7月13日


 放課後。

 生まれて初めてのカノジョと公園のベンチに座っている。

 たい焼きを食べながら。



「たい焼き、おいしいわ」


「たい焼き、好きなの?」


「好きだけど、食べ過ぎると太ってしまうから、嫌いよ」


「それを言ったら、すべての食べ物がそうだと思うけど」


「とんかつが食べたいわ」


「どんだけ好きなんだよ。とんかつの方が太るでしょ」


「とんかつはおいしいから、平気よ」


「一行目の台詞、もう一度言ってみなよ」





「今の私たちって、周りの人からどう映るのかしらね」


「そりゃ、恋人同士だって見られると思うよ」


「えっ!?」


「何を、今更」


「……恥ずかしいわ」


「何を、今更」


「兄妹っていうセンもあるんじゃないかしら?」


「同じ高校の制服を着て、並んでたい焼きを食べる兄妹の方が珍しいんじゃないかな」


「あなたって、理屈っぽいのね」


「初めて言われた、嬉しいよ」


「……」


「……イヤなの?」


「えっ?」


「いや、僕と恋人同士に見られるのが、イヤなのかなって」


「……そういう、わけじゃ、ただ……」


「ただ?」


「…………不安で」


「えっ?」


「私、ちゃんとあなたの彼女をやれているのかなって、不安で」


「……」


「……ど、どうして黙るの?」


「いや、その顔、すごいかわいいなって」


「………………」


「ほっぺた、真っ赤だよ」


「……私の前世は、トマトだったのよ」


「へぇ、僕、トマト大好物なんだ」


「あなたは、相変わらずエッチなことばかり言うわね」


「言ったことないし、キミの脳内の方がよっぽど卑猥だと思うよ」


「…………本当に大丈夫かしら、私はあなたのカノジョなのかしら」


「大丈夫だって、なんでそんなに不安なの?」


「だって……」


「……だって?」


「…………私のことが好きって、あなたの口から聞いたこと、ないから」


「えっ?」


「……」


「……」


「……」


「……好きだよ、キミのこと」


「――えっ?」


「……気づいてあげられなくて、ゴメン」


「…………いえ、あり、がとう……」


「……」


「……」


「……キミの口からも、聞きたいな」


「えっ?」


「……いや、好きって、キミからも聞きたいなって」


「……………………」


「……………………」


「……………………好きよ」


「……えっ?」


「…………」


「……声が小さくて、よく聞こえなかった、もう一回――」


「……………………」


「……………………」



「……今日は、天気が良いわね」


「さっきと、違うじゃん」


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