第15話 雷撃の要塞虎王

 俺とサイナス・クーロンの視線の先、そこには体中に汚れが付いただけのビックフット・スタンプがいた。


 ブレイクコードでのAPアタックポイントによる戦闘のルールは絶対だ。

 だったら、あのゴリラ男が生きている理由は――フォートレスラーの取り決めアングルの効果によるもの。


『ど、どうしてあのゴリラ男が破壊されていないんですか!? 私、ちゃんと攻撃して、あの人にもダメージが入って……』


「ふ、うふふふふぅ。ちょっとばかしその攻撃には驚いたわぁ、でもねぇ、フォートレスラーの取り決めアングルにはバトル中の効果を封じる以外にもう一つ効果があるのぉ」


「そのカード自体を墓地に送ることで、フォートレスラーの戦闘による破壊を無効にする効果だな?」


「だいだいだいせいかぁ~い! よく知ってるわねぇ。その効果でビックフット・スタンプの破壊を取り決めアングルが肩代わりしたのよぉ」


 そう。フィールドに残るスキルである、フォートレスラーの取り決めアングルにはもう一つ効果が存在する。

 今の話にあった通りに、フォートレスラーの破壊の身代わりとなるのだ。


 だからダメージは与えたけど、ゴリラ男は生存。これで次のターンはクーロンに危険が迫る……。

 だけど、これ以外の方法で前へ進むことはできなかった。


 でも、狙いはビックフット・スタンプの破壊じゃないけどな。


 狙いは初めから取り決めアングルを墓地に送ること! これで伏せカードが発動できるようになる! 上手く事が進んだ!


「俺はこれでターンエンド!」


――――――――――――――――――――

朝陽 手札0枚 LPライフポイント

●モンスター

虚洞竜こどうりゅうサイナス・クーロン

●スキル

伏せ1枚


カルンガ 手札4枚 LPライフポイント

●モンスター

フォートレスラー ビッグフット・スタンプ

●スキル

なし

――――――――――――――――――――


「あーもうっ。そのドラゴンはすぐにのしてあげるけど、ダメージを食らったのはむかつくわぁ。ドロォー」


 大丈夫だ、大丈夫。フォートレスラーは攻撃能力特化のデッキ。伏せカードを封じる手段はそう何回も来ないはずだ。


 フォートレスラーはその特性上、デッキの大部分をフォートレスラーで固めたほうが強くなるデッキ。

 だからスキルを封じるスキルを入れていたとしても、それを引く確率はあまり高くはないはず。


 伏せカードが上手く作用すれば、この勝負に勝てる。これ以上のダメージは……

 いや、何かを俺は忘れているような?


「ワタシはフィールドのビックフット・スタンプと、手札のフォートレスラー フェイス・バスター・ハガーをコストとして墓地に送り、このモンスターを召喚するわ!」


 フェイス・バスター・ハガー!? そんなフォートレスラーは見たことも聞いたこともないぞ!?


 ……いや、俺の前提が間違っているんだ。

 この世界で使われるカードは、スマホのブレイクコードのゲーム内で使われるカードだけじゃないんだ。さっきのゲノムゴーレム インヘリタンス・エンキドゥみたいに。


 だとしたら、だとしたらまさか、相手の行動を封じるフォートレスラーが存在する可能性があるのでは?


「現れるのよぉぉおお! きらめく電撃をまといし、強者ぶつかり合う戦場リングの無敵王者! フォートレスラーキング サンダー・タイガー!」


『ウガアアアアア!!』


 けたたましい方向とともに姿を現した、赤いマントを羽織った虎覆面の獣人。いや、虎の獣人だけど虎の覆面を被っている戦士の登場だ。

 突きあげられた両腕の間に何度も電撃の奔流が発生し、激しい音がこちらを威嚇してくる。


――――――――――――――――――――

フォートレスラーキング サンダー・タイガー

コスト

APアタックポイント10000

BPブレイクポイント

――――――――――――――――――――


『わ、私と同じAPアタックポイント10000……! でも、相打ちになら何とか持ち込めます!』


「クロン! 油断するな!」


「そーよぉ、油断はダメダ~メ。ワタシは墓地に送られたビックフット・スタンプとフェイス・バスター・ハガーの効果を発動するわ! これによってデッキから2体のフォートレスラーを手札に!」


 フォートレスラーが持つ効果。召喚のためのコストとして墓地に送られた場合、デッキから仲間を呼ぶという危険な能力。


 今俺のフィールドにいるサイナス・クーロンであればサンダー・タイガーは相打ちに持ち込めるけど、既に相手の手札には厄介なモンスターが2体もいる。これに加えてさらに2体も手札に! 

 これで相手の手札は上級モンスターを召喚にしたにもかかわらず、5枚と潤沢になる。


「ワタシはフォートレスラー パワー・ボマーとカベルナリア・カナリアを手札に加えるわ! うっふふふふふ!」


「カベルナリア・カナリア? また知らないモンスターが……」


『ど、どんなモンスターが来ても、アサヒさんの戦術があればへっちゃらです!』


 俺に全幅の信頼を寄せてくれるのは嬉しいけど、絶対に次の攻撃を防げるとは言えない。

 もし防げなかったら、サイナス・クーロンがどれだけの痛みを受けて消滅するかわかったもんじゃない。


 頼む、どうか面倒な効果を持っていないでくれ。単純にモンスターをパワーアップさせる効果なら、まだ――


「さっそくワタシは、手札のカベルナリア・カナリアを捨てて効果を発動! 自分フィールドにフォートレスラーと名のつくモンスターが存在する時、このターンだけ相手は伏せカードを発動できないわ!」


「や、やられた――」


 俺は呆気にとられた後、強く唇を噛んだ。

 伏せカードが発動できない? 今俺の場に伏せてあるカードは、モンスターが攻撃するときに発動するスキル。

 やられた、これじゃあ防御ができない!


「あっらぁ~? その顔ナイスゥ! この効果に対しては、その伏せカードは発動しないのね? 取り決めアングルの時もそうだったけど。じゃ、思う存分いかせてもらおうかしらぁ!」

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