第二章 ~『ジークの調査』~


「なんだか、滅茶苦茶な人でしたねー」

「だな」


 リーグルを追い返したジークたちは椅子に腰を落ち着ける。彼の相手をしたことで疲れが溜まったのか、二人はふぅと息を吐いた。


「でもジークさん、本当に大丈夫なんでしょうか……」

「何か心配事があるのか?」

「あの人、師匠の上級魔法使いが報復しに来ると脅していましたよ。また強盗に来たらと思うと不安で……」

「ないない。あんなの嘘に決まっている」

「随分と自信がありますね」

「当然だ。上級魔法使いは中級魔法使いより上位の等級で、千人に一人しかいないんだぞ。冒険者なら金等級相当の実力者で、銀等級のクロウよりも強いんだ」

「それなら大したことないような……」

「クロウが聞いたら泣くぞ……」

「す、すいません、悪気はなかったんです。つい本音が……」

「クロウも冒険者の中ではかなりの腕前なんだがな……まぁいい。とにかく上級魔法使いは王国でも屈指の実力者だ。そんな奴が強盗なんてすると思うか?」

「思いませんね」

「しかも襲う相手は定食屋だ。そんな馬鹿な奴いるはずがない。リーグルの残した言葉はただの負け惜しみさ」

「ジークさんの言う通り、心配する必要はなさそうですね」


「ジーク、エリスちゃん。クロウ様がきてやったぞー」


 二人だけの空間を壊すように満腹亭の扉が開かれる。クロウは店内を見渡し、残念そうな表情を浮かべる。


「もしかして店仕舞いしたのか?」

「ああ。今日の営業はもう終わりだ」

「一足遅かったか……まぁいいや。今日来たのはジークに別件があったからだ」

「別件?」

「強盗に襲われたんだってな?」

「ついさっきの出来事なのに、どこでその話を? いや、それより心配して来てくれたのか? ありがとな」

「ははは、まさか。ダークオークを倒せる男が強盗に負けるわけねぇだろ。心配するだけ時間の無駄だ」

「なら何の用事で来たんだよ?」

「実は冒険者組合に面白い依頼が届いたんだ。その話がしたくてな」

「面白い依頼ねぇ」

「その依頼はなんとジークの身辺調査だ」

「はぁ?」


 ジークは自分が調査される理由に心当たりがなかったために困惑するも、クロウは気にせず話を続ける。


「交友関係や収入、他にも使える魔法や実力などなど、ジークに関する情報なら何でもいいから調べてくれってさ」

「さては俺のファンかな?」

「オッサン鏡見ろ」

「冗談だ。そんなことより、俺について調べてどうするつもりなんだ?」

「さぁな。それは依頼人のみぞ知ることだ」

「ならその依頼人に問いただしてやる」

「それは無理だと思うぜ。匿名希望だったし、報酬の受け渡しも冒険者組合を経由して行われるからな」

「なんだか気持ち悪いな。でもどうせただの悪戯だろ」

「いや、それはないと思うぜ。なにせ金貨十枚の依頼だからな」


 金貨十枚、それはオーク討伐並みの報酬である。とても悪戯に支払えるような金額ではない。


「そこでさ、ジークに提案があるんだ」

「提案?」

「この依頼を俺たち二人で達成しないか?」


 ジークは二人で達成という提案の意味をすぐに理解する。


「俺は個人情報を提供し、クロウは依頼の窓口をするってことか?」

「俺の報酬は金貨一枚でいい。それでどうだ?」

「アンケートに答えるだけで金貨九枚なら、割の良い仕事だな。よし、受け――」

「駄目ですよ、ジークさん」


 ジークは依頼を受けようとするも、エリスが心配そうな表情で反対する。


「もし依頼人が悪意ある相手ならどうするんですか? 酷い目に合うかもしれないんですよ?」

「当たり障りのない範囲でしか答えないから大丈夫だ」

「でも……」

「エリスちゃんは心配性だな。でもまぁ、ジークなら大丈夫だ。なにせダークオークを倒せる男だからな」


 クロウはエリスの心配を他所に、冒険者組合から受け取った質問リストを取り出す。羊皮紙に書かれた質問に上から目を通していく。


「面白い質問がたくさんあるなぁ。第一問、ジークの顔はイケメンか?」

「はぁ?」

「ジークさんは整っている顔をしていると思いますよ」

「でもデブなので台無しと」

「おい!」

「第二問.ジークの女性遍歴は? まず大賢者様だろ。他に恋人がいたことはあるのか?」

「いや、俺はリザ一筋だったからな」

「へー、意外と純情なんだな。オークみたいな外見してるくせに意外だぜ」

「さすがの俺もそろそろ怒るぞ……」

「すまん、すまん」


 クロウはそれからもいくつかの質問を投げかける。交友関係や、特技など、当たり障りのない質問が続き、ジークはそれに淀みなく答えていった。


「これで金貨十枚か」

「俺の取り分があるから九枚な」

「そうだったな。でもやっぱり不思議だ。何のために俺の情報を調べているんだろうな……」

「もしかして本当にジークのストーカーがいたりしてな」

「ははは、まさか」


 ジークは頭にリザの顔が思い浮かべるが、彼女が自分に固執するはずがないと、すぐにその考えを振り払う。結局、依頼人の目的も分からないままに、ジークは金貨を手に入れるのだった。

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