第38話 一方その頃

「……剛、みんな、大丈夫かな」


みんなが戦っているであろう頃。

私はこの拠点で座っているしかなかった。


「どうされました?穂ノ原さん」

「端寺さん……」


長髪をなびかせて私の前に座るのは端寺さんだ。

あまり話すことはないけれど、みんな信頼しているようだしいい人なんだと思う。


「お悩みならお聞きしましょうか?」

「本当?」

「嘘を言う理由もありませんよ。お好きなだけ、どうぞ」

「ありがとう、端寺さん」

「お気になさらず」


自分の悩みを端寺さんに打ち明けようとしたところで、ふと思う。


(あれ?どうして私、こんなにあっさり端寺さんに悩みを話せるんだろう)


これまで端寺さん話すことがなかったわけではない。

そりゃあずっと剛と居る訳でもないし、実のところ枯葉ちゃんとは結構仲が良い。

端寺さんを含む他のみんなともそれなりに話したりする。

でも端寺さんに対しては枯葉ちゃんとも、剛とも違う安心感がある。

だからか、悩みも自然に打ち明けられた。


「私、ここにいても良いのかなって」

「……」

「みんな、何かしら貢献してる。戦ったり、みんなを送り届けたり。……でも、私は違う。何も、役に立ててない」

「つまり、このままでは組織の足を引っ張る……と?」

「うん。私に出来るのは剛を、みんなを待つことだけ。剛は私との約束を守ろうと頑張ってくれてるのに、私は……」


なにもすることが出来てない。

そう言おうとしたら。


「ふふっ」

「へ?」


笑った。

ふふっと、小さく。

しかもあの端寺さんが。


「すみません。穂ノ原さん、鈍感な方なんだなぁと思いまして」

「どん……かん……?」

「穂ノ原さんが生きてることで、救われてる人がいますよ。大風さんもその一人です」

「剛が……?」

「私から大風さんについて直接言及するのはまだ私の考えも推測の域を出ませんし、当たっていたとしても余計なお節介ですので控えますが、穂ノ原さんは大風さんの事をどう思われていますか?」

「それはその……す……す……」


言えない言えない言えない。

恥ずかしくて、言えない。

本人の前じゃないとはいえ、剛の事が好きだなんて、言えるわけない。


「はぁ……」


今度はため息をついた。

なんだろう、私がみんなと話してるところを観るより、ずっと親しげのある人だ。

無愛想でもみんなに信頼されてる人って印象だったのに。

多分私と話してる時の端寺さんは、みんなと話してる時よりずっと明るい。

どうして、私?

翔君や枯葉ちゃん、清弘さんの方が一緒だった時間はずっと長いハズなのに。

でも端寺さんと話してるのはやっぱり、心地良い。


「大風さんも、大概鈍感なのですね」

「へ?」

「ただお二人とも、考えている事は恐らく同じですよ」

「……えええええええ!!??」


ちょ、それって……

剛も私の事……好きってこと?

そ、そんなことはないと思う。

でもホントだったら?


「あああああああああああああ!!!」


顔が熱い。

多分、今の私は真っ赤だ。

顔から火が出るなんて表現がピッタリ当てはまるくらい。

それを見て、端寺さんはクスクスとまた小さく笑う。


「それでは、私はこんなところで……ああ、まだ一つ」

「?」

「あなたに救われてる人、大風さんだけじゃないですよ」


そう残して、端寺さんは別の部屋へ。

なんか、印象変わったなぁ。

それにしても……


(剛が帰ってきた時、どんな顔で目を合わせれば良いんだろう……)


それが心の九割を占めていて、端寺さんの事を考える余裕なんてなかった。

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