ある妊婦の告白~出産日、当日早朝。私は秘密を作った~

みこと。

第一子誕生の朝

 私には家族にいえない秘密がある。


 言えない、と言うか、言いにくい、というか。

 言っても問題はないだろう。けれど、出来るだけしていたい。

 何故ならば顰蹙ひんしゅくをかいそうだから。


 でも、墓場まで持っていくほどのことではないので、ここでこっそり書いてしまおう。




 それは、第一子出産日となる午前3時頃のことだった。


 予定日はまだ数日先。しかしお腹は大きく臨月で、いつ産まれてもおかしくない。

 むしろ「会いたいから、もう出てきて」と語りかけた日の夜。

 正確には翌日、日の出 数時間前。


 眠っていた私は、下半身に気持ち悪さを感じた。


 にょるんという違和感。


 おりものか?

 面倒くさいけど、トイレに確認にいかないと。


 眠気にとらわれたままの悠長な思考は、それが大量の水であると気づいた瞬間、一気に覚醒した。



――破水だ!!


 

 破水とは言うまでもなく、赤ちゃんを包む卵膜が破れ、羊水が体外に流れ出ることである。

 大概、出産は陣痛から始まるものではあるが、妊婦によっては破水が先に来るケースもある。

 実母は私を生んだ時、破水始まりだったと言っていた。

 体質は似ている。私も破水からか!



(陣痛が来た時、果たしてそれが陣痛の痛みだとわかるだろうか?)

 常日頃、そんな不安を抱いていた初産婦ういざんぷである私にとって、破水始まりはむしろ有難い。

 確実に出産開始の合図。


 急ぎ病院へ連絡して、駆けつけOKな案件だ。


 陣痛だけだと、病院側はなかなか受け入れてくれないと聞く。しかし、破水は羊水の流出が多いと赤ちゃんが危ない。細菌感染の恐れもある。

 病院は「来てください」と言ってくれるはず。


 よし、主人を起こして、入院セット持って、産科へGOだ!!


 出産して退院後は実家滞在予定。

 隣市に住む両親にも連絡を入れなくては。


 しかし。

 その前に。


 前々から、気になっていたことがあった。

 大好きなコミックの発売日が、出産日と近かったのだ。

 紙書籍派である私は、単行本という形で配送をしてもらうのを常としている。


 この送り先を、現住所にするか、実家受け取りにするか、ここをずっと悩んでいた。


 スマホだったり、実家のネット環境が整っていたら悩みはしなかった。

 しかし、私はガラケー。そしてPCが扱えるのは、今、この家でのみ。


 本の送り先は決まった。実家だ!


 かくして破水した私は、家族を起こすより先に慌ててPCを起動させ、通販ページを開いて、欲しかった本の注文を掛けた。




 …………うん。何やってるんだろうね?




 初出産という人生の一大イベントを控えて。

 赤ちゃんを出す気満々になっている身体を待たせて。


 すっごい冷静に、漫画の予約。


 …………。


 言えないだろ、これ。娘本人にも聞かせられないわ。

 そのうえこのアホな一件は、自分自身に呆れたことにより、破水より鮮明に、そして痛烈に記憶に刻まれてしまった。


 出産日の朝、一番の思い出。漫画の予約。


 ――嘘でしょおぉぉぉぉ???




 望みは叶えたものの、罪悪感がハンパない。


 その後、病院に到着して、看護師さんに「これ以上、羊水が出たらいけないから」と車椅子に座らされた時には、本気で青褪あおざめた。

 だって、家でまず第一にPCに座る等、ウロウロしていた後だったから。


 これ絶対、誰にも言えない。

 そう、確信した。


 そして私は、秘密を作った。



                           <了>


◇◇◇



 いやもう、なんというか、すみません。


 かようなように、わたくしの秘密とは、くだらなすぎる隠し事でございました。


 言えないとなると「王様の耳はロバの耳」心境で、誰かに聞いて貰いたくなるもの。かくして本日、数年間の封印を破り、ネットで不特定多数に向けて吐露するという暴挙に至りました。当然、こちらのURLは、主人と娘(もうじき5歳)には秘密のままでございます。


 ちなみに届いた漫画は……しばらく読めませんでした。

 赤ちゃんが産まれたら日々のお世話で漫画どころではない、ということです。当面お預け。

 届いて嬉しかったけど。同時に良心がチクチク痛んだのは自業自得。

 その本は今も大切に、手元にあります。多分、ずっと手放せないかも。


 私の思い出話にお付き合いくださいましたこと、篤くお礼を申し上げます。

 ありがとうございました。


 最後に一言。


 赤ちゃん、無事に生まれて良かったよぉぉぉぉ (安堵)

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ある妊婦の告白~出産日、当日早朝。私は秘密を作った~ みこと。 @miraca

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