第26話 揺らぐ決意

「さて、明日の午前四時に黒ヶ崎近辺の森の中へと我々の拠点を探りにやってくる」


部屋を変えてから一週間後の夜。

どうやら襲撃のようなものが来るらしく、いつもは明るい共有スペース内の雰囲気もどこか重い。

端寺さん曰くこの拠点は地下に存在しているらしく、レボルブ側に正確な位置は割れていないという。

しかし俺たちの活動範囲から黒ヶ崎周辺にあることは特定されているようだ。

それを探し当てるために襲いに来るようだが、おっちゃんの未来視能力によって悲しいことにバレバレである。

というか敵に自分達の思考筒抜けとかレボルブ側に言わせれば地獄だろうな……


「このところ、レボルブの活動が活発化している。君たちが敗北を喫するような相手は一人を除いて存在しないだろうが油断だけはしないよう」


おっちゃんから警告。

俺は多分出ないが、やはりみんなの命がかかっている訳なのだし真剣に話に耳を傾けている。

そういえば活動が活発化とはなんだろうか。

元は結構静かな組織でお互い冷戦に近い状態だったとか?

そんなことを思っているとおっちゃんから衝撃の一言。


「それと剛君。君には真坂君と共に出てもらう」

「え?」

「敵の数も総力も弱い所に二人を配置しよう。真坂君、いけるな?」

「任せて、清弘さん」

「そして鍔越君と桜見君には山中のこの場所でNo.50と名乗るあの能力者を迎え撃ってほしい」

「……来るのか、アイツが」


アイツとは誰なのか。

俺には分からない事だが、カケルの様子を見るに浅からぬ因縁がある様子だ。

気になるし、本人が嫌そうでなければ後で聞いてみよう。


「アレの相手は君たちにしか務まらない。頼めるな」

「あたし達に任せて。今度こそ必ず倒す」

「そうだな、アイツとの因縁もそろそろ決着を着けなきゃいけねえ」

「うむ。では新雲君と望月君にはここの廃屋周辺を頼む」

「任せてくれや。雑魚の群れ相手は得意分野だ」

「ええ、焼き払います」

「よし、そして端寺君、穂ノ原君、そして儂はここで待機する。では会議は終了だ。剛君には武器を渡しておこう」


そう言い、机の上に拳銃とナイフが並べられる。


「だが今回は見学のようなものだ。念のための護身用だが、真坂君がいるのならそれを使う必要はないだろう。気を楽にとは言わんが、緊張し過ぎないように」

「ああ……フゥー」


緊張し過ぎるなと言われてもある程度緊張はするもので、武器を手に俺は過去一深い深呼吸をした。

その後仮眠を取っておくことを勧められた俺は部屋に戻って布団に身を投げた。

そして意識が消える。

後から思えば俺は、明らかに戦いを舐めていたのだろう。

この戦いでそれを分からせられる事になるとはとても思わなかった。




……………


翌日午前三時


目が覚め、すぐに共有スペース……ではなく個室がある廊下の奥にある戦闘準備室へ。

この部屋には皆の武器だとか動きやすい服(鍔越翔開発)なんかが保管されている。

そして準備が整えば端寺さんが能力で指定されたポイントへ送ってくれる。

さて、俺と一緒にいてくれる理仁はと言うと。


(なんだあれ…!?)


デカい機関銃と短機関銃を複数引っ提げてきた。

コマンドーかお前は。

それっぽくメイクしてデェェェェェェンとか音を付けて登場させれば本人の厳つさのないまさに少年といった雰囲気以外はそれっぽくなると思う。


「じゃ、そろそろ行く?」

「ああ、俺は大丈夫だ。よろしく」

「うん。それじゃ端寺さん、お願い」

「お任せください。お帰りお待ちしております」


そして俺たちがその地へ向かう直前。

幸が俺の腕を掴んだ。

その口から放たれるのは一言、簡単にかき消せてしまいそうな弱い一言。


「……約束、忘れないでね」


約束。

俺が立てた誓い。

いなくならないこと。

たったそれだけ。

死ぬ気なんて毛頭ないし、死にそうな予感も一切しない。

それは無理してそう考えているだけなのか自分でもわからないが、そんな自分の考えに素直に従って自信満々に言う。


「心配すんなって、絶対無事に帰ってくる」


そう返し、幸が頷いた次の瞬間には、もう俺たちは黒ヶ崎にある山の近くにいた。

二度目の瞬間移動だが、この感覚は何度やっても慣れなさそうだ。

もっとも前回は余裕が全くなかったせいでこういう感覚に浸る事もなかったが。


「もう少しで敵が来るけど、僕が上空から全部殲滅するからグロいの苦手なら見ないでね」

「は?というか上空?」


これまた次の瞬間には既に理仁は飛び上がり、驚くことにその場で滞空していた。

そしてその後すぐ敵がこちらへやって来る。

俺は拳銃を片手に恐れが拭えないながらも立っていた。

そして相手が銃を構えたその時。


ズドドドドドドドドド!!


爆ぜた。

その轟音と共に、俺は理仁の忠告を素直に聞いておくべきだったと後悔する。

理仁が乱射しているのは機関銃。

いや、乱射というのは適切ではない。

放たれる弾丸の一つ一つが的確に相手の頭を撃ち抜き、命を奪っていた。

乱れ撃ちと言うにはあまりに正確で、精密射撃と言うにはあまりにも荒々しい。

そんな射撃によってそこに生まれるのはなんだろうか。

勝利?

確かにそうだ、相手を殲滅出来たのなら俺たちの勝利だろう。

だが違う。

勝利よりも何よりも分かりやすいものがそこにはあった。

それはあの祭りの日にも匹敵する地獄だった。

もう仕事を終えたのか理仁が降りてきて俺の顔を見て呟いた。


「だから見ないでって…」


その通りだった。

今日俺は、戦うということの意味を知った。

他者を深く傷つけるどころではなく命を奪う行為。

覚悟はできてると思ってたくせにそれが今になって揺らいできた。

俺は、戦えるのか…?

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