031話 わたしやらかした?


「先手必勝! “バーニングバレット”!」


 青い爆風が直撃。


「あ、やっば……本燃えるかも」


「敵を仕留めるのが先だ! それに今まであれだけ使って床などに燃え移らなかった分、その爆風は純粋な破壊力のみだと見たほうがいいだろう!」


「それもそうだね!」


 爆風の色が青いのも、純粋な魔力の爆発ってのを表してるのかな?

 さて、手はどうなったかな?


「……本がちょっとボロっとした?」


「確実に効いているらしいな」


 アキカゼが矢を放つ。

 カッと本が射抜かれた。


 その間にも本からは黒く細長い手がいくつも伸びる。

 く、クモみたいで気持ち悪い。


 最後に、手の根本付近に黒い球体が出てきた。

 あれが弱点かな?


「“スナイプ”」


 バチュッと魔法が球体を貫く。


「……効いてなさげ」


「やはり本を狙うべきだろう。……待て。背後で音がした」


「……いや、これ背後どころじゃないよ!」


 ドサドサと、何かが落ちる音が聞こえてくる。


 ……何の音?

 嫌な予感するんですけどー?


 未だに動かない本の魔物を警戒しながら見る。


 そしたら、本棚からひとりでに本が飛びだし、床に落ちるのが見えた。

 ……。


「また数の暴力ー!? もういいよー!」


「悪いがトバリ、囮を頼む! 俺は弱点を探って一匹ずつ仕留める!」


「え!?」


 いやそりゃ《物理障壁》とか積んだけど!


「新しいスペルの実験台とでも思ってヘイトを稼げ!」


「アキカゼ巻き込んじゃうかも!」


「巻き込まれないように動く! 万が一当たっても気にするな!」


 飛び出た本が浮かび上がる。


 そしてバラバラとページが捲れ、やっぱり黒い手が突き出した。


 全部で20はいるね。

 中央、最初に出てきたやつが、たくさんある掌をこっちに向ける。


「「「「アハハハハ」」」」


「うっわ!!」


 寒気した!


 掌に白い目と口が浮かび上がった。


 10本ぐらいある手全部に! キモい!

 なんか全部ニヤニヤしてる! キモい!

 なんでこのゲーム敵がキモいのさ!


 可愛い敵出してよ!

 あ、でも可愛いと倒す時ちょっと罪悪感あるかも。キモい方がいいのかな?


 いや限度があるね!


 もうとっとと新スペルで倒しちゃおう!


「“アイシクル……うわっちょっと!?」


 掌の顔、ビーム撃ってくるの!?

 なんかやけに攻撃開始まで遅いけど、ビームは聞いてないよ!


 こ、これホントに早いところ潰さないとマズイかも。

 手は……えー、『ブックハンド』でいいか。ブックハンド一匹につき10。


 さっき見回した時20はいたし、全部から撃たれたら200ぐらいのビームが飛んでくることになる。

 弾幕ゲーになっちゃうじゃんか!


 でも私は翼がある。

 長時間は無理だけど、飛べるから避けられる!

 でもここ、飛ぶには狭いんだよね。


 まだ撃ってくるのは一匹だけだから地上でも躱せる。

 数回避けてだいたい把握。


 まず、攻撃の前兆として掌の目が光る。

 それから、ビームは長時間照射式。ぱっと撃って終わりじゃない。


 あとあんまりエイムよくないね、こいつら。撃った後の追尾速度も遅い。

 なら別に一匹だけなら普通に攻撃のチャンスあるね。


「“アイシクルショットガン”!」


 つららをいくつも作って、途中で分裂させて散弾にする魔法!

 MPが2万超えて余裕出たから、一発700ぐらい消費してもまだまだ余裕!


 さあどう?

 ……うーん微妙!


 単純に的が細いね。あと当たっても効果なさげ。

 やっぱり本狙うのがいいかな?


「トバリ! 追加の本が攻撃仕掛けるぞ!」


「何か分かった!?」


「手の中に一つだけ本体がある! 根本の球体はフェイクだ! 本体を狙うしかない!」


「見分ける方法は!?」


「不明だ!」


 そこは何か作っとくべきじゃないのー!?


 アキカゼの言う通り、ブックハンドの群れが一斉に私にビームを撃ってくる。


 バッと翼を広げて跳び上がる。

 私のいた場所にビームが着弾。ちょっとずつこっちに照準を合わせてくるけど、ここまで来る前に照射時間が過ぎる。


 やっぱり賢くないね!

 全部の手で一斉に同じ場所めがけてビーム撃ってくるから、思ってたより躱しやすい。


 背後にいるブックハンドに直撃もらわないように、全方位に気を配らないといけないのはちょっと大変だけど、動き回ってれば大したことないや。


 ちょっとずつ地道にスナイプとアイシクルショットガンで本体を探す方がいいかな?


 グレードの高い《隠密》アニマを装備したアキカゼが一匹一匹確実に減らしていってくれてるし、このまま躱してるだけでもいいかも。


 急所へのダメージが上がる《致命》と、意識外からの攻撃のダメージが上がる《奇襲》。

 アキカゼは、これを《隠密》で気配を消した状態で撃ち込むっていう暗殺者ビルド。


 ブックハンドの手は絶妙にふよふよ揺れてるけど、アキカゼはそんなの気にせずに撃ち抜いていく。さすがだね!

 あれ、真ん中の球体に目ができてる。


 ……アキカゼ見てない?


「アキカゼ! 右に飛んで!」


「ッ!」


 間一髪、アキカゼのいた場所が炎に包まれた。


 え、隠密無効?

 というより、ヘイト無視か低ヘイト狙いの行動かな?


 って床燃えてる!

 わたしの魔法弾と違ってちゃんと燃えるようになってる!

 このままじゃ普通にここ火事になるよ!


「“スナイプ”! “スナイプ”!」


 効率悪い!

 全然本体引けないんだけど! 何でアキカゼ仕留められるのこれ!?


 他のブックハンドもアキカゼを狙い始めた! 視線先着弾はだるいって!

 逃げながらアキカゼが叫ぶ。


「トバリ! 本を狙え! 手の本数が減る!」


「そういうギミック!?」


「それか広範囲魔法で焼き払え! 被害は気にするな!」


 なら面倒くさいから燃やしちゃおうかな!


 炎+爆発+渦+強化+溜魔+残留+起点で作った、MP3000消費のチャージ式魔法!


「“フレイムトルネード”!!」


 アキカゼの反対方向に右翼側へドーン!


 爆発が渦を撒いて、炎の竜巻が本棚を飲み込んでいく。

 ここまで熱が伝わってくるんだけど! あっつい!


 これ……わたしやらかした?


「火災旋風か! あちらは大丈夫そうか!?」


「うん! やっぱり手には判定ないみたいだけど、根本の本が燃え尽きたら消滅してるよ! ただ……」


「ただ?」


「この図書館全焼しちゃうかも」


「……仕方ない!」


 一瞬なんか結構な葛藤が伝わってきたけど、アキカゼはそう言って炎を避ける。

 私がやらなくても多分これ普通に火事になるしね。


「“バーニングバレット”」!


 アキカゼが狙うブックハンドの本に爆発弾をお見舞い!

 バリエーションとして作った連射バージョン! 結構スペルパーツ手に入ったしね!


「助かる! あと4匹仕留めて脱出するぞ!」


 まだ火災旋風が熱撒き散らしてるんだけど……。


《レベル上昇:33→34》


 あ、上がった。


 その後は特に問題なく残りも処理。


 いやぁ、びっくりした。

 そこまで強くなかったけど、かなり面倒くさい相手だったなぁ。


 これ私達のレベルがもっと低かったら結構しんどかったよね。


「まずいな。渓谷をまたいで逃げた方がいいかもしれない」


「え?」


「あのコンサートホールの崩落を見るに、この迷宮は耐久度がかなり低い。あの火の勢いだ。木製の壁や柱が燃え尽きるだけで、最悪ここ全体が崩壊するきっかけになるかもしれない」


「……やったね? わたし」


「まさか屋内で火災旋風を発生させるとは思わなかったが……あれがなければ、簡単に本の手を仕留めることはできなかっただろう。本そのものの耐久度がそれなりにあったのが厄介だったな」


「最初のバーニングバレットで破壊しきれなかったもんね」


 HP換算したら80%は残ってたね。あれ。


「分裂矢を至近距離で打ち込んで本を蜂の巣にしてようやく本体を狙っていたからな。そうでもしなければ面倒この上なかった」


「コガラシとかオウカちゃんとかがブックハンド相手する時はどうするんだろうね」


 ふたりとも近距離だし、空中に浮かぶブックハンドに攻撃届かせるのはかなり大変だと思う。

 それで攻撃してもアタリの掌見つけないといけないとか……やりたくないね!


「だから連中を仕留めるには最適解だっただろう。だが周囲への被害がな」


「スペルパーツ[炎]は入れなくてよかったかも……?」


「いや、恐らく炎が特攻だったんだと思うぞ」


 炎入れないと火災旋風にはならなさそうだしね。

 でも後で抜いたバージョンも作っておこう。


 そんでもって普段遣いには封印だね……。最初に作った“バーニングバレット”に炎を含めなくて本当によかった。


 まああの時はスペルパーツに[炎]がなかっただけなんだけど……。


 反省会をしてたけど、いい加減離れた方がいいかも?

 正直道がわかんないから、なるべくまっすぐ進む。


 それでも角を曲がって、階段を降りて……。


 あ、ここコンサートホールだ。あっちの通路に入れば祭壇に行けるね。

 ……と、通路の入り口でアキカゼが急停止。


 敵? 杖を構える。


 違った。前方から、通路の床、壁、天井全体を撫でるように光が向かってくる。

 なんだかスキャニングの光みたい。

 それはわたし達を通り越し、コンサートホールを通過し……。


「え?」


「……修復されたな」


 無残過ぎる状態になっていたコンサートホールが、光が消えたところから何事もなかったような状態に戻っていた。


 ……心臓頭復活してないよね!?

 いない。ひとあんしん。


「何がきっかけだろう?」


「さあな。だが助かった。地形リセットが入るということは、あの図書館も修復されているだろう。もしかしたらここ全体が崩壊するような事態になったらリセットがかかるのかもしれない」


「たしかにね。でもあのスペルはよっぽどのことがない限り封印しておくね……」


 普通のゲームだと何も気にする必要ないんだけどね。そういう所もリアルにしなくてもいいのになぁ。

 まあこのゲームだし仕方ない。


 それで、図書館に戻ってみると見事に修復されてた。わあい。


「……ブックハンドはいないようだ。俺が呼び出してしまったあの本がない」


「ほんとだ。なんか不自然に一つ抜けてるね。ここにブックハンドが入るってことなんだね」


 本に乗り移るタイプじゃなくて、本そのものがモンスターって感じなんだね。場所覚えておけばうっかり開いて呼び出しちゃう可能性も減るかな?


「……さて。俺はそろそろ今日はおしまいにしたいんだが……どうする?」


「うん、じゃあ私もおしまいにするね。一人だけ先に進めるのもあれだし、一人でいてまた心臓頭とかに見つかったら逃げないといけないし。はぐれちゃうの嫌だしさ」


「わかった。では今日はここまでにしようか。お疲れ様」


「はーい。おやすみー」


 ログアウト、っと。通話……してる意味なかったけど切って、と。


 あ、もう日付変わっちゃってる……。

 日付?


 もしかして日付変更で迷宮の状態リセットなのかな?

 時間的に一致するなぁ。

 明日もそうだったら確定だね。


 いやー。それにしても疲れた!


 ほんと何なんだろうあのゲーム……。

 楽しかったのは確かだけど、なんだか色々ヤバいんだよな~。


 ……どうしようかなホント。


 うーん。


 ……あ、コガラシからチャット来てる。

 なになに?


 ……え?

 認識阻害?

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