第40話 幻影

また、意識が落ちていく。

戦いはどうなる?

翔たちや俺、理仁は?

知ろうとしても知る術がない。

そして、きっと前と同じでこれには抗えなくて、また意識を手放すしかない……

そう、思った時だった。


「っ!!」


真っ暗な空間で目が覚めた。

いや、俺の目は開いてるのか?

多分開いているのだろうが、それすらも疑いたくなる程何もなく、何も見えない空間。

俺が前に死んだときにイブキと出会ったあの空間を真っ黒に染め上げたようなイメージだ。

そんな場所で、突然一つハッキリと。


「おい、聞こえるか」


声が聞こえた。

その声の主が目の前にいるのかは暗すぎて分からないが、誰かいることは確かだ。

でもその声が発せられた方向が分からない。

映画館みたく立体的に響いてきたその音の出所を、こんな何も見えない空間ではっきり捉える事は不可能だ。

でも聞かれた事には返事をする。

気になることだって当然あるし。


「……聞こえてるよ。誰だ?」


気になることはこれ。

当然の疑問だ。

だがそれに対する返答があまりに想定外で、俺は驚くことになる。


「俺はまあ、昔のお前ってやつだ」

「!?……どういうことだ?」


過去の、俺。

俺はだいたい中二くらいまでの記憶を失ってる状態にある。

その俺ってやつが、今、俺に語りかけている。


「そのまんまの意味だよ。お前が忘れてる昔のお前、それが俺だ」

「……頭がパンクしそうだけど、幻みたいなやつか?」

「幻か……ま、今はその認識で良いだろ」

「ハッキリ言ってくれ」

「後々分かるさ」

「はぁ。それともう一つ、気になることがあるんだけど良いか?」

「ああ。なんだ?」


俺にとってはこっちが本題だった。

まあこいつの正体が正体だったせいでもう頭が潰れそうだけど……


「俺の体、どうなってるんだ?」

「制御の手段まで含めて知ってるが、それは今知られちゃあ俺にとってもあんた……いや、どっちにしろ俺か。ま、それにとってあんまりよろしくない」

「教えてくれ、今の俺にはそれが必要だ」

「あん?それはちょっと違うなぁ」

「どういうことだよ」

「今お前にとって最も優先すべきなのは、得るべきものを得ることだ。仲間を助けることよりもな」


助けることよりも?

何でだよ、ここで行かなきゃ理仁が死ぬかもしれないんだよ。

声しか聞こえない『俺』に対して怒りがこみ上げる。


「ふざけんなよ!じゃあ理仁の事見捨てろって……」

「捨てちまえ」

「は?」

「言い方が悪かったか?今のそいつは捨てちまえ。今は目の前の救うのが難しい命に固執するよりも、別のそいつの命を後々拾ってやることを考えろよ」

「そんなの……出来るかよ!」

「今は出来ねぇかもな。でもお前はいずれそうするだろうし、それしか選択肢はないぞ」

「はぁ?意味分かんねーよ」

「あと一つ追加しとくと、お前が望む結末ってのはもうこの世界にはねぇ。もうロクな結末はねぇよ」

「なっ」


俺が望む結末がない?

その俺が望む結末ってなんだろう。

真っ先に幸の笑顔が浮かんできて、すぐにこれのことだなと納得できた。

そして、もうロクな結末はないと。

それで真っ先に浮かんできたのは、あの祭りの時の幸の表情。

恐怖、悲しみ、色々詰め込まれた表情だった。

あの結末しか待ってないって……

いや待て、根拠がない。

きっとそうだ、俺は踊らされてるだけ。

というかそんな結末を迎えないために、俺は今急いでいるんだから。


「確かに根拠はないな。だけど、お前は体感する事になる。何度も何度も、酷い結末をその目で見る。そこに何かが見えたら、まぁ……得られるもんもあるだろうさ」

「考えも筒抜けかよ」

「当たり前だろ?お前は俺だし俺もお前だ。ほら、さっさと行けよ。そろそろ戦闘が終わった頃だぜ」

「っ……おい!」


意識がまた遠退いていく。

多分現実に引き戻されるんだろう。

でもその前に一言あいつに言ってやりたくて叫ぶ。

俺の幻影への、宣戦布告を。


「俺は絶対そんな結末迎えない!必ず!」

「……ふっ」


それに対してあいつは鼻で笑った。

そしてそれと同時、俺の意識は現実に帰った。

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