第42話 戦うのには、まだまだ遠くて

「……理仁のポイントが近いのに、やけに静かね」

「理仁がやりきったか、それとも……」

「今は、前者の可能性を信じるしかないわね」


俺たちは更にギアを上げて駆ける。

間に合え、間に合え。

祈って祈って、ひたすらに祈りながら走る。

でもそんな祈りに忖度なんてしてくれないのが現実というもの。

天運は、向こうに傾いた。


「……理仁!おい!理仁!」


倒れている理仁を発見した。

呼吸は……なかった。


「まだだ!まだ、人工呼吸とか色々手の施しようは……」

「剛」


翔は俺の顔を見て、首を横に振った。

その動きが何を意味するのか、察してしまった自分が嫌だった。

だからか諦めずにどうにかしようとする俺に対して翔は、怒りや悔しさを隠し切れていない見せかけの冷静さを前に出してハッキリと言葉にする。


「その出血じゃもう……手遅れだ……あと五分、五分だけでも早ければ!」

「っ……!!!」


五分、たった五分。

それだけあれば、理仁を救えた?

俺があんなところで迷っていなければ、立ち止まっていなければ。

理仁は、助けられたのか?


「僕の失態だ……僕がさっき、全力を出し惜しんでなかったら……!」

「……」


翔は自信の失態だと嘆き、桜見は何も言わずに俯いている。

違う、二人は何も悪くない。

悪いのは俺で、それ以外何も悪くないんだ。

それでも理仁に対して、ごめんという言葉さえも浮かぶことはなかった。

俺の命を捧げても、理仁が死んでしまった責任を自分が負えそうになくて。

『ごめん』だなんて言葉に逃げられるような重みじゃないから、きっと何も浮かばなかったんだろう。


「鍔越!桜見!大風!」

「真坂さんは……」


そこに別のところからこちらへ向かってきていたと思われる望月と新雲が到着した。


「……」


そして二人とも沈黙する。

気づいてしまったのだろう。

きっと二人は自分を責めている。

やめてくれ、違う。

俺さえ……俺さえちゃんとしていれば良かっただけなんだ……


「帰ろう、皆。僕らが今すべきなのは、理仁が望んでるのはきっと、ここでうずくまってる事じゃないハズだよ」


涙を隠して、翔は口を開く。

歩き出した翔の後ろに、全員が続いて歩く。

おれは、これからどうすれば良いんだろう。

人をあんな凄惨に殺めて、その末の結末がこれだ。

結局俺はまだ戦うには早かったらしい。

覚悟はできてたのに。

また今回の事が、新たな足枷となって俺を恐怖の隣に繋ぎ止める。

俺が全てを乗り越えられる日は、失った命に胸を張れる日は、訪れるのだろうか?


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