
合唱部は各自遠隔で連携しての部の練習を試みていた。
パートごとで参加も任意という自主練習である。
違いがあるとすれば、10年生達があの頃の『空っぽ感』に比べたら大分マシだと言っている点だ。
実際、友達や部活といった空虚さを埋めるものは獲得しているようだった。
演劇部も香坂を新部長に遠隔での戯曲の読み合わせやエチュード練習などをしている。
10年生達が「これ春に配信で見たやつだ」と初々しく浮かれているのが、明衣や香坂を喜ばせた。
りょうと明衣は、かつてのように自宅からヘッドセットごしに連携を取ってゲームをする日々に戻っている。
それは久々にやるタイトルなどもあり、それらについては腕がなまったと二人で嘆いた。
だが、それ以上に感じるのは、直接触れ合うほど近くにお互いがいない、という寂しさだった。
性的な関係は明衣から未來に話があったように一切進展していない。
それでも、一緒に居て互いに体をもたれたり、一緒に何かを食べる。くだらないことを目を見て話して笑いあう時間というのは大切だと実感した。
「寂しいね」
「うん」
「あと何日かだけだから」
「うん」
元より、先日の一件からのりょうの心持ちはいまだ本調子ではなく、弱音を言いあいながら、通話を切る夜もあった。
もっとも、寂しさを感じさせるのは、直接会えないせいだけでもないかもしれない。
この2月から、りょうは週2日、音大受験を想定したレッスンに通うようになっていた。
つまり、明衣と遊べない日が増えたのである。
そしてそれは、いずれ来る「同じ学校に通わない日々」という将来を意識する日常の始まりでもあった。
そのようにして1週間に及ぶ受験休校期間は過ぎた。
学校の再開日は、2月13日の土曜日、いわゆるバレンタインのイブであった。
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