015話 心臓頭のところまで鬼ごっこだ


 祭壇は案外近かった。しかも、十字路の真ん中にあるお陰で周囲警戒もしやすい。いつ囚人がここまで来るか分からない現状、最高の立地だ。


 よし、腰を下ろして一息……尻尾ぉ!


 ぬぐえええ変な踏み方した……。ケツでこうぐにゅっと踏み潰した……。

 くそ、違和感なくなってたせいで忘れてた……。


 何やってんだコイツとでも言いたげな視線の三人。


 トバリお前は尻尾生やしてんだから分かるだろ? なぁオイ!


「MP回復……MP回復……と。あったあった。これこれ」


 スルーしやがったこいつ……。

 まあ今はどうでもいい。早いとこアニマの装備を終わらせないと。


「私も良さげなのを取った。いける」


「毎回早いなお前」


「前々からこれ良さそうって思ってた。《撃衝》ってやつ。それと《下剋》」


「……そんなのないぞ」


「え? ……ほら」


 オウカの見せてくれたリストには確かに《撃衝》と《下剋》の文字があった。でも俺のリストには、並び順的にその二つがあるはずの箇所に別のアニマがある。


「……あー分かった。これ、多分ランダム入手だ。俺もお前も《復讐》はある。でも他の内容が違う。10個の碑石にも区別があって、どれを開放したかで使えるアニマ変わるんだと思ったけど……。俺もお前も一つしか開放してないのに被りがあるってことは、ランダムで一定個数開放っていう仕様なんだと思うぜ」


「……なるほど」


「他の人が使ってる戦法を真似しようとしても、難しいかもだね! 今度はMP回復手段積んだよ! 基礎アニマもグレード上げて、魔術も威力アップ! ちょっとパラメーター調整するから待ってね……」


 自信満々な様子でトバリが声を張り上げた。準備出来たんじゃねぇのかよ。まあ俺もできてないけどさ。


 あー。全然いいのないな……それっぽいの……お、これだ。

 連結アニマ《霧》。これで毒霧を撒けるようにしたらいいんじゃないか?


 あーいやでも待てよ。これ《毒攻撃》とくっつけてスペル作ってもなんか微妙になる気がするぞ。


「すまん試し撃ちする」


「コガラシ、こちらに向けるなよ。お前には前科がある」


「こんな状況でふざけて仲間に撃ったりしねぇよ……」


 《毒攻撃》+《霧》。刀を振ると毒の霧が出る。毒の判定が刀の軌道上に残るって感じ。


 《霧》+《毒攻撃》。刀から毒霧が出た状態での斬撃。さっきとちょっと違うのは、スペル発動時から霧が出っぱなしになってるってことだ。


 うーーーーんやっぱりダメだ。設置になってねぇ。

 ……あ、いや待てよ? 基礎アニマの中にはいくつもスペルパーツがある。


 ……これだ。基礎アニマ《猛毒魔術》。 


 毒を扱うにあたって、一番それっぽいアニマの中になら何かあるだろ。

 よっしゃビンゴ!


================

●使用可能スペルパーツ

◇《鬼武武術》

《斬撃》《刺突》《剛断》《拡大》《飛斬》

◇《猛毒魔術》

《毒》《毒性麻痺》《朦朧》《睡眠》《強酸》《射出》《炸裂》《霧》《濃縮》《残留》

◇装備アニマ

《毒攻撃》《呪縛攻撃》《毒痺攻撃》《反撃毒》《反撃呪縛》《霧》

================


 めっちゃ増えた。


 《残留》と《霧》が使えそうだ。《霧》は連結アニマでも取っちゃったけど、効果が上がるしいいだろ。何か猛毒魔術と装備アニマの二つともに表示されてるけど。何でだ?


 ここから組み立てて……よし。


================

●《毒霧》

《射出》+《毒》+《炸裂》+《霧》+《残留》

================


 ざっくりこんなもんだろ。威力検証してる暇がないから、念の為にちょっと威力と残留時間を盛って、引き換えに消費MPを増やした。


 試しに撃ってみる。通路で撃つのはまずいな。……お、近くに小部屋発見。ここで試そう。


「《毒霧》」


 ポ、と掌から緑のあからさまにヤバい色をした毒の球が射出された。天井に着弾した毒玉は弾け飛び、周囲に毒霧を漂わせる。


 よーし成功!


 あとは突破用に前方広範囲斬撃を作って、ついでに毒の効力を滅茶苦茶に高めた即効性抜群の劇毒攻撃も作る。心臓頭に出会い頭にこれをぶち込んでやる。


 他にもいくつか作って、と。

 よし。


「俺もできたぞ。ところでトバリ、スペルってこれ何個作れるん?」


「わかんない。私もう100個ぐらい作ってるけど、今の所制限に引っかかってないから」


「100!?」


 思ってた10倍ぐらい多かった。


「なんでそんなに作ったんだよ。覚えられねぇだろその数……。スペルの名前どうしてるんだよ。まさか一個一個違うのか?」


「いや、同じものがいくつもあるよ。射程の長さとか威力とかを変えたやつを作って、状況に合わせて撃ち分けてるんだ! 同じ名前でもイメージでちゃんと設定別のもの発動するみたいだし、この方法が結構強くて」


「……いや、は? やべぇな……」


 何だその変態技術。


「なんか、“ライトニングブラスト10”みたいに、最後に何か識別用の数字とか記号とかつければいいんじゃねぇの?」


「そうすると賢い相手には避けられそうでしょ?」


 そういう問題か?


 思考入力にも限界があるだろ。なんでそんなことが……。

 そうか。このゲームだからこそって部分もあるか。勿論トバリのプレイヤースキルがヤバいってのもある。でも、技術含めたコピーを作れるぐらいの思考読み取りができるゲームだ。思考入力の反映もそれだけ強力でもおかしくない。


「……お前、もしかしてさっきも撃ち分けてたのか?」


「うん! “ライトニングブラスト”の威力は囚人を一撃で仕留められるように設定してあるんだ! あとは場面別に使えるように射程と範囲、消費MPの兼ね合いを考えて10パターンぐらい作るだけ!」


「だけじゃねぇんだよ」


「出た。トバリの『ね? 簡単でしょ?』」


 オウカも呆れたように言う。


 それができるのはトバリぐらいだと思うぞ……。絶対咄嗟の発動でミスる。

 適正距離で撃ち分けるにしても、それぞれの射程を完璧に頭に入れて、なおかつ目測で距離を測らないといけない。無理だろ。


 でもあれだけ広範囲の貫通攻撃を何度も撃てた理由が分かった。レベル一桁が連発していい威力じゃなかったからなあれ。直線上にいた囚人全てが一撃で沈むっておかしいよな? 百匹はいたぞあれ。


「消費MPは?」


「最長射程で700。さっき使ってたのは射程控えめとかの、200程度消費を混ぜてだったからギリギリ足りたんだけどね。あの時は確か最大MPが4800ぐらいだったし」


「700……。あの時10発って言ってたのは?」


「通路の長さと使用頻度からして、平均してMP消費が400ぐらいになるって予想だね! 他の魔法も使ってたし、目安としての残弾はそれくらいかなって!」


「そして実際その通りだったわけだ。……すげぇなホント」


 このゲームステータスが結構高いけど、消費MPもそれ相応なんだよな。


「まあ、杖の補助もあるけどね。初期装備だけど、これ使えば威力がちょっと上がるし、消費MPも減るからさ!」


「杖なしでも魔術は使えるの?」


 暇そうにしているオウカが呟く。


 黙ってるアキカゼは何してんだ……? あ、まだウィンドウとにらめっこしてるのな。


「杖なしでも使えるよ。多分、一律で『スペル』って扱いだからだと思う。武器を使おうがどれだけ魔法っぽかろうが、全部『スペル』ってくくりになってるみたいだからさ!」


「なるほど……。って危ねぇ! その仕様じゃなかったら、俺がさっき作った《毒霧》を使うのに杖が必要になってたかもしれないのか……」


「右手に刀、左手に杖……あんまりかっこよくない」


「かっこよさ以前に戦いづらいだろ」


 とか話してると、アキカゼが口を開く。


「割り込むようで悪いが、俺も準備が終わった。想定している役割を説明しておく。先と同じく、遠距離からサポートする予定だが、建物の中では上手く動けない。そこで《生命感知》というアニマを装備した。これで生命体の位置が分かるようになる。不意打ちをある程度予防できるだろう」


「サポートってわけ」


「そうだ、オウカ。残念ながらまだスペルを開放できていない以上、突破力という点では役に立てそうにない。得物も弓を選んだしな」


 背負う弓をとんとん、と叩いて言うアキカゼ。


 こいつもこいつで妙なプレイヤースキル持ちなんだよな。あの超エイムは何なんだ。


「矢は足りそうか?」


「案外そこら中に転がっている。加えて、《給矢》という矢を補充するアニマを装備している。MPを消費すれば矢を生成することができる」


「便利だね!」


「便利っつーか……弓使いには必須級じゃね?」


「命中補助とかはないの?」


「あるが、別に必要ない」


「自前のエイム力で補えるのはおかしいんだよなぁ」


 銃弾じゃねぇんだぞ?


 ……薄々思ってたけど、アニマの効果ってどれも結構強力だよな。グレードⅠの時点でも相当な働きをしてくれる。


「三人とも、準備はいいか?」


「俺はいいぞ」


「私も」


「わたしもバッチリだよ!」


「なら行こう。囚人がすぐそこまで来ている!」


 《生命感知》の効力か。


 バッと立ち上がる俺たち。アキカゼの視線の方を向けば、通路の奥から狂乱した囚人どもが姿を見せた。


「案内頼むぜアキカゼ!!」


「任せろ!」


 さぁ、心臓頭のところまで鬼ごっこだ!




================

 コガラシ    :鬼武者

 レベル     :13

 HP      :6890/6890

 MP      :3276/3276

 物理攻撃力   :621

 物理防御力   :554

 魔法攻撃力   :221

 魔法防御力   :268

 敏捷      :335

 技術      :278

 侵食力     :343

 抵抗力     :263

================

●キャパシティ上限:13 使用可能:0

《鬼武武術》 Ⅰ 基礎 消費1

《猛毒魔術》 Ⅱ 基礎 消費3

《毒攻撃》  Ⅲ 常時 消費6

《呪縛攻撃》 Ⅰ 常時 消費1

《毒痺攻撃》 Ⅰ 常時 消費1

《霧》    Ⅰ 連結 消費1

================


================

 オウカ     :復讐者

 レベル     :18

 HP      :5256/5256

 MP      :5112/5112

 物理攻撃力   :1350

 物理防御力   :140

 魔法攻撃力   :1094

 魔法防御力   :130

 敏捷      :727

 技術      :378

 侵食力     :241

 抵抗力     :302

================

●キャパシティ上限:18 使用可能:0

《復讐武術》 Ⅰ 基礎 消費1

《復讐》   Ⅲ 常時 消費6

《忍耐》   Ⅱ 常時 消費3

《不動》   Ⅰ 常時 消費1

《逆境》   Ⅱ 常時 消費3

《下剋》   Ⅱ 常時 消費3

《撃衝》   Ⅰ 常時 消費1

================


================

 トバリ     :異教徒

 レベル     :12

 HP      :2184/2184

 MP      :6888/6888

 物理攻撃力   :182

 物理防御力   :197

 魔法攻撃力   :694

 魔法防御力   :667

 敏捷      :252

 技術      :242

 侵食力     :223

 抵抗力     :283

================

●キャパシティ上限:12 使用可能:0

《異教魔術》 Ⅱ 基礎 消費3

《奪魔》   Ⅰ 常時 消費1

《吸魔》   Ⅰ 常時 消費1

《俊敏強化》 Ⅰ 身体 消費1

《痛覚耐性》 Ⅲ 身体 消費6

================


================

 アキカゼ    :暗殺者

 レベル     :11

 HP      :2618/2618

 MP      :2486/2486

 物理攻撃力   :299

 物理防御力   :191

 魔法攻撃力   :200

 魔法防御力   :187

 敏捷      :744

 技術      :612

 侵食力     :284

 抵抗力     :273

================

●キャパシティ上限:11 使用可能:0

《暗殺武術》 Ⅰ 基礎 消費1

《致命》   Ⅱ 常時 消費3

《奇襲》   Ⅰ 常時 消費1

《脆弱》   Ⅰ 常時 消費1

《隠密》   Ⅰ 常時 消費1

《給矢》   Ⅰ 常時 消費1

《生命感知》 Ⅱ 常時 消費3

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