第5話 今度のサメは豚肉だ!

 オレゴン州にある養豚場にて、ある日全米を震撼させる出来事がおきた。


「こいつはたまげたな……まさか」

 

 養豚場のオーナーがソレを見て戦慄している。何せ前代未聞なのだ、その事件は一頭の豚から始まった。

 否、一頭の豚から産まれた。

 

「まさか……豚から鮫が産まれるとはなぁ」

 

――――――――――――――――――――


 それから更に数日後。ホワイトハウスにこの様な情報が入ってきた。

 

「鮫が民間人を襲っているとな」

 

 由々しき事態である。早速大統領が現地に赴いて調査する事になった。

 場所はオレゴン州にあるポートランド市、全米でもっとも環境に優しいと言われる都市だ。

 今そこでは凄惨な事件が起きている。豚から産まれた豚肉の鮫が街を走り回って人々を食べているのだ。

 豚肉の鮫、刺し詰め「ブタニクシャーク」と名付けよう。

 

「早速きたか!」

 

 大統領が自家用ランニングマシンで街に入った瞬間、プロテインの匂いに引き寄せられて一匹のブタニクシャークが襲ってきた。

 高度600メートルにあるランニングマシンから飛び降りながらブタニクシャークへ飛び掛る。数秒で縮まった距離、大統領は手刀でブタニクシャークを加工せんとするが、ブタニクシャークはそれを紙一重で回避して尾鰭で反撃する。

 豚肉の如き速さで繰り出された尾鰭は豚肉のような硬さを誇り、豚肉で殴られたような錯覚さえおぼえさせた。

 

「バラバラにして豚バラ肉にしてくれよう」

 

 豚バラ肉とは別にそういう意味では無いのだが、落ちながら大統領は手刀でブタニクシャークを切り刻んでいく。

 着地する頃には、ブタニクシャークが付近の車のボンネットにオードブルのように盛り付けられていた。 

 

「ヘイ! 俺の車のボンネットはバーベキューする所じゃないぜ!」

 

 近くのビルの影から出てきた人物は車の持ち主だろう、彼は少しイライラしながら大統領の側へよる。

 勝手に盛り付けてしまった大統領が全面的に悪いので素直に謝る。

 

「ソーリー、直ぐに片付ける」

「BBQやるなら車の屋根でしな!」

「Yeah!!」

 

 とてもノリのいい御仁である。

 しばらく彼と共にブタニクシャークで焼肉パーティーを楽しんだ。

 

 

「ところで、ブタニクシャークはどこから現れるのか知ってるかな?」

「それはわからねぇが、今は中央にあるキッチンショップから一番多くでてるぞ」

「キッチンショップだな、ありがとう」

 

 大統領は急ぎキッチンショップへ向かう。もしブタニクシャークが知性を持っているのなら、キッチンショップに陣取られると面倒になる。

 誰もがキッチンを携帯するこの時代、もしブタニクシャークがキッチンを使って警官隊とキッチン戦を繰り広げたら死人がでるかもしれない。


「しまった! 始まっていたか!」

 

 大統領の不安は当たっていた、ブタニクシャークと警官隊は既に料理勝負を始めていたのだ。

 しかもブタニクシャークは自らの身体を食材として料理している。料理への真心具合がケタ違いだ!

 

「自らを材料とするから常に新鮮な物を提供できるというわけか」

 

 僅かだがブタニクシャークの方が調理速度が早い、調理の早さが料理の美味さに直結するわけではないが、ことここにおいては速さが勝負のキモになる。

 そして案の定ブタニクシャークが一足早く料理を完成させて提供した。

 

「ブタニクシャークのムニエル! なんと美味な!」

「ちくしょう! 美味い!」

 

 警官隊が次々とブタニクシャークの料理の虜になっていく。このままでは全員ブタニクシャークの餌食となるだろう。

 大統領は急いで彼らの元に向かう。

 

「ブタニクシャークは食材なのだから料理勝負に応じずに直接調理すれば良いのでは?」

「……」

「……」

 

 その発想はなかったらしい。

 警官隊の逆襲はあっという間であった。

 

――――――――――――――――――――


 さて、街中のブタニクシャークは警官隊に任せ、大統領は大量のブタニクシャークを生み出している場所を突き止めるべく散策を開始した。

 野生のブタニクシャークに備え、作るのが簡単なオートミールを用意しておいた。

 

「ブタニクシャークはあちらの方が多いな」

 

 一通り見て回ったところ、東側が特に多いみたいだ。ブタニクシャークの巣もしくはプラントが東にある可能性が高い。

 善は急げ、大統領は襲ってきたブタニクシャークの口にオートミールを突っ込んで満腹にしてから東へ走る。

 案の定東へ行けば行くほどブタニクシャークが増えていく。そしてこの先にあるのは。

 

「なるほど養豚場か」

 

 ブタニクシャークは豚肉でできた鮫、なればそれを生み出したものはブタニク、否豚肉そのものである。つまり豚。

 そう、豚肉でできた……ブタニクピッグなのだ!

 

「豚がブタニクシャークを生み出していたのか……まあ有り得る話ではあるな」

 

 しかしでかい、ブタニクピッグの大きさはゆうに五十メートルはある。ここまでくると最早怪獣といっても差し支えない。

 幸いにもブタニクピッグは図体ゆえ満足に動けないようだ。つまり加工するなら今である。

 

「今夜はBBQだ!」

 

 さっきBBQ食べたばかりである。

 最早ビル並の大きさを誇るブタニクピッグまで一足飛びで距離を詰める、大きい獲物を仕留める時は足元から崩すのが鉄則ゆえ、大統領はそのまま手刀で豚足部分を切り落とそうと試みる。

 手刀から発せられた加工用真空刃で右足を切断する事に成功した。

 ブタニクピッグの悲鳴と共に右足が落ちるが。

 

「ほう、バランスを崩さないか。見事な体幹だ」

 

 三本足で巨体を支えてるのかと思うと驚愕である。

 ブタニクピッグは恨めしそうな瞳で大統領を睨みつける。右足があったところからは真っ赤な血液がボタボタと流れ落ちていたが、直ぐに止血され、また新しく右足が生えてきた。

 

「これは、豚肉の相場が崩れるな」

 

 大統領は切り落とした右足を鍋にいれてグツグツと煮出し始めた。

 豚足を使って出汁をとり、そこからスープを作ろうと言うのだ。それを察知したブタニクピッグは体当たりで阻止しようとするが、大統領は鍋を守るべく片手でブタニクピッグの頭を掴んで地面に押し付けた。

 

「スープができるまで私と遊ぼうではないか」

 

 そこから数時間に及ぶ激闘が繰り広げられた。大統領は時折鍋を掻き混ぜ、その合間にブタニクピッグと戯れる。

 いつしかそれは戦いではなく、人間と豚の遊びとなっていた。

 大統領が腕立て伏せをすれば、ピッグがスクワットをする。ピッグが腹筋すれば、大統領がプランクを行う。最早そこにあるのは平和的な異種族筋トレであった。

 

「実にいい筋トレであった!」

「ブビィ!」


 共に筋トレをした一人と一匹、筋トレの後は仲良くタンパク質を摂取する事に、それこそ煮込んでいた例のスープであった。 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 それから

 ブタニクピッグはあのままオレゴン州のマスコットとなった。マスコットというには少々大きすぎるが、切られても即再生する生命力やブタニクシャークを生み出す母胎を買われ、政府管理の元で食材供給源として飼育される事となった。

 

 ブタニクシャークの増殖力は凄まじいが、調査の結果ブタニクシャークはブタニクピッグがストレスを感じた時に産まれるらしいので管理すれば抑えられそうである。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 オレゴン州から帰還し、ホワイトハウスの執務室で公務の料理をしている大統領は、先の事件を思い出して感慨にふけっていた。

 

「これにて解決だな」

「そうですね、ところで大統領は何をやっておられるのですか?」

「あぁ、燻製をな。ブタニクシャークの肉でパストラミを作ってみたのだが、一つどうかね?」

「頂きます.......ふむ、味付けはプロテインと.......なんでしょう」

「ブタニクピッグの脂だ」

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クッキング大統領 芳川見浪 @minamikazetokitakaze

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