6 入国


有力者は約束を守り、俺達はすんなりとイランに入国できた。有力者は「おまけだ」と、イラン側国境の町の有力者を紹介してくれた。


国境越えに持っている金の半分を使ってしまった。俺の全財産の半分。

親の家族カードで引き出せるカネの半額。家は買えないけど小さいマンションくらい買える枠があった。

親は金食い虫学園に息子を入れるだけある富裕層。叱られやしまいが、いい顔はしないだろう。

が、残りはいろいろな取引に大盤振る舞いができる額ではない。

少々心細いが仕方ない。



イミグレで特別に短期ビザを出して貰っての入国だ。

滞在許可7日のみの短期ビザ。

トラックとジープも取り上げられず、入国させてもらえた。

短剣を除いた武器弾薬及び薬品類、無線機等はアフガン側の街の有力者に。携帯食の一部を残して大半をイラン側の街の有力者に引き渡した。もう俺らには必要ないものだ。


銃兵になった者達が、銃を引き渡す時に不安げな顔になったのが印象的だ。

まだ戦闘を経験していないのに、いっぱしの兵士に顔になっているのだ。



一通りの手続きが済み、イミグレから出る時に、イラン側の有力者が俺に封書を差し出した。


「テヘランに行き、これを防衛隊のカシムに渡せ。カシムは多くいるが、一番有名なカシムだ、誰でも知っている」

「ありがとう。なぜこれほどしてくれるのか?」

「お前は珍しい。外人で異教徒で、それなのに、我々の礼儀を知っている。だから、これは我々の神からの恵みだ」

「貴方方の神に大いに感謝を捧げます」

「うむ。道中、何もないと思うが、気をつけていけ」




トラックに戻ると、両のドアに紋章が書かれていた。しかも他のナンバープレートが付いている。イランのものだ。

「これはウチの頭領の紋章だ。テヘランまでは通用する。誰も何もせん。」

とトラックの横に居た兵士。

感謝し、

俺達は出発する。


女子達は国境を通過する前に全員、あの村で譲ってもらった服に着替えている。顔は出してもいいのがイラン式。ただ必ず髪を隠す必要が在る。




車はキレイに舗装された大きめの道を速度を上げて走る。

80キロくらいで走っていても、ビュンビュン抜かされていく。

高速ではない、国道だ。制限速度は80だか90だかだったか?


右側通行だが、ジープを運転している子達は日本ではあまり運転したことがないことが助けになっている。

車も左ハンドルだし。

アフガン国内でも川の橋からは舗装路だったので右側通行していたが、中央線もほぼないいい加減な道だったのであっちではさほど気にしていなかった。


左右に広がるのは砂漠。アフガンでは土漠が多かったが、こっちに入ると砂漠が多く、広がっている。

俺はジープの後ろに寝転んでいる。道がいいのでな、跳ねないから痛くない。

昼間なので、風は熱い。熱風だ。なので顔に布を巻いている。映画とかでよく見るような。

女子達も黒っぽい布をまいている。目だけ出しておいてのそれは、より敬虔なムスリムに見えるだろう。


今日はケルマーンまで行きたかったが、その手前に在る古都遺跡のバムで泊まろうと思う。

遺跡は壊滅しているが、再建し始めているという。しかし観光客も来ない。俺らが行けば少しは入場料を稼げるだろう。というのもあるが、遺跡というものを見せておきたい。観光客が多かった街なので、外人を知っているということもある。

あれほどの遺跡はほかにあまりないはずだ。



午後3時前にはバム市街地に入る。

少し大きめの、多分内国人向けの宿の前に停車し、トラックとジープを中庭に停められるか訊く。

幸い、というか、客は少ないようなので空いているとのこと。門は夜10時に閉め、朝5時に開けるとのこと。まぁ安心だろう。


で、女性のフロアはあるか?と、当然在るはずだが訊く。

ある。風呂は?。ある。食堂は?。ある。英語しかできない女性たちだが?。問題ない、うちのスタッフは英語もフランス語もできる。

流石観光の街バムだ。しかしこの宿は主にムスリム向けだがな。


トラックのところに戻り、中に誘導する。

トラックを中庭の、上から見やすいところに停車させた。

班長達を呼んで伝える。他の者達は整列して待っている。


1,2つある木箱はあそこに(指し示す)倉庫が在るからそこに収容。そしてこの南京錠を扉にかけること。

2,女子の泊まる部屋は女子棟。門入って左側が女子棟だ。大部屋2つだ。ベッドは無い。マットレスが立てかけて在ると思うので、それを床に敷いて寝る。シーツはこのあと1−2の班長、俺と来い。受付に案内する。お前ら英語いけるよな?

「「はい問題ないです」」。

3,この旅館は男子棟と女子棟に分けられている。ムスリム向けホテルだからだ。風呂は女子棟にあるものを使う。

4,食事も女子棟1階に女子専用食堂が在る。

5,お祈りの邪魔をしない。前を横切らない。そう長い時間じゃないんだ、待ってればいい。

6,俺に連絡したいときは受付で俺を呼び出してくれ。

追加で、

明日午前中はこっちの文化でお前らが覚えなければいけないものを教える。

その後、午後から、世界でも有数の遺跡に行く。一度見ていくべきものだと思って、この街に寄った。

と伝えた。


「はい!」

「おう、なんだ?」


「バムの遺跡ですよね?壊滅したと聞いています」

「よく知っているな。そうだ。だから行く。そして、いつか、修復が終わったら、その時にまた見に来い。」


「他に、何かあるか?」

・・・

「よし、あとの予定は班長が伝えるだろう。」

「1,2の班長は俺と受付に行くぞ」

3班長に、部屋の鍵を渡す。2つ。


俺と1,2班班長と、その他に分かれる。

俺達は男性棟の門側にある受け付けに行く。


受付を済ませてくれていた。先程旅券を渡して受付を頼んでおいた。

金を払いシーツを31枚もらい、俺が1枚取る。あとは1,2班長に。


そして、受付の女性に

「彼女達が我々の女性のリーダーだ。仏教徒だがこちらのしきたりを守ろうと、今覚えている最中だ。何か気づいたら教えてやってくれ。」

と、伝えた。彼女は快く受け付けてくれた。基本的には、女性の客には女性の受付が、男性の客には男性の受付が対応する。外人向け宿ではその限りではない。


夕方のお祈りの後から食事ができるというので、

「アザーンって知っているだろう?あれが祈りの合図だ。その後30分くらいたったら、まぁ大体の人たちが祈り終わってるだろうから、食堂に行けば食事は出来ると思う。作法は周囲を見渡して真似すればいい。食事の前の手洗いは念入りに。

あと、大丈夫だとは思うが、こっちの者達は騒がしくしないので、お前達も気をつけてくれ」

「「はい!」」


受付の男性が、マスクを人数分くれた。



彼女たちが女性棟に行くのを見送る。

さて、

男性の受付に声をかける。

「モバイルフォンの中古が無いかな?勿論sim付けて。」

「何台?」

「31台」

・・・・・・

「キャッシュか?どの通貨?」

「ユーロキャッシュで」

それから商談。大体話がまとまり、明日朝までに用意するとのこと。

全数作動を確認し、問題なければその時点でキャッシュで払うと決まった。

ついでに「国際通話ができないようにしておいてくれ」と。

俺らの位置をまだ知られたくない。なんとなくそう思った。

ここ以外でもそうだが、モノを買う時などは、こちらが相場を知っていればぼったくられることは無い。新品価格がわかれば中古の相場は大体見当がつく。


「で、あんたら兵隊さん?」受付男性

「ん?学生だぞ?」

「へぇ?え?日本人だろ?」

「ああそうだが、、」

「昔(地震前)は日本人観光客も多く来たが、あんたらみたいのはいなかったなぁ、、」

「ああ、俺達、少し苦労したんだよ。」

ふーん、、、


外国で、話をこのように終わらせた場合、しつこく訊くやつはいない。しつこく訊くような性格の者は周囲から相手にされなくなる。勿論いじめなど面倒くさい無駄極まりないことをする奴等もいないので、基本放置され、そのうち本人も改心する。




晩飯はチキンカレーとナン、ダルスープ。それとチャイ。と言っても、チャイはインドみたいに濃い香辛料多めではなく、限りなくミルクティーだった。

俺の本体と今の記憶では食べたことはあまりないが、昔の記憶ではとても懐かしいと言っている。


「食べ方、うまいなぁ、、」

受付のあのにいちゃんが食堂を手伝っているのか、チャイのおかわりを運んできてくれた。

「ああ、久々だが、とても懐かしい味だし、とても美味かった。」

「それはよかった。で、遺跡には行ったのか?」

「明日行こうと思う。朝のうちにモバイルを貰えれば、班ごとに行動できるので助かる」

「ああ、任せとけ。で、俺が案内してやろうか?」

「助かるか、、いいのか?仕事は」

「おやじに断れば大丈夫だ。」

オーナーの息子か。

「じゃ、よろしくたのむ」

「おう!あの紋章を付けた客にサービスしないと後が怖いからな」

ああ、忘れてたけど、、恩恵があるのか、、、安全だと言われたのがわかるな。

そして、ここのオーナーもそれなりの有力者というわけか。


なにか助けることをしておかないとまずい、と思うくらいなのだ。悪事などするわけがない。多分、夜中には車のそばに夜警を一人くらい付けてくれるだろう。



夜寝る前に窓から外を見ると、案の定一人の男が車のそばに簡易ベッドを置いて横になりながらスマホでTVを見ていた。

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