Love,

 どれくらい、彼女の胸で泣いただろうか。


 気付いたとき。


 ひとりだった。


 病院の中庭。

 ベンチ。

 座っている自分。


 これは、本当の自分なんだろうか。それとも、他人の顔色ばかりをうかがう、偽物の自分か。


「あ。起きました?」


 隣から、夬の声がする。ひとりでは、なかった。夬がいる。


「ええ。おはようございます」


 でも、夬ではない。


「びっくりしました。あなたが、あんな、ええと、奇抜な顔のかたとお付き合いしているなんて」


 遠くのベンチで。

 冷加と真季が、遠巻きにこちらを見つめている。


「あなたは、もっと、こう、清純なかただと思ってました。そう、ええと、この前見たドラマの主演女優みたいな」


 夬の挙げたドラマの主演は。真季だった。テレビに挿したままだったデータUSBを見たらしい。


「その女優。どんな演技をしていましたか?」


「すごい演技でしたよ。心が打たれました」


「そうですか。それはよかった」


 夬。夬は、もう。いない。そう、思うことにした。隣にいるのは、違う夬で。ドラマを見て表情を読み取れる、夬の夢を叶えた、夬。


「そのドラマの主演女優。女優やめるらしいですよ」


「えっ。そんなばかな」


「真季」


 立ち上がって、彼女を呼ぶ。

 真季。すぐに駆け寄ってくる。


「どうしたの?」


「ようやく、決心がついたよ。真季。俺の隣に、いてくれ」


 化粧をした真季の顔が。綺麗に紅くなった。


「本当の俺は。夬と一緒に死んだ。だから、次の俺の本当は、まだ分からない。だから、ええと。俺の本当に、なってほしい」


「よろこんで」


 彼女。綺麗に、会釈をする。モヒカンが、ふわっと揺れた。


「えっ。やっぱり引くなあ」


 夬。びびっている。


「モヒカンの人に告白するなんて」


「夬。あなたにはわたしがいるわよ」


「うわっ」


 冷加が、夬に抱きついている。


 また真季に抱きついたら、泣いてしまいそうだったから。


 手を繋いだ。


 暖かい。


 この暖かさは、本当なのだと、なんとなく思った。

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心の死、あなたの表情 春嵐 @aiot3110

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