対竜戦役

 都市ポリスになる予定の集落、木でできた軽強度の建物が粉砕され、焼かれていく。

 人類の十倍前後はありそうな成体のドラゴンが四頭――二対のつがいと、さらに竜が八頭も居た。

 暗褐色に灰色など。蜥蜴トカゲのような体躯に翼が生えており、全身をうろこと魔力結界が覆う。

 集落は荒らされ、人がわれていた。

 派兵され集落を制圧していたゼロ国の軍隊が奮戦ふんせんしているため、崩壊には至っていない。

 イェードも戦力の半分を集落からやや離れたアザトの場所に残し、残る軍、約五〇〇人で戦いにおもむいた。

 追加の戦力としては心もとない。イェードは自分の指揮能力を信じるほかになかった。

 数十の巨弓きょきゅうによる攻撃を受けた、仔竜のうちの二頭は既に絶命していた。

 巨弓部隊を高速で展開しながら、現場で指揮を取っていた者から話を聞くイェード。

「成体の竜は厄介すぎます!

 巨弓の矢も通さない魔力結界で覆われているのです。

 それに巨大な炎を吐きます!!」

 炎を吐くのは知っているが、巨弓の矢までが通らない竜を見るのは初めてだった。

 魔獣イェルダントですら、巨弓の攻撃は通るのだ。たとえ魔力結界で自身を防護していても。

「矢を放ち続けろ!!

 竜をこちらに近づけさせるな!!」

 命令したイェードは、ファングボーンを地面に置き、剛弓を構える。

 狙いは、成体の竜のうち一頭の眼球だ。

 矢を放った直後、目を射抜かれた竜が悲鳴を上げた。魔力結界が乱れ、いくつかの巨弓の矢がその体を覆う鱗を貫通する。

「魔力結界を展開中は、視界が悪くなる。

 その眼の付近には結界が展開されていない」

 成体を一頭仕留めたかに見えたが、巨竜が前方に魔力を展開し、全ての矢を阻む。

 魔力結界は赤色だが、さらに竜の全身を緑色の発光が覆う。

 特に矢の刺さった傷口付近が強く輝いている。

 矢が筋肉から押し出され、鱗の穴が塞がれていく。

治癒ちゆ魔法だと!」

 イェードが驚く。治癒魔法。それも、極めて強力なものだった。

 鱗に空いた穴まで塞がり、傷が完全に修復される。矢は地面へと再生した肉に押し出されて地面へと落ちた。眼球も、しっかりと修復されていく。首を振って眼に刺さった矢を落とす。

 先ほど眼を攻撃した竜一頭が、ファングボーンを構え直したイェードへと近づく。

 指揮官の一人が悲鳴を上げて巨弓の元へと下るなか、イェードは竜の一頭と一騎討ちをした。

 イェードも筋力強化の魔法、その出力を全開にする。長くは戦えなくなるが、長期戦で不利になるのはどちらにせよ望まない。

 竜は正面、特に前足を防護結界の色で真っ赤にして、イェードの首を取らんと右足を振る。

 イェードの得物、ファングボーンと竜の右足との間で圧がかかる。

 魔力結界と激突して、漏れた力が電圧となって火花を散らす。

 ファングボーンにまれたいくつかの牙が砕けるが、全盛期のイェードの心はくじけない。

 前足を弾き返すと、竜の頭に一撃を見舞った。髑髏どくろ砕きの一撃である。

 魔力結界を貫通してファングボーンの牙が刺さり、棍棒本体がぶつかる。大きなすきを作って構え直してからの一撃に、竜の意識が遠のき、倒れ伏す。

 その巨体に、さらなる一撃が振り下ろされた。

 竜にもう少し経験や知恵があればイェードの予備動作の際に軽く、一噛みするだけでイェードを仕留められていた。賭けと駆け引きに勝ったイェードは、竜を単独で叩きのめしたのだ。

 三頭の竜に、四頭にまで減った仔竜たちは、この数の武装した人間と戦うのは良しとせず、故郷の渓谷けいこくへと逃げていった。

 なんとか、撃退には成功したのだ。

 イェードは内実共にゼロ国の軍事力の象徴となり『竜殺しのイェード将軍』と、そう呼ばれるようになった。

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