第47話 俺の愛、そして……

「……幸、行ってくるな」


幸の部屋の扉に背を預け、聞こえない言葉を掛ける。

実は、幸に俺が戦いに出る事は伝えていない。

幸は優しいから。

もし俺が死んだらどうしようと、憂いでくれると思う。

それが、俺にとっては躊躇いになるから。


「絶対、死なないから」


しかし死ぬつもりはない。

それを明確に言葉にして、俺は戦地へ向かう。



……………



「……来てくれたか。嬉しいよ」

「あぁ。僕と君の因縁も随分長く引きずったけど、この辺で一つ決着といこうじゃないか」

「上等だ。……二人は、他の二人を相手してくれ」


No.50の言葉と共に、その横に立っていた男女がそれぞれ俺と桜見の元へ。

俺の眼前には、二十歳程度に見える男が立ちはだかった。


「……久しぶりだな、とでも言っておくか」

「俺からしたらはじめまして同然なんだけどな」

「なに。どうせ我らの事は近い内に思い出すか、あるいは思考すら出来なくなるかの二択なのだ。些事でしかない」

「そうかい」


三組それぞれが離れ、敵同士で距離を取る。

そして、どちらとなく……


「はぁっ!」

「ふんっ!」


一気に距離を詰める。

が、しかし意識は闇に落ちる。


(クソッ、まだ克服できてはなかったか……)


しかし俺はどうやらこの状態の方が強いらしい。

ならむしろ都合が良いかもしれない。

何にせよ、今は意識を預けるしかない。

そう悟って、俺は意識を手放した……




……………



キーンと頭に直接雑音が響く。

その雑音を明確なメッセージとして、俺の頭は徐々に認識していく。



お前は何故戦っている?



さっきの敵の声で再生される。

そんなの、幸のために決まって……



違う



何が違うんだ。

この想いに曇りなんてない。

それだけは、絶対の自信を持って言える。



否、お前が思うお前自身と実際のそれとの間には決定的な違いがある



決定的な違い?

なんだそれは。

教えろ、教えてくれ。

俺は、俺は……

俺が思うように、幸を愛していないのか?



それが見えぬ内は、お前が私に勝利することはあり得ん



ふざけんな。

俺の想いの本質がどうあれ、俺は生きて幸の元へ帰らなくちゃならないんだ。



そうか



(!?!?!?)


それが聞こえた途端、意識が急激に引き戻された。



……………






目が覚める。

地面に這いつくばる俺の体。

その体には……








腰から下が、存在していなかった。



「あ……ぁ……」


あり得ない出血と、分断された自分だったものが目に映る。

叫んでしまいたいが、もう叫ぶ力も残っていない。

考えるまでもなく、俺は死ぬ。

どんな幼子でも分かる事だった。

……ごめん、幸。

約束、守れなかっ……


「……はぁ」

(!?)


死の刹那、現れたのは一人の少女。

その姿を見て、俺は息絶えた……





………………





思えば、これまでの事は序章に過ぎなかったのだろう。

これまで過ごしてきた合計四ヶ月近く。

まさかそれを一日と大差ない短い時間だと認識する程になるとは。

さあ改めて、長い長い旅を始めよう。

己の愛の真実を求める、愛の旅を……

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