第4話渋谷事件(1)
官邸を出た神威大和と森田愛奈は、メトロなどを乗り継いで、住居とされた自由が丘に向かうことになった。
首相からは「政府が住居まで、送ります」との申し出があったけれど、神威大和は「渋谷で降りてみたい」「普通の交通機関で」との意思表示。
首相も、それ以上は言わなかったので、森田愛奈も従うしかなかった。
ただ、森田愛奈は気になった。
そもそも、現時点で正体不明の神威大和が、「何を考えて」渋谷で降りると言ったのか。
それも、最高権力者の首相の申し出を断ってまで。
そのため、丸の内線に乗りこんだ時点で、恐る恐る、聞いてみる。
「あの・・・神威様・・・一つ質問が」
神威大和は、森田愛奈の顔を見る。
「はい、ところで、まず僕は年下です」
「今後は、神威君とか、大和君にしてもらえますか?」
「確か、森田様のほうが、年上かと」
森田愛奈は、また押された。
少し笑った顔が、実に美形で可愛らしかったから。
それでも、ドギマギしながら、懸命に返す。
「はい、神威君でいいかな・・・あの・・・」
「渋谷で降りるって、どういうこと?」
「そのまま送ってもらって、自由が丘に行くほうが楽なのでは?」
すると神威大和の目が、キラリと輝いた。
「気になることがありまして」
「それも、人命に関わることと、その原因の難しさもある」
「どうしても、死なせるわけにはいかなくて」
その表情も、厳しくなっている。
森田愛奈は、その言葉、表情に、また押された。
それでも、神威大和に聞き返す。
「神威君、一体、何?」
「意味が・・・全くわからない」
神威大和は、答えず、地下鉄車両のドアを見る。
「もうすぐ、渋谷です」
「ホームに降りたら、歩道橋までダッシュします」
「ご覚悟を」
森田愛奈が「え?」と驚く中、神威大和はますます厳しい顔になっている。
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