016話 VS心臓頭 ①


 階段を駆け上がる。


「左から来ている!」


「直線通路! わたしが処理する! “ライトニングブラスト”!!」


 先程何度も見た、紫電が敵を焼く。


「オウカ、右だ!」


「わかった!」


 オウカが即応できるよう、ハンマーをいつでも振り抜けるような持ち方で先頭を行く。

 俺はさっきと同じ殿だ。追いついてきた囚人を斬り伏せ、足止めする。


「《毒霧》!」


 天井に向けて放った毒玉が破裂。たった今俺たちが抜けてきた牢屋の入り口に毒霧が立ち込める。


 囚人は勢いのまま毒霧に突っ込み……毒を全身に浴び、バタバタと倒れていく。


「入れ食いだな!」


「結構足止めできそうだね!」


 トバリが走りながら、ちらっとこちらを振り向いて言う。

 確かにこのまま結構な時間を稼げそうだ。でも永続じゃねぇんだよな。


「持続時間設定を結構上げておいたが、何十匹が霧を吸い続けるからいずれ薄れて消える! そうなる前にとっとと行くぞ!」


「わかった! 今度はわたしももうちょっと速度出るよ!」


「レベルアップで上がったか!?」


「《俊敏強化》を積んだからね!」


「ステータス底上げか! なるほどな!」


 トバリの速度は確かにさっきより速い。


 足並みが揃うってのはやりやすくていいな!

 迷いなくアキカゼが道を指示し、前方の障害をオウカが取り除く。トバリが集団を薙ぎ払い、俺が足止めをする。


 いいね。単純に頭数が増えたとか、レベルが上がってアニマ装備したお陰でやれることが増えたとか色々理由はあるけど、純粋にパーティ構成が噛み合ってて滅茶苦茶戦いやすい。


 道を曲がって階段を登って、迷路のような道を進む。

 今どこにいるか全くわかんねぇな!


「ところでアキカゼ! 道はわかってんのか!? どこを目指してんだ!」


「目指す場所はあるが、道は不明だ!」


「おぉい!」


 当てずっぽうかよ!


「地図アニマは探したが存在しなかった。技能アニマ内に《作図》があったが紙がないため役には立たない」


「じゃあどうするの」


 ハンマーで看守を吹き飛ばしたオウカが言う。

 走る勢いを止めず、そのままアキカゼが説明を始めた。


「時計で例えるぞ。まず、心臓頭とやらがいた場所を12時、現在地を6時とする。中央には渓谷だ。そして、先程3時の位置にある橋を壊して逃げ切った。現在囚人はそちらの方面から、下層を通って俺たちの方向に向かっている」


「それで?」


「9時の位置にもう一つ橋があった。それを使う! だがかなり上方にかかっている」


「あー……あったような気も……」


「その橋付近まで繋がっているだろう螺旋階段があった。方向とおおよその高度は目星がついている。目指すのはそこだ!」


「なるほど! さすがアキカゼだね!」


 ここは構造が滅茶苦茶だ。絡まった毛玉みたいな内側を迷いながら進むのは消耗が激しくなる。だから、外から見えて一気に上に行ける事がわかってる螺旋階段に行こうってわけだ。


「橋についてからはどうするんだ!」


「オウカとトバリの突破力で進みながら、虱潰しに探す!」


「ひでぇ力技だな!」


「でも、わたしたちがアイツと出くわした祭壇の近くって、すぐ側に橋があったよね? アキカゼが言ってる橋もきっとそれだよ! だとしたら、祭壇にはすぐに行ける!」


 ……確かにそうだ。ちらっと、右手側に橋が見えた気がする。


「アイツ足遅いみたいだったし、まだ15分かそこらしか経過してないと思う! そんなに遠くには行ってないはず!」


「なるほどな!」


 それならまだ現実的だ。


「ひとまず、螺旋階段まで行くぞ!」


「おう!」


 俺の《毒霧》が相当効いたのか、囚人が今になってようやく追いついてきた。ここまで珍しく分かれ道なかったからな。


 とか思ってたら前から来やがった!


 こいつらどうやって俺らを探知してるんだ?

 なんでこうもピンポイントに位置が分かるんだよ! 視界か思考の共有でもしてんのか!?


「“ライトニングブラスト”!」


「残党は任せ……全滅してる」


「草」


「殴るぞ」


「なんで?」


 残らなかったんだからいいだろが。


「アキカゼ、下ってる!」


 下り階段か!

 現状、あんまり高度は下げたくない。壁とか床が案外脆いから、もし道が違っても、上から下に行く分には大した手間にはならない。破壊して降りればいいだけだからな。


 でも下から上に上がるのはかなり大変だ。天井を壊した後、どうにかして登らないといけない。

 ゲーム内身体能力で結構な性能を誇るこのアバターも、さすがに二階部分まで跳躍することは難しい。上に囚人いたらもっと面倒だしな。下ならトバリが爆撃すれば済む。


「……左だ!! 左の壁の向こう側に生命感知が反応している!」


「了解!」


 オウカが全力でハンマーを振りかぶり……壁を一撃の下に粉砕した。


 ハンマーの当たった部分に穴が空いたとかそんなレベルじゃない。

 重機でも突っ込んだみたいに粉々だ。


「マジかお前」


「ごめんオウカちゃん、通路が短いから対処お願い! 効率悪い!」


「わかった」


 オウカはそのまま突撃。ハンマーを残像が見えるような勢いで振り回し、囚人どもの体を砕いていく。


 すげぇなあれ。ハンマーが当たる度、周りに弾け飛ぶように衝撃波が撒き散らされている。


「それが《撃衝》か!」


「そう。攻撃の着弾地点から衝撃波を作る。物理攻撃力1350と組み合わせればこの通り」


「ナイス脳筋ビルド!」


「殴るぞ」


「なんで?」


「じゃれてないで進むぞ!」


 アキカゼの怒声と同時、反響した金切り声がどこからか響いてくる。


 マズいな。今のでさらに増えたぞ。


 言ってる側から、囚人の軍勢の厚みが増した。毒霧でも喰らっとけ!

 くそ、今の牢屋が並んでる通路、脇道が多すぎる! 毒霧一発じゃ止められねぇ!


「階段を破壊する! コガラシ、交代!」


 階段? ああ、物理的に道を断つのか!


「OK!」


 全力で地面を蹴り、トバリとアキカゼを追い抜く。そこには屋敷のホールじみた空間が。中央に豪奢な階段が二階へと伸びていた。


 なるほど、これを壊すのな!


 上から飛びかかってきた囚人には範囲斬撃をお見舞い。

 登りきって囚人の群れと対峙。


 さぁ纏めて死ね!!


 初戦と違って、直線上に範囲を絞った代わり、射程を伸ばした一極型だ!

 ズバ、と囚人が上下に切断され、ドサドサ崩れていく。


 同時に後方から崩落音。今しがた登ってきた階段をオウカが破壊したらしい。

 やるな!


「トバリ! 両側だ!!」


「“ライトニングブラスト”!! もういっちょ“ライトニングブラスト”!!」


 二階部分の左右から押し寄せる囚人が焼かれて消えていく。


「MPは!」


「止めを刺した敵のMP吸収ってアニマ取ったからまだまだいけるよ!」


「強くね!?」


 吸収量がどれだけか知らねぇけど、これだけ殺してるなら相当回収できてそうだな!


「前方に跳ね橋! 上がっている!」


「ここの構造ほんとどうなってんの!?」


「今更だろ! 俺がロープを斬る! その前に足止め! 《毒霧》!」


 道の合流地点に毒液を炸裂させ、合流した囚人どもを毒殺していく。


 全力で走り、跳ね橋の手前で上方に斬撃拡大。

 よし、斬れた!


「倒れろ!」


 蹴飛ばした跳ね橋がギギ、と傾き、轟音を立てて降りる。

 普通こう使うもんじゃないからな。壊れてねぇよな?


 ……いや、これは大丈夫そうだ。

 だが!


「やっぱ前から来てんぞ!! これ俺たちの目的地から来てねぇか!?」


「なら逆に好都合でしょ! 掻き分けて辿っていけば心臓頭までたどり着ける!」


「それは理想論すぎるだろオウカ!」


 明らかに別方向からも合流してんだろ!


「コガラシどいて! “ライトニングブラスト”!」


「……ッ、初見の敵が混じっている!!」


 焦ったアキカゼの声。


 囚人の中に、肌が水晶らしきものになっている奴が一匹。

 発狂させてきたのか!? それとも野良か!


 囚人を焼いて迸る紫電は、水晶肌にぶつかると、何の被害も与えないまま消え失せた。

 そしてそいつの全身から雷が発せられ……。


「伏せろ!!」


 咄嗟に、俺たちは地面に体を叩きつけるような勢いで体を低くする。


 すぐ頭上を掠める雷撃。

 焼かれた空気の熱さが背を撫でる。


「魔法反射……!?」


 雑魚に! そんな! 能力を! 持たすな!


「……いや、吸収してた。私が仕留める!」


 跳ね起きたオウカが突撃を敢行。

 俺たち三人も続く。


 絶対に足だけは止めるわけにはいかねぇ!!


「囚人が追いついてきたぞ!」


「《毒霧》!! クソ、あの水晶野郎が混じるとだるいぞ!」


 クソ、完全にトバリの対策だろアレ!!


 これでトバリは迂闊に雷撃を使えない。

 囚人を一撃で殺せる威力って言ってたな。俺たちなら、多分数発喰らっても無事でいられる。


 だが、HPの残りと、実際のダメージには違いがある。

 呼吸と鼓動以外ほぼ全てを再現してるアバターだ。


 雷撃なんて喰らったらどんな支障が出るかわかったもんじゃない!


 もっと言えば、トバリの雷はどう見ても雷とは別の何かによる殺傷力がある!

 雷が落ちても生き残るケースってのは何回かTVで見たことがあるが、トバリの雷撃が直撃した囚人は一匹残らず全滅してやがる。


 当たらなくて生き残ってるケースはあるが、直撃した奴は黒焦げだ。


 反射された雷から、その謎の殺傷力が消えてるワケがない!!


「大丈夫。次はないよ!」


「何言って……!」


 オウカが水晶人をハンマーの一振りで粉砕し、少し焦った様子で言う。

 それを追求する前にアキカゼが叫ぶ。


「コガラシ!! 毒霧を突破してきているぞ!!」


「畜生!! トバリをメタったんなら俺の毒にも耐性付けるよな!!」


 自明だ。クソッタレ!!

 毒霧を突破し、その上俺の設置した毒霧を纏いながら突っ込んできた、皮膚が爛れ切った囚人。


 俺が対処するまでもなく、アキカゼの矢がそいつの脳天を撃ち抜いた。


 足をもつれさせ倒れ込む爛れ囚人。

 そいつの死体がポリゴンになって爆発し、辺りに毒を撒き散らす。


「うげぇ……。あ、いや待てよ?」


 爛れ囚人の毒を喰らって、後続の囚人がバタバタ倒れて死んでいく。

 …………。


「……アキカゼ、爛れた奴は任せるわ……」


「ああ。多少は足止めが楽になるか……? いや、前方に爛れが混じっていれば厄介この上ないぞ!」


「ああそういうことかよ!!」


「大丈夫! 毒を食らってなければ普通に死ぬ!」


 アニマ《撃衝》の効果により、ボウリングのピンのように吹き飛び死んでいく囚人ども。


 その中には、オウカの言う通り確かに爛れも混じっていた。

 だが、オウカに粉砕されあっさり消えた水晶人と同じように、何も撒き散らさずポリゴンになった。


「やっぱりこっちの攻撃を吸収してるんだ! 吸収しないとその攻撃はしてこない! オウカちゃん、前は任せたよ!」


「おいお前何を――」


「“ライトニングブラスト”!!」


 トバリは躊躇なく雷撃を横道に放った。すれ違いざま覗いた道の奥には、囚人の奥に紛れ込んでいる水晶人。


 だが、雷はその直前までしか届かなかった。

 水晶人が先頭になるよう、囚人どもが死んでいく。


「ヒヤヒヤするだろが!!」


「へへーん! 作ってよかった射程別!」


「お前なぁ!!」


「オウカ、その右の壁を壊せ!! 外に出るはずだ!!」


「わかった! “インパクトストライク”!!」


 オウカが囚人を巻き添えにしながら、右方の壁を粉砕する。

 粉々に吹き飛ぶ石レンガ。ぱっと差し込む光。


 外の通路だ!

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