第35話 友達

 さて、重要な情報を教えてくれて俺達に希望も与えてくれたナフにお礼をしなければならない。

 でも、何かカード以外で俺達に用意できそうなものは……クロンとリームの鱗? いや、アレがまだバッグの中に会ったはずだ。


「お疲れ様、ナフ。情報ありがとう。これお礼なんだけど、いるか?」


「これは……キャンディーですか?」


 ナフに手渡したのは、俺のバッグに入っていたキャンディーの数少ない残り。俺からは重要な情報に対してこれぐらいのお礼しかできないのは申し訳ない。


 でも、ナフは恐る恐るというようにだけどキャンディーを受け取ってくれた。どう見ても童顔な少年なのに、こういうとこで女の子みたいだな。

 まるで出会った当初のクロンみたいだ。自分に自信がなくて気弱な感じ。いや、この子の場合それ以上か。


「えっ、あのっ、ありがとうございます。……初めてだな、姉さん以外に優しくしてもらったの」


「へぇー、姉さんいるんだ」


「はい、僕はメイカ家の三男なんです。だから跡継ぎである兄さんと、姉さんがいるんです。今回は兄さんと一緒にクロムベルへ帰るところだったんです。まぁ、クロムベルへ行く他の貴族も一緒ですけど」


「メイカ家という言い方っていうことは……ナフ、君貴族なのか!?」


「す、すいませんすいません! 僕は貴族でも跡継ぎじゃないんで荷台に乗せられるほど立場低いんです! 扱い悪いんです! 貴族なのに腰低くてすいません!」


 大丈夫かと心配になるぐらいに腰が低いなこの子!? というか扱い悪いとか自分で言っちゃってるよ!

 本当に両親や跡継ぎであるという兄達からいい扱いを受けていないんだろう。いい扱いをしてくれるのは姉だけか。思ってしまうのが悪いけど、腰が低すぎて友達という友達がいなさそうだし。


 そっか、勝手な想像だけど、姉以外に優しくしてもらったことがないということは友達がいないということか……。ここはちょっとお節介かもしれないけど。


「なぁ、ナフ」


「はひ、なんでしょう?」


「俺と友達になってくれない?」


「……はへ?」


 俺も唐突過ぎたかなとは思っているけど、ナフの目が点になった。

 眼鏡の奥にある眼光が小さくなったり大きくなったりした後、ナフはまるで化け物にでも出会ったかというような勢いで後ろへ後ずさった。いや、驚きすぎ。


「ひょえええええ!? 友達ですか!? 僕と!? 何言ってるんです!?」


「俺とナフは友達になれないかな?」


「うわえええ……僕と友達になっても、特に利益はありませんよ!? それに僕、友達いないんで、どういう扱いをあなたにすればいいのか――」


「ナフは困っている俺達を損得無しで情報をもって助けてくれた。だからさ、俺もナフが困ったとき助けてあげたいんだ。それに俺も転生したばっかりで友達いないしさ、ちょっと心細いっていうか……」


 寂しいというのは純粋な気持ちだったし、何よりナフの助けになってあげたい。俺に続くようにクロンとリームも友達になることを申し出た。


「あっ! だったら私もナフ君の友達になります! 知識勝負では負けませんよ!」


「じゃあ私もよろしくお願いするわ。時折面白い本を貸し合ったりしましょう?」


「いや……駄目です」


 駄目って言われた? そうか、残念だけど友達にはなれなかったか……。

 そう3人で予想できなかった一言に落ち込んでいると、ナフが続きの言葉を語っていく。


「ぼぼ、僕は皆さんの期待通りの友達になんかなれません。楽しいお話の1つもできないですし、周りの空気を盛り下げてしまいますし、暗いですし……ははっ、僕、14になってもまだ友達の一人作れたことがないんですよ。今さらなんて……」


「じゃあ今からでいいんですよ! 友達になりましょう!」


 もうこれは駄目だなと諦めていた俺を通り過ぎて、クロンがナフの両手を手に取った。


「私も自分の能力が駄目で駄目で全然ダメ―って時にご主人様、えぇとアサヒさんと出会って変われたんです! 今もまたカードになれなくて駄目になっちゃってますけど……人っていくつになっても変われると思うんです!」


「えっ……」


「だからナフ君も今は全然だめでも、友達を作って新しいことに踏み込んでみればきっと変われると思うんです! だから友達になりましょう!」


 クロンならではの言葉だった。言葉通りに、つい先日のクロンは自虐してた子だったからな。

 いや、明るい心を封じ込めてたんだ。きっとそれはナフも同じだと思う。


「僕、裏切るかもしれませんよ? その内間違ったことをしでかしてしまうかも……」


「そんな時はそれは間違っていることです!ってちゃんと言います! リームも私にたくさん『クロン、その解き方間違っているわ』って言うんですよ? 友達が間違ったことをしていたら、ちゃんと正してあげればいいんです!」


「クロン、それは答えが間違っているのであって、悪事とはまた別レベルな話である気がするわ……」


「ええっ? じゃあ『立ち食いはやめなさいクロン』とか『くしゃみする時は腕や手で覆いなさいクロン!』とかです!。あれっ、なんか私ばかりですねぇ。じゃあ私からも『お料理のさしすせそぐらいちゃんと守ってくださいリーム!』です!」


「クロン!」


 ボフウッ!と音を立てるぐらいに一瞬でリームの顔が赤く染まった。そっか、お姫様だから料理が下手なんだなリーム。警戒しておこう。

 さて、クロンの言葉はナフに届いたのだろうか。できれば俺としてはこの世界で友達の一人ぐらい欲しいんだけど……


「あの……じゃあ、よろしく、お願いします」


「えへへー、こちらこそよろしくお願いします! でも知識勝負では負けませんよぉ?」


「ひい!? やっぱり目が怖い!?」


 クロンとナフの知識勝負じゃあやる前から結果が分かってしまうなぁ。クロムベルの説明で負けたことがもう本当に悔しかったのか。


「ナーフー! じゃあ友達になったところでユズガルディ王国の説明で勝負です! クロムベルがあるユズガルディはですねー、西にナルタ山脈、えっと東におっきな湖があってですね――あれ、なんでしたっけ?」


「……ブレント湖ですね。王都セントネラより面積が大きいことで有名です。多種多様な生物やセイレーン、ハーピィ等の種族が共生し、その大きさはもはや海と呼ばれるほど。セントネラより北東に存在し、国境に近いことから強国であるデストネア帝国や小国であるタルタスタ公国との領域権や密猟が問題となっていて……もはやブレント湖の説明ですね」


「うわーん!! 全然勝てる気がしないよおおおおお!」


 一気に顔が真っ青になって泣きそうになるクロン。それを見て苦笑いしてしまうナフが見れただけでもよかった。苦笑いでも笑いは笑いだもんな。


 よし、この世界での目的は決まったし、現地の人と心を通わせることもできた!

 目的とする場所は商業都市クロムベル、そして倒さなければならない標的が潜むであろう場所。絶対に俺は吸収されてしまった人たちを助けてみせる!

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