第18話 竜乙女の逆鱗

 引く前に考える。いや、引いてから考えろ! どうすれば奴に勝てるかを。


 あぁ、もう。頭が揺れて吐き気までしてくる。どうしてこんなになるまで頑張るのか?

 決まってる。俺が助けになれなかったのが原因で、あんなことが繰り返されないためだ!

 

「俺のターン……! ドローッ!」


 この絶望的な状況で引いたのは、死闘の報酬! ビンゴだ!


「メインフェイズ! 俺は死闘の報酬を発動! 自分のライフが相手より2以上少ない場合、2枚ドローする! ドロー!」


「んなっ、ここでタイミングよくドロー? でも、サンダー・タイガーを上回れるかしら? ま、上回ったとしても次のターンで墓地からボストン・クラブかアロー・ファルコンを手札に加えるけど」


 奴の言うとおりに、このターンで決着を付けなければ確実に負け。でも、この2枚では奴に勝てない。

 それでもまだ思考を止めるな! 勝利の可能性を諦めるな!


「俺は手札の元素鉄英エレメタルスアイス・ランサーを捨て、墓地の元素鉄英エレメタルスダーク・アベンジャーの効果発動! このカードは手札の元素鉄英エレメタルス1体を捨てることで、復活できる!」


――――――――――――――――――――

元素鉄英エレメタルスダーク・アベンジャー

コスト

APアタックポイント6000

BPブレイクポイント

――――――――――――――――――――


「まだまだ! 墓地に存在する元素鉄英エレメタルスウッド・ハンマーの効果発動! 手札から元素鉄英エレメタルスと名のつくモンスターが捨てられた時、墓地のこのカードを手札に加えることができる!」


「ちょっと何よ何よぉ~。そんな雑魚揃えたところで――」


 雑魚で結構! 今に痛い目を見させる。だから、せいぜい大口開けて笑っていろ!


「手札からノーマルスキル、エレメタルス・ミックスを発動! 手札・場から元素鉄英エレメタルスと名のつくモンスター2体をデッキに戻し、3枚ドローする!」


「はぁ!? 往生際が悪いわねぇ! どうせ勝てないんだから諦めなさい!」


「諦めるか……諦めるかよ! 俺は場のダーク・アベンジャーと手札のウッド・ハンマーをデッキに戻して3枚ドロー! ……よし! 俺はソニックスキル、死者誤入ししゃごにゅうを発動!」


 ものすごく都合のいいカードを引いた! これは相手のカードを墓地に送り、代わりにそれ以外の相手のモンスターを復活させるスキルだ。これなら――


「相手の墓地に5体以上のモンスターが存在する時、相手の場のカード1枚を墓地に送り、墓地からそれ以外のモンスターを相手の場に復活させる! もちろん俺はフォートレスラーキング サンダー・タイガーを墓地に送る!」


「調子乗ってんじゃないわよぉ! 伏せカードオープン! ソニックスキル、フォートレスラーの強制演出ケーフェイ! フォートレスラーが場にいる時、相手のソニックスキルの発動を無効にしちゃうわぁ! それは不発よ!」


「……よし」


 ――この死者誤入ししゃごにゅうなら、最強のハッタリブラフになれる!


 これで相手の防御手段が判明して、それを浪費させることができた。

 もう相手にこちらを妨害する手段はないはずだ。これなら、いける!


「ここで追い抜かすぞ」


 カードになっている状態の彼女に恐らくこの声は届いているだろう。さっきのダメージがまだ残っているかどうかはわからない。

 それでも、彼女の力が必要だ。これがおそらく、この勝負での最後の召喚。


「クロン」


 ――はい、行きましょう。


 彼女が俺の隣で、しっかりと頷いたように思えた。


「俺は手札から、竜乙女ドラゴンメイデンクロンを召喚!」


 俺の目の前に小さなつむじ風が発生し、その中から緑の髪の少女、クロンが飛び出す。

 赤い角を頭に、細長い槍を片手に、そして闘志を胸に。ドラゴンの力を宿した少女が恐れを振り払って場に立つ。


「クロンの効果! このカードが場に出た時、俺は1ポイントのダメージを受ける」


「自分にダメージ? ふぁはははは! 自殺じゃない!」


「自殺じゃない! 俺はこの効果に対して最後の手札、ソニックスキルであるスペクトル・ダメージを発動する! 戦闘・効果ダメージを受ける代わりに、相手へ1ポイントのダメージを与え、自分のモンスターのBPブレイクポイントを1上げる!」


 空中に現れた三角形の水晶。そこにクロンが竜巻の玉を投げつけた。

 一瞬だけ水晶が強く輝いたかと思うと、竜巻の玉からエネルギーだけを抽出してあちこちに光を放つ。

 一筋の薄緑色の光はクロンに、濃い赤色の光はカルンガに。緑色の光はエネルギーをクロンに与え、カルンガへ放たれた赤い光は彼の皮膚に痛みを与えたようだ。


「あつっ!? ちっ、さすがに衝撃をこちらだけ消し去るということは強制衝撃機構インパクターではできないようねぇ」


――――――――――――――――――――

竜乙女ドラゴンメイデンクロン

BPブレイクポイント1→2


カルンガ

LPライフポイント3→2

――――――――――――――――――――


 クロンのBPブレイクポイントとカルンガのライフが並んだ。これで決める!


「バトルフェイズだ! 竜乙女ドラゴンメイデンクロンでサンダー・タイガーを攻撃!」


「攻撃? 攻撃と言ったわねぇ今! 馬鹿なんじゃないの!? そのドラゴンちゃ~んのAPアタックポイントは3000! 10000! 勝てるわけないじゃないのぉ!」


 一度だけ面食らったカルンガだけど、すぐにこっちをあざ笑う表情へと戻る。

 だけど俺は攻撃の発言を撤回なんてしない。このままクロンで攻撃し、勝つ!


「攻撃宣言時に、伏せたスキルを発動」


「伏せ、スキル……?」


「そうだ、勝負の初めからずっと発動できなかったソニックスキルカード! このカードはお互いのモンスターの攻撃宣言時にだけ発動できる! これで決まりだ、バイバイホームランを発動!」


「バイ、バイィ? な、なんなのよそのスキル。どんな効果だというの!」


「モンスターの攻撃時に、相手のカード1枚を手札に戻す効果だ! クロン、逆転サヨナラだ!」


「こっのおおおおおお!! リームを返せええええええ!!」


 クロンが野球を知っているのかまではわからない。だが、カードの力がクロンに流れ込み、彼女はサンダー・タイガーの一歩前で急停止して大きく振りかぶったバッティングポーズを決める。

 全力で振るわれた槍が真芯でサンダー・タイガーの腹部を捉え、強靭なインパクトでその体を斜め上空へと打ち上げた。


「ななな!? 手札に戻る効果は戦闘耐性では防げない……やられた!? でも、私のライフは残る! 次のターンでAPアタックポイント3000以上のモンスターを引けば、私の勝ちだわ! 相打ちなら互いにダメージが発生するもの!」


「なに勘違いしてるんだ? クロンの攻撃は終わっちゃいない!」


「へ?」


「バイバイホームランは攻撃時に発動しただけ。クロンの攻撃は攻撃対象がフィールドから離れたため、戦闘を続行できる!」


「あっ――!」


 そう。これはブレイクコードに定められたあるルール。『巻き戻し』だ。

 戦闘を行う時に相手モンスターがいなくなった場合、攻撃をするモンスターはそのまま相手に攻撃できるというもの。放たれた弾丸は急に空中で止まれないと考えるとわかりやすいか。


 サンダー・タイガーを遠くへ吹き飛ばしたクロンが構えを元に戻し、カルンガへと向かって歩き出す。その顔はこちらからは伺えない。

 けど、きっと友人を売り物にされかけたことへの怒りが浮かんでいるのだろう。


「ちょっ、ちょっとなんなのよぉ!? カ、カード化できる生物をペットとして販売しようとしただけじゃない! 高い値段でいい暮らしができる分、感謝し――」


「私たちは売り物でもペットでもありません! あなたは許しません、この一撃で反省してください!」


「ひえっ!?」


 ゴッ!!


 さっきサンダー・タイガーに脳天を殴られたことへの仕返しだろう。槍の先端に近い部分が、真っ向からカルンガの頭を叩きのめした。


――――――――――――――――――――

カルンガ

LPライフポイント2→0

――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る