022話 お前恐怖って感情ねーの?


 現実そのまんまなグラフィックも、存在しないはずの部位の感覚も、あと自分のコピーも。


 どれも滅茶苦茶なものではあったけど、極論『超技術力』で何とかできないことはなさそうなものばっかりだった。


 だけどこればっかりはおかしい。


 まあ、まだ書き込みが消えるのはいい。

 情報統制やらで消されてるとしても、まだ常識の範疇だ。Evildoer Editionのことと明言してのコメントじゃなくても、怪しかったら消せばいいだけの話だ。


 だけど……会話に影響する認識阻害。


 これだけはどうやっても説明できない。

 少なくとも俺には無理だ。


「オカルトじゃねーか」


 夕飯を食べ終わった後、部屋で千春と話す。


「ちょっと幽霊とかを信じる気分になった」


「マジで何あのゲーム?」


「でもやるでしょ?」


「お前は恐怖って感情ねーの? まあやるけど」


 正直意味不明なことばっかりだ。


 だけど……まあうん、楽しかったんだよな。本当に。


 あとあのゲームが何なのか知りたい。ネットには情報が上がらないことが判明したばっかりだ。知るにはゲームを進めるしかない。


「最初の試練は突破したいしな……」


「同感」


「一応アキカゼとトバリにはメッセージ送っておくか。あの二人も気づいてるかもしれないけど、念の為」


「賛成」


「で、やるか?」


「やる。体調は大丈夫?」


「大丈夫だ」


 じゃあやるかー。


 というわけでそれぞれの部屋に分かれてログイン。


 あれ? オウカどこ行った?

 この祭壇の側でログアウトしたはず。先に入って外に行ったか?


 と思った瞬間、祭壇から光が溢れる。パッと一瞬で消えた光の中には、オウカがいつもどおりの仏頂面で立っていた。


 なるほど。祭壇の近くでログアウトすると、次入った時はこうなるのか。

 ……いや、どこでログアウトしても祭壇からスタートって可能性の方が高いか? 多分こっちだな。 


「それで、どうする? 通話も切っちゃったし」


「ああそうか、祭壇の側なら通話繋がるんだったな……。でも向こうが今何してるかわかんねぇからな。ほぼミュートされる状態なのに繋いでても仕方ない気がする。ログイン前に情報は送っといたし大丈夫だろ。そのうち見るさ」


「確かに」


「とりあえずステータス確認してアニマセットし直そうぜ」


「了解」


 さっき命からがら祭壇を探してる途中、それぞれ一個見つけたことで追加されたしな。


 さて、まずはステータスステータス。今何レベルだ?


「……めっちゃ上がってるな」


「見せて」


================

 コガラシ    :鬼武者

 レベル     :32

 HP      :20670/20670

 MP      :9828/9828

 物理攻撃力   :1864

 物理防御力   :1661

 魔法攻撃力   :663

 魔法防御力   :803

 敏捷      :1006

 技術      :835

 侵食力     :1030

 抵抗力     :788

================


「攻撃力が低い」


「お前に比べたらだろうが。お前は?」


「ん」


================

 オウカ     :復讐者

 レベル     :38

 HP      :14892/14892

 MP      :14484/14484

 物理攻撃力   :3825

 物理防御力   :398

 魔法攻撃力   :3101

 魔法防御力   :367

 敏捷      :2060

 技術      :1071

 侵食力     :683

 抵抗力     :857

================


 差が埋まってねぇ。なんでコイツこんなレベル高いんだ。キルスコアか?


 さてはコレ多人数で攻略した場合貢献度かトドメで経験値の大小が決定してるな?


「攻撃力もうすぐ4000」


「物理防御と魔法防御……」


「死な安」


「ピーキーすぎるんだよ。というかお忍耐発動してなかったら死んでるじゃねぇか」


「後半になるにつれ上昇量が上がるか下がるかはゲームによると思うけど」


「まあそれもそうだな。インフレはつきものか」


 最初100ダメージ出ればボス一撃ぐらいだったのに、いつの間にか億超えの敵が雑魚として出てくるようなアレだな。わかるわかる。


「あー、天使二匹目やけにあっさり仕留められたと思ったけど、一匹目と心臓頭の経験値で純粋にステータスが上がってたからか」


「なるほど。確かに火力上がってた気もする」


「でも心臓頭のバリアは固くなってたよな。何か別の要因で強度が上がってたり?」


「囚人殺したらバリアの耐久値減るとか」


「ありそうだな……検証しようとは全く思わないけど」


 もう一回アレやるとかマジで嫌だ。いや、今ならさっきよりかは遥かに楽だろうけどな。


 ……ん? ということは、あの時すでにステータス上がってたってことだよな?

 身体の性能が上がった実感が全く無いんだけど。


「オウカ、身体に違和感あったりするか?」


「ない」


「だよな」


「なんで?」


「いや、確か心臓頭仕留めた時、レベルが10ぐらい上がったと思うんだよな。その時じゃなくても今もだ。ステータスが純粋に倍以上になってるのに、違いが全くわかんねぇ」


「……確かに。敏捷とかも増えてるはず」


 例えるなら、重りをつけて走っていた最中、急に重り全部を捨てれば当然身体が軽く感じるはずだ。アバターそのものの性能が変わるから、普通違和感があるはずだ。なのにそれが一切ない。


 いや、これも元々人体にないパーツに感覚を作る謎技術……ホントに技術かこれ? の産物なのかもしれない。


「……ステータスの数字が上がってるだけで、身体性能変わってない説」


「…………」


 それはあるかもしれない。


「検証しようぜ。これはちゃんとしておかないとマズイかもしれん」


「賛成」


 《身体アニマ》から目的のものを探す。多分敏捷が一番検証しやすいはずだ。


 えーと、あるかな? ……《生命強化》《剛力強化》《頑健強化》《魔導強化》《侵食強化》……。


 なかった。


「あった。《俊敏強化》」


 ランダムだとこういうことが起こるんだよな。アニマガチャだこれ。


「どうだ?」


「とりあえずグレードⅤを二つ積んでみる」


「そうか……レベル30超えたもんな。キャパシティ的にいけるのか。もっと上のグレードねぇの?」


「Ⅴが最大」


「ならしゃあないな」


「ヘルプにも書いてあるのに」


「え、マジ?」


 ……ホントだ。また見逃しか。


 説明書を流し読みするタイプってことがバレてしまう。


 ともかく、Ⅴがどれぐらい強力かだな。キャパシティ15も持っていくし。それ二つだ。結構上がるんじゃねぇの? 1000ぐらい上がったりして。


「ステータスの上昇量はどんなもんだ?」


「雑に1万ぐらい増えた。2060が12260に」


 ん? なんて?


「……1万?」


 桁おかしくね?


 敏捷だけ上がりやすいとかか?


 試しに俺もアニマを一回全て外して、《剛力強化》グレード5を二つ積んでみる。これは物理攻撃力強化だ。


 ……えーと? 9664か。雑に8000ぐらい増えたな。


「お前もちょっと《剛力強化》積んでみてくれ」


「わかった。……3825が14025になった。大体1万増えてる。というか敏捷と上昇量同じ」


「あ、物理攻撃力は上がり幅少ないとかじゃねぇんだな……。俺とオウカで違うってことは固定値上昇じゃないみたいだな。何依存だ?」


「レベル?」


「ありそうだ」


 いやバカかよ。設定ミスってね? ありえんぐらい上がるじゃん。


「つけてみてどうだ?」


「……変わった気がしない」


「だよな」


 ステータスがバカみたいに上がったのに一切身体に変化がないように感じる。


「敏捷に戻して試してみる」


「わかった」


 ちょうど祭壇のある部屋の外が一直線の廊下だ。敵はまだリポップしてない。全力ダッシュの速度を比べてみることにした。


「いくよー」


「おう。3、2、1、スタート」


 俺が合図をした瞬間、オウカは凄まじい速度で廊下を駆け抜けた。


 ギュァン!! みたいな擬音が聞こえてきそうな速さだった。何アレ。

 その後、いつもどおりにスタスタ歩いて戻ってきた。


「壁にぶつかった」


「あんな出ると思わないもんな。そら制御できねぇわ」


「外して全力疾走してみる」


 アニマなしでもそれなりに速かった。少なくとも現実世界よりかはかなり速い。でも当然さっきほどではなかった。


 うーん。ステータスだけ変わって実際の身体能力は変わらない、って説が否定されたな。


 その後二人で物理攻撃力を強化して試してみたところ、やっぱりこっちもステータスだけでなく、身体能力までキッチリ上昇していた。《撃衝》なしでオウカが壁に穴を開けたのは面白かった。


 あと、身体能力関係ない殺傷力も上がってる。


 俺も試しに物理攻撃力高めてみたら、鉄格子を簡単に切れてしまった。そんなことしたら普通刀割れるぞ。ましてやコレ錆びてるのに。こういう所はゲーム的な面白さで法則が作られてんのか? 世の中にはやろうと思えばリンゴで木を殴り倒せるゲームあるしな。


 あと、グレードを上昇させると、アニマの効果上昇にボーナスがかかることも分かった。


 オウカがグレードⅤの《俊敏強化》を二つ積んだ時の上昇量は10200。

 同じキャパシティ消費量でも、グレードⅠを30個だと上昇量は6160。


 グレードを上げられるなら基本的に上げた方がお得ってことがよく分かる。例外がありそうで怖いけどな。


「とりあえずとんでもなくステータス上がるな。これつけたらお前の低すぎる防御力もなんとかなるんじゃね?」


「わざとダメージ食らうビルドだから守備力は低いほうがいい」


「まあそれもそうだな」


 トバリのビルドの主軸となっている《復讐》は、テキストのによるとダメージを受ければ受けるほど、相手に与えるダメージが増える。減ったHPを回復して攻撃を受けて回復して……を繰り返せば与えるダメージがどんどん増えていく。


 それをメイン火力にしてるんだしな。リスクかリターン、どっちを取るかって話だ。防御力よりは攻撃力に全振りした方が強いだろ。


「でも、集団戦に弱いのはさっきすごくよく分かった」


「《復讐》が発動しないからか」


 HPが減っている状態で、ダメージが増えないまま戦う必要があるからな。対象関係ない《逆境》とかも積んでるらしいけど、それでも火力は減る。


「何かいい具合の広範囲攻撃があればいいけど。あと魔法も使いたい」


「魔法攻撃力も結構な数字だったよな。物理だけだと腐るか」


「そう。今後、物理無効とか出てくるかも知れないし」


「あーそれは出てくるな。100%出てくる」


 幽霊みたいな奴とか出てきそうだな。


「でも、一点特化型にするか汎用性を重視するか迷うよな」


「それは確かに」


 アニマの効果ってヤバいんだよな。正直心臓頭戦はオウカの攻撃力なしじゃやっていけなかった。一極集中したビルドだったからこそ勝てたんだろうし、今後も難易度上がるだろ多分。そう考えると器用貧乏は多分やっていけない気もする。


 でも、0が1になるのはかなり大きい。やれることが増えるってのはそれだけで有用だ。素のステータスが上がってる時点で、グレードⅠでも良い働きをしてくれるものも絶対にある。


 元々が高ければ同じグレードでも動きは結構違うんじゃないか? って思うんだよな。オウカの《逆境》とかだって、絶対攻撃力の上昇は『加算』じゃねぇだろあれ。


 ……あれ?


「なぁオウカ」


「ん?」


「《剛力強化》グレードⅤ二つと、《逆境》グレードⅤ二つって、どっちが攻撃力高いんだろうな?」


 素で10000上がる《剛力強化Ⅴ》二つと、瀕死攻撃力アップの《逆境Ⅴ》二つ。

 あともっと言えば《復讐Ⅴ》二つとか。


「あー……。試す?」


「やるか」


「待って。検証用にアニマセットする。《忍耐》とか」


「了解」


 ん?

 あれこれ俺がオウカを殴ってHP減らす感じ?


 検証結果。


 《逆境Ⅴ》二つ。

 《剛力強化Ⅴ》二つよりもさらに威力が上がった。ステータス画面の変動はないにせよ、ヤバい威力になった。


 《復讐Ⅴ》二つ。

 《逆境Ⅴ》二つとそんな変わらなかった。ただ、こっちは対象が単体である代わり、被ダメージ量によって無限に火力が増えていく。ダメージ量嵩めばヤバいことになりそうだ。


 ちなみに威力の目盛りは俺のHPだ。体砕けそう。クソ痛い。


「因果応報。私を殴ったバチが当たった」


「おま……検証なんだから仕方ねぇだろが……」


「介錯」


「うぐぇ」


 トドメ刺された。


 マジでコイツ覚えてろよ。


 すぐにリスポーン。

 リスポーンしてもHP回復しねぇんだから殺す意味ないんだよなぁ。なぁオイ。


「とりあえず、何かしら条件とか代償がある方が強いっぽい」


「そうでもしないと有用性ないだろうしな」


 10000増えた能力値はビックリしたけど、他のアニマでもそのぐらいには迫れると。《生命強化》でHP8000盛って、合計HP28000あったのに一撃で瀕死まで持っていかれた。ヤバい。


 全身がバラバラになる感覚ってああいう感じなのかな。

 ……仕返しにコイツの分のアイス食ってやろうかな。


「ねぇ?」


「ん?」


「PvPしない?」


「え? いいけど」


 どうした急に。

 いや俺もPvPっていう体で合法的に仕返しできるんならやりてぇけど。


「やりたくなって」


「何も理由になってねぇんだよ」


 この戦闘狂め。俺も人のこと言えないけど。


「まあでも実際アリだな。お互いの戦法の弱点探しって意味でも」


「いぇい。でもレベル差があるから、お互い使用キャパシティは30までで」


「OK。あ、でも俺は残りの2でステータス上げさせてくれ。レベル差が5もあればステータスの合計値とかもだいぶ違うだろ」


「わかった」


「あと、お互い戦法は基本的に変えないようにしよう。まるっきり変えたらそれはそれでなんか違うだろ」


「確かに。じゃ、私は《復讐》、コガラシは《毒攻撃》を固定する感じで。グレードは問わない」


「それでいいな。よし」


 じゃあ早速対策アニマ積まないとな。


 さてどうするか。確実に毒対策はしてくるはず。


 でも俺が取るべき戦法はやっぱり毒主軸だ。

 多分だけど……コイツの低HPの逆境ビルド、致命的にスリップダメージに弱い。

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