第44話 来るべき災い

「私のターン、ドロー」


 勢いはなく、静かにウルティはカードを引く。俺のカードは合計2枚なのに、これであちらは4枚だ。負けたら誘拐犯だし、差がついてしまうとやっぱり焦りが出てしまうな。

 深呼吸して落ち着くんだ俺。追い抜かすチャンスは必ず出てくるはず。


「意外とあっさり決着がつくかも。運命の人が私より弱いわけがないし、もしかしたら?」


「なぁ、さっきから言っている運命の人って何なんだ? 結婚相手とか恋人とかそういう?」


「結婚相手ぇ!? ご主人様! それは駄目です、ロリコンですよ! ゴニョゴニョ……本当の犯罪はいけません!」


「なんてこと言ってんのよアンタ!? 嫁には出さないわ。そんなことをするのならアタシが燃やし尽くしてやる! はっ、アンタ、ウルティにあんなことやこんなことを企んで。だから誘拐を!」


「た、例えだろ例え! それにそんなことは考えていないぞプロメさん!」


 焦りに焦るクロンとプロメ。なんか慌て方が二人とも似ているところがあるというか……。

 いや、それよりどうしてウルティが運命の人というものにこだわるのかが聞きたい。争闘コンフリクトしてまで俺についていきたいというのだから、占い以上に大きな理由があるのだろう。


「えーっとね、占いに出てたの。大きな災いがこの国に降りかかるって」


「それで……?」


「救世主のドラゴンを連れた運命の人が来て、力となる4体のドラゴンと共に災いを打ち破る……だから、きっとその竜族の人を連れたあなたが運命の人」


「えっ、えーっ!? 私が救世主ですかぁ!?」


「はあああっ!? こんなアタシより下のポンコツドラゴンが救世主ぅ!? しまった、この言い方じゃアタシまでポンコツじゃない! アタシはパーフェクトな探偵ドラゴンよ!」


 急に救世主とされたクロンが慌てふためく。正直俺も驚いた。プロメにポンドラって呼ばれるほどの彼女が国を救うだなんて。

 でも、それは……


「それって占いの話だろ?」


「そ、そうですよ! 占い通りのことが起こるとしても、救世主はきっとリームのことです! 今変身すらできない私なんかより強いしカッコイイし、よっぽど救世主に向いていますよ……」


「むぅ。わたしのうらないはあたる! いっつもぷろめ、わたしのうらないをあてにしている! そしてあたる!」


「ウルティイイイイ!? それをこんな場所で言わないでええええ!!」


 得意な占いを否定されて腹が立ったのか、ウルティの口調や調子はほんわかしたものに戻ってしまい、御立腹の状態だ。腕を組んで頬を可愛らしく膨らませている。

 そして、占いの結果を推理に利用していたのかよ……とんだ探偵だ、プロメ。そりゃあ見物人の話通りに穴だらけの推理になるわ。顔を真っ青にしている彼女も十分にポンドラだぞこれじゃあ。


「でもよわいひとに、わざわいはたおせない! だからわたしがためす! わたしもきっとうんめいのどらごん!」


「ウルティ! アンタが確かに強いからって、あんな奴についていって危険な目に合わせられるなんて、アタシは許さないわよ!」


「だったらぷろめもついてくる? はなしにでてたりーむ、くろん、わたし、ぷろめ。4たいのどらごん!」


 占い通りに4体のドラゴンが揃ったかもしれないと、手放しで喜ぶウルティ。

 うーん、はたしてポンコツそうなドラゴンが半分以上を占めるパーティで災いなんて振り払えるのだろうか? リームは料理下手ってクロンが言ってたけど、まだそれじゃあポンコツポイントが足りない……ポンコツポイントって自分で考えておいてなんなんだこれ。


「馬鹿なこと言わないで! アタシが、汚らしい人間なんかに……! 誰がっ、付いていくか!」


「ぷろめ……まだ、あのときのこと、おこっているの?」


 敵対心剥き出しの感情を俺にぶつけてくるプロメ。こんなに人間を毛嫌いするなんて、過去に人間と何かあったのだろうか。

 でも今はそれを聞いているだけの余裕はないだろうし、運命の人に関わる話が終わったら勝負再開だ。


「はなしは……これで終わり。勝負再開! あなたが勝ったら運命の人で旦那様!」


 またウルティの雰囲気が真剣なものへと戻った。さて、ここからがまた真剣勝負。

 いや、自然な流れで旦那様と言われたけど、幼女にそう呼ばれるのは危ないだろ!


 いやいや落ち着け、俺の心を揺さぶる作戦かもしれない。ひとまず状況を整理しよう。


――――――――――――――――――――

朝陽 LPライフポイント5 手札0枚

●モンスター

元素鉄英エレメタルスアイアン・ガンナー

●スキル

伏せ1枚


ウルティ LPライフポイント6 手札4枚

●モンスター

なし

●スキル

なし

――――――――――――――――――――


 ウルティは手札が4枚もあり、どんな手を使ってきても不思議じゃない。潤沢じゅんたくなのだ。

 対峙する俺の手札は0で、伏せが1枚。アイアン・ガンナーに攻撃や効果への耐性はないし、防御手段は伏せカード1枚のみ。


 よし、ここからだけど……正直言ってこちらの対抗手段が少なすぎる! 俺の伏せカードが、またさっきのように無効にされたら本当に詰みだろう。

 それだけは何とかさせないように考えて勝負するしかない! やはりこの幼女……強敵だ!

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