第2話 プランク・サポーター

 風と同じく白い球体に飲み込まれ転移した冬馬が着いた場所は他のクラスメイトと同じく戦場の中。風達に比べると化け物側に寄った位置であった。


「ここって…嘘…でしょ?」


 突然の転移に思考停止したのは、ほんの一、二秒。視線の先にクラスメイトが居たのを確認した彼はただ助けることだけに全身全霊かけて尽くした。数名回収した頃、冬馬の元に白づくめの集団が現れる。警戒心を強めた冬馬だが、まさか全員が全員その場で膝を突いて頭を下げるとは予想もしていなかった。


「我らかんなぎ教団の者。『柊木冬馬』様。此度の来訪を心より歓迎致します―――そして、巫教団は柊木様の此方での生活を全力で支援致します」


 巫という名前には聞き覚えがあった冬馬だが、教団の存在までは知らない。素性も明かさない時点で怪しさ満点の組織だが、今は他に頼る者も居ないので彼等に協力を願いでた。

 そこで、初めに依頼した内容は戦場に散り散りになったクラスメイト達の回収と安全の確保。怪我人は教団側が治療し、破れた服は全員勝手に着替えさせれば問題無いとのこと。


「こういう支援者が一番怖いんだけど……」

「巫教祖の言伝です。『親愛なる冬馬へ、巷では自分を慕う部下の数が攻撃力になるらしいので集めてみました。是非ご自由にお使いください。追伸、冷蔵庫のプリン食べてごめんなさい、あんまり美味しく無かったよ』とのこと」


 力の籠った声で読み上げられた教祖の言葉はおそらく200年前に教祖が残したであろう悪ふざけ。だが、柊木冬馬にとって巫という名前を持った知人は文面通りの事を平気でする人間であることを知っていた。だからこそ、彼等が今は善意から協力したいと願い出ていることが判断できた。


(はちゃめちゃ極まりない言伝だけど、知ってる巫の言いそうな言葉…てかプリン言わなきゃいいのに、変なところ真面目だ)


「飛躍し過ぎて意味不明な言伝ですけど、適当と適当でコンボするところは巫ですね。でも、其方の扱いが雑じゃないですか?」

「我ら200年の間、巫様にお仕えしてきました。これが幸福です」


 教団員達は皆、弾んだ声でそう語る。そうですかーと死んだ魚のような目のまま軽く受け答えした冬馬は身体の向きを反転して戦場の方へと向ける。そして、気を引き締めると片手を挙げた。教団員達は号令を待つ兵士のように身構える。


「では、第一次救出作戦…開始!!」


 ◇◇◇◇


 戦場から風と華奈を連れて帰還した冬馬は、残りの自分のクラスメイト及び教師達を白い法衣を纏った集団に引き渡す。彼等は法衣で顔を隠しており、さながら西欧の修道者に似ている。


「では、彼等の身柄は我々が引き継ぎます」


 代表して一人が前に出る。身体付きからして男性のように見えるが、声は男性にしては高く女性にしては少し低めであった。


「お願いします…」


 冬馬が最後の二人を預けると、教団員達は商隊の馬車に放り込んだ。馬車は何台も用意されていて、風達を連れてくる以前に三台は出発させていた。ひと段落して、ホッとする冬馬の元に教団員の一人がやってくる。


「先ほどの打ち合わせ通りに王宮で目覚めて国王辺りに適当な演説でもさせる形を取りましょう。この戦場の事は戦場が恐ろしいか実感してもらう為の演出にしておきます」

「国王辺り…まぁそれでお願いします…」


 何から何まで用意していたと言うのだから感謝より疑問に思う点が出てくる。

 品物を見定めるように顎に手を当て見ていると、逆に教団員から冬馬に声をかけられる。


「冬馬様は?」

「あ~にして下さい」


 彼等の前からいではあった。


 何故なら、この異世界転移は柊木冬馬が彼等のクラスに起きたからである。


「しかし、そのような事は…」

「いいから、いいから」


 渋る教団員に冬馬は大丈夫だからと急かす。既に数名に顔を見られている。国王とやらがどんな人間かは知らないが、演説中に教師や生徒達から穴を突かれて狼狽るのも困る。


「では、失礼して―――」


 教団員は右の拳を握りしめて重心を落とす。頭巾で表情までは読み取れないがギラついた鷹のような視線に睨みつけられる。この時点で何か可笑しいと判断した冬馬は教団員に聞き返す。


「失礼? グホッ……」


 不意を突かれた出来事に冬馬は反応出来なかったが、どうやら目の前の教団員に顔を思いっきり殴られたらしい。衝撃は全身を駆け巡りその場に倒れ伏して意識がなくなり始める。


「え…何やってるの?」

「え? 一緒の扱いが良いっていうから気絶させて運ぼうと……」


 突然の惨事に後ろで構えていた教団員達が慌てふためく。彼等もまさか殴って気を失わせるとは思わなかったようで、後ろから声をかけた教団の一人が慌てながら殴った教団員に声をかけていた。


「ち、ちょっ…ちゃん! 違う違う! 殴らなくて気絶させなくて良かったの!」

「はっ……もしかして? 連れてくだけで?」


 もしかしてじゃねぇよと心の中で声を上げたかった冬馬だが、ミーナの一撃は偶然か故意か顎を思いっきり殴られたので意見する前に気絶していた。


「…し、失礼した! いえしました!」

「もう落ちちゃってるよ…運ぼうか」


 殴り教団員ミーナは頭巾で顔を隠していて周りに見せないようにしていたがその下は真っ赤に染まっていた。誰もが彼女の気持ちを理解しており、これ以上は無理かと他の教団員が判断して指揮を代わりに取り始める。


「では、これにて——転進!」


 伸びた冬馬は他のクラスメイト達と一緒の場所に運ばれて戦場から無事離脱する。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る