手順

ウィリアム隊長が歩み寄ってきてデリスに声をかけた。


「たいへんなことになったな……、実弾を使う実戦ってことだろ……」


「まあ射出装置があるから」


「射出の衝撃で首の骨が折れたり、キャノピーに直撃して即死ってこともあるわけだろ?」


「可能性を言えばね」


「困ったな」


「困りはしないよ。俺が勝とうが負けようがあんたのタイミングで突入すればいい。向こうは人質を解放したりしない」


「じゃあ意味なくないか?」


「国際社会の視点では意味がある。人質解放の可能性に賭けて手順を踏むってことだから」


「それでいいのか?」


「あんたが俺の立場でも同じことをするだろう。空の戦いが用意されれば戦うだけだ。琉も同じくね」


するとアイザックがドアを開けて会議室に戻ってきた。意外に早い展開である。ドアの外にいたのか。


「世界政府の承認を得ました。デリス、あなたの言う通りにしよう。自律型UW44を呼びます。格納庫周辺は琉とエンジニアだけが立ち入りを可能とします。その線で向こうと調整して下さい」


「わかった。ありがとうアイザック」


安堵のような空気が流れ、室内に静寂が訪れる。話が途切れたところで私はデリスに尋ねた。


「この中継ってデリスのアイデア?」


「まさか。上からの指示だよ。機内でアイザックに言われたんだ」


「統治AIたちはどうも表舞台で人類が戦うのを見てみたいようで」


そうアイザックは言った。それからやや声を落としてつづけた。


「個人的には申し訳ない。実験にかけるみたいで」


隊長が言った。


「内実は社会実験か。SWのシステム全体を表にさらし、人類が、各国が、国際社会がどう受け止めどう対処するかの」


デリスが悲しげに言った。


「たぶんゆくゆくは世界中を日本みたいにしたいんだよ。何もかもをごく自然にすんなりと受け入れる種族にさ」


デリスらしい物言いである。でも私は反駁があった。


「その悪口は、私はおかしいと思います」


私は私なりに必死でそう言ったのだが、誰も返答はしてくれなかった。






           [第二章・幕]




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る