第23話 ガキのお守りはめんどくせぇ――ので四の五の言わせずお邪魔します

◇◇◇


 まどろっこしいことこの上ない今回の依頼。


 要は捻くれた小娘の更生してほしいということだろう。


 思春期の女子のお世話など厄介なものはないが、これを完遂しないとわたしのオタ生活が奪われてしまう。ということで――


「もしもーし、引きこもりのしのぶさんはおられますかー」


 無遠慮に頑丈な扉を叩けば、中から「ひゃっ――」と偏屈じみた情けない声が返ってきた。

 どうやらまだ『なか』にいるらしい。


 本来なら『幻想』は他人から干渉できない。

 それがこの世界に振りかざされた理不尽な一般常識だ。


 人が魂の存在を証明できないように、誰もこころが生み出した存在を嘘偽りと証明できない。なかには凛子のように常道以外の手をもって観測する輩もいるが――


(――まぁそんな馬鹿げたこと考えるのは凛子くらいなものだろうし、一部の例を除いてって注釈は着くけど、基本的には変わりない)


 だからこそ、これほどまでに面倒にこじれてしまった依頼など受けるつもりはないのだが、


「引き受けるって見栄張っちゃったしなぁ」


 頭の奥にちらつくのは鬱陶しいクソじじいと凛子の顔だ。

 あそこまで煽られて今更できませんでしたんてふざけてる。それに――、


(こういう引きこもり見てるとイライラすんだよなぁ)


 そうして肩を回し、改めて現実と虚構を隔てる木製に見せかけた難攻不落の絶壁を見据える。

 引きこもりの対処などそれこそ二つに一つしかない。


 なにごともこういう時は『物理シンプル』なのが一番だ。

 

 わたしにはみーちゃんのように溢れる慈悲もなければ、凛子のような人脈もない。

 頼れるのは己の力量のみ。


 愚直にただ、己のできることをやり通すのみだ。


(というか凛子に干渉できたのにわたしができないというのも納得できないだけなんだけどね)


 ということで――


「せーのっっ!!」 


 掛け声とともに気合を込めて扉を蹴り込めば、意外なことに扉があっさりと前方に吹っ飛んだ。

 いずれは青い粒子に還ってまた扉になるとはいえ、こんなに脆いとは。

 なんだか拍子抜けしてしまう。


「まぁ面倒がなくていっか。最悪、壁ごと壊すつもりだったし」


 そうして景気よく飛んでいった扉は音を立てて、ゴミ山に突き刺さる。


 そんな何とも言えない気分を味わいながらドア枠から首を巡らし中の様子を覗き込めば、吹っ飛んだ扉の先、驚いたしのぶと目が合った。


 まぁ、日常的にドアを蹴破られるなんて経験は滅多にないのだろう。


 当の本人は何事かと身をすくめ、布団をかぶって隠れているようだがあの姿は間違いなく富岡しのぶ本人だ。


(この分だと『幻想』で作り上げた替え玉って面倒な線は消えた訳か)


 まぁダメもとでやってみたらできたという訳だが――


「よぉ、さっきぶりだな。ちょっと邪魔するぜ」


 そう言って片手を上げて挨拶すれば、案の定、驚きから一転、敵意を称えたような視線が突き刺さった。


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