第一章 12話 中年は藪以下でも医療の為、異能を開眼する

レイがこの口調の時は知らなかった事実を自分に伝える時、後は感情的になりすぎたときに諫める時だ。今回は前者だった。


『マスター、まずナノマシンって言うものが何なのか、どう考えてますか?』

「(うーん。俺が知っているナノマシンより遙かに小さくて俺の体内のだけ人格を持っている機械?じゃないの?)」


『それはマスターに受け入れやすく説明する為についた話で、厳密には違います。まず私、私達と言った方がいいでしょうか。私達は極微細な人造細胞、正確にはバイオナノマシンと言うそうです。マスターの体内に無数に分裂し全てが統一の意思を持って人格を構成しています。』


『体内に入るとマスターの細胞と共存できるように再構成され、異常なものは無害化して体外に排出したり、筋組織や各臓器、五感を司る感覚器官等、全てを限界まで向上させることが出来ます。肉体そのものの限界を超えることは出来ませんが脳のリミッター部分にも結合してますのでそれを解除して一時的に超人化する事も出来ます。勿論後で反動が来たり長時間の使用で身体が壊れますが、、、なので筋力を鍛えてくれると限界性能が上がります。現在は数倍の限界性能ですが経験で上がるものと思います。』


「(んー、サイボーグかと思ってたけどアンドロイドみたいだったって事?機械人間かフランケンシュタインの違いかな。でも今その話関係ある?)」

『はい。マスターの身体ですが、肉体の組成を変えて一時的に別の物質・形状に変えることが出来ます。例えば髪の毛を針にしてその中を空洞にすることも。』


「(まじか、、、嬉しいような嬉しくないような、いや生きていることそのものが幸せだからそれは良いか。見つかったら化け物扱い確定だけど。そのおかげでレイとも出会えたんだからな。)」


『ありがとうございます。改めて共存の許可を貰えて安心しました。勿論指先を鋭利な刃物に変えることも出来ますし、大気中の物質を利用して火水土風を出し更に電気を起こすといったことも可能です。それ自体は勿論マスターと私とで大気を操る訓練が必要ですが。これが長のところで聞いた不思議な力の真相かと。この世界の人は恐らく大気を上手に取り込みながら世代交代をした為に私達と似た力を出すことができるのでしょう。根本的には違いますが。』


『違う点は他にもあります。マスターの血そのものが武器となり道具となります。指先を切って血を体外に出すなどしてそれを糸状にして鋭利なワイヤーにすることや、礫のように相手に飛ばすことも可能です。一度に使う血液もせいぜい3~5ccですのでマスターの感覚では血液検査の採血一本分位で充分過ぎる量です、糸状なら1ccを距離に応じて多少強度が落ちますが人間の首を落とすくらいなら造作もありません。ただの健康細胞のつもりがマスターの身の安全を検討していたら色々出来ることに気づきました。』


「(そうか、おれとバカ話をしてるときでも頑張ってくれてたんだな。ありがとな、ホント。生き抜かないとな、この世界を。)」


『そう言ってくれると助かります。で、取り急ぎ本題ですが今回での藁の用途を髪の毛で代用しては如何でしょうか?藁を加工すると見せかけて髪の毛を大気中の物質と結合して硬化させます。抜く前に注射針状にしますので。』


レイの語った新事実は驚かされたものの、受け入れることが出来たのは一度死んだようなもので、生きていることが今の自分に取って最優先だったからだろう。あの死の宣告をもう一度受けるなら一瞬で殺してくれた方がマシと思うくらいに。


「(よし、それで行こう。だけど注射器のシリンジの部分はどうする?)」

『そこのコップを使いましょう。ここからは物質を変化させるので人に見られないようにした方が良いですね。』

「(わかった、もう魔法師みたいだねぇ。もうなんでも出来そうな気がしてきたよ。)」

『何でもは無理ですけどね。マスターも私も経験値がへなちょこですから!』

「(お、いつものレイに戻ったな、これで安心だ。やっぱりお前はいつものお調子者な感じが合ってるよ。さて、人払いの準備だな。未知の領域にトライだ!)」

『一緒に生き抜くんですから!私も死にたくないだけです!!あと、目の前にアンナさんが来てますよ?』


レイはこの話をしたら拒絶されるのではないかと思っていた。だから話すのが怖かった。しかしシドーは神経質だが、受け入れる事が出来る人間だった。安堵すると共に自分とシドーの絆が深まった気がしてレイは嬉しかった。


レイに言われて目を開いて顔を上げると、目の前を見るとアンナが帰っていて深刻な顔で見つめられていた。

「あ、おかえり。考えていたら気づかなかった。心配させたみたいだね。ごめん。最適な方法を考えててさ、、、」

「てっきり疲れて眠ってしまったのかと、、、あ、藁持ってきました。これで大丈夫ですか?」


アンナの持ってきた藁は程々に先が細くなっていて、上手くすり替え可能なものだった。

「ありがとう。これ使わせて貰うね。あとあのコップなんだけど貰っても良いかな。ちょっと道具に使いたいんだ。」

「ええ、そんなコップでよければ全然。でも何されるんですか?」

「えーと、ちょっと改造、かな?集中したいから悪いけど一人になれる部屋を借りて良いかな?」

「はぁ、わかりました。全てがシドーさんにおまかせします。私の寝室で部屋は少し散らかってますけどこちらで、、、」


案内された部屋はニーナがいる部屋の二つとなりでアンナの寝室のようだ。平屋で3LDKだ。この時代の庶民でこの家に住めるならここの土地は安いのか。シドーは昔の自分の家、ローンを完済させた同じく3LDKのマンション一室を思い出して羨ましく思った。


「ごめんね、女の子の部屋を占領して、できるだけ触らないようにするから。」

「気にしないで下さい、妹のためですし。それにシドーさんなら構いませんよ。」


構わないってどういうことかと思いながらも、やることが山積みなので考えるのを止めドアを閉めた。

『さてマスター、やりましょうか!楽しい楽しい工作の時間です!』

「(いや人の命かかってるから!ちゃんとしよう?)」


『あはは、そうでしたね。私にとってはマスタ

ー以外の命は余り重要ではないのでつい。さてまずは部屋の空気を清潔にしましょう。誇りとか微細なゴミ、細菌が舞っています。ここは部屋中を電気振動を使って全部下に落としましょう!』

「だよねぇ。で、電気出す方法か、、電気どうやったらいいの?」


電気を出す方法など検討がつかないシドーだった。

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