第2話

 次の日。

 気持ちの良い朝。

 気分良く登校する私。

 光輝君私でシコってくれているといいな。

 しかし本当にこれで3年間、私でシコった回数がわかるのかな。

 ポケットからジーグラスを取り出しかけてみる。

 そして登校中の男子を見てみる。

 全く面識が無いのにちらほら数字が出る奴がいて複雑な気持ちになった。

「こら今川!! またサングラスなんかして」

 うわっ。

 また体育教師の北川だ。

 うわ~

 北川の方を向くとジーグラスには633と数字が出ていた。

 何コイツ。

 3日に1回は私で抜いているの?

 ヤバすぎ。

 呆れ果てたわ。

「こらー、早く外さんかぁー!!」

 怒鳴り続ける北川に返事もしないで私はジーグラスを外した。



 教室に入り着席すると同時にジーグラスをかける。

 うわぁぁぁ。

 クラスの男子を見ると60、80、とかなりの数字が表示されていた。

「おはよぉ~麗華」

「ひぁっ」

 姫美が私の首筋を触って隣の席に座る。

「あ~、またサングラスしてる~。カッコいいね~、って難しそうな顔をしてどうしたのぉ」

 必要以上にその小さくて愛らしい顔を近づけてくる姫美。

 ジーグラスに751と数字が出なかったら私も難しそうな顔をしなくて済んだんだけど……。


 ガラガラ


「おはよー」

「よう光輝」

 教室のドアが開いて光輝君が入ってきたみたいだ。

 気を取り直して光輝君を見る事にする。

 お願い。

 出て。

 数字。




 101

 



 えっ?

 1回ジーグラスを外してもう一1度かけてみる。



 101



 確かに。

 はっきりと数字が出た。

 やった。

 やったぁ。

 私は思わず隣にいた姫美に抱き着いてしまった。

「あれっ? 麗華ちゃん? どうしたのぉ~」

 変に嬉しそうな姫美の声も気にせず私は浮かれた気分になってしまっていた。 



「よーし、いくぞー」

 放課後。

 サッカー部の練習はグラウンドでやっている。

 その声がよく聞こえる図書室。

 ここで時間を潰し偶然を装って光輝君といって一緒に帰る事にした私。

 光輝君の家遠いから途中で友達と別れて1人で帰っているはずだし。

 今まで勇気が出なくて出来なかったけどジーグラスに背中を押されて誘ってみる事にした。

「ありがとうございましたぁー」

 グラウンドの方向からサッカー部が練習終わりにする大きな挨拶が聞こえてきた。

 よし。

 行こう。

 私は読んでもいなかった本を元あった場所に戻すと図書室を出た。



「じゃあーな」

 友達と一緒に帰っていた光輝君。

 最後の1人と別れて1人きりになった。

 わぁドキドキしてきた。

 でも勇気を持って話しかけてみよう。

「こっ、光輝君」

 イヤホンをしようとしていた日に焼けて整った顔がこちらを向く。

「おっ、麗華」

「ぐっ、偶然だね。一緒に帰っても良い?」

 精一杯可愛く言う私。

「良いけど……お前の家こっちじゃなくね?」

 しまった。

 同じクラスだけどあんまり話せなかったし、中学なんて同じクラスになった事すらないから大丈夫だと思ったのに。

 でも何で知っていてくれたの。

 嬉しい。

「お前も俺のこと好きなのか?」

 えっ?

「いるんだよ。こうやって急に絡んでくる奴」

 ばれてる。

 でも笑いながら言ってくれているから怒っては無いのかな。

「いいぜ。一緒に帰ろう」

 やった。

 言ってみるものね。

 私は光輝君と肩を並べて歩き出した。



 夏の終りの夕暮れ。

 周りは畑と林。

 涼風が私達を祝うように木々を揺らす。

 そんな田舎道を2人で歩く。

 私は緊張してほとんどしゃべれないけど光輝君が話しかけてきてくれるので凄く嬉しかった。

 女子慣れしているって噂は本当だったんだな。

 いつの間にか私が来た事が無い所まで歩いていた。

「ところで麗華は何でテニス部辞めたの?」

 うそ。

 中学の部活の事まで知っていてくれた。

 嬉しい。

「あっ、私あんまり同じ事ずっとやるの好きじゃないから」

 この時はもう緊張がだいぶほぐれていて、私は笑って言えていたと思う。

「そうか。俺はお前のあの鍛えられて日焼けしていた足が好きだったんだけどなぁ」

 急に光輝君が私を林の中に引っ張った。

 えっ! 

 何! 

 そして私の両肩を掴んで顔を近づけた。

「こっ、光輝君」

 ビックリする私。

「中学の頃のお前の方が良かったけど。俺毎日お前の足で抜いていた時期があったからな」

 ええっ。

 私の足で。

 てか脚フェチだったの?

 少し……恥ずかしいしなんか微妙。 

 それにそんなカミングアウトいらないよ……

「まぁ少し太くなっているけどいいや。可愛がってやるよ」

 そう言って私の足下にしゃがむと太ももを乱暴に掴み、長い舌を出して舐め始めた。

「やっ、やめてよ。光輝君」

 私は完全に恥ずかしくなって慌てて光輝君に言った。

「何で? お前こういう事したかったんじゃねーの?」

 かっこいい顔を上げて私の目を射抜くように言う光輝君。

 そんな事ない。

 そんな事ないよ。

 少し悲しい気分になる私。

 そして光輝君は更に太ももの上の方を舐めようと私の短いスカートをめくろうとした。


「やめろ!!!!!!!」


 その時、物凄い大声がこの田舎道中に響いた。

「何だ、お前? 変なサングラスなんかして」

 私の足から手を放し声の主に向かっていく光輝君。

「やめろと言っているのがわからないのかぁ!!!!!!」

 えっ!

 何でここにいるの?

 声の主は来栖だった。

「ああ? お前には関係ないだろ」

「大ありだ!!!!!!! 麗華を放せぇええええええ!!!!!!」

 激怒しながら光輝君に近づく。

  

 バキッ


 光輝君の蹴りが来栖の顔面に当たった。

 吹っ飛ぶ来栖。

 光輝君は喧嘩も強いらしい。

 中学の頃のスポーツテストでぶっちぎりの最下位を記録した来栖みたいなキモオタじゃ殺されちゃう。

「オラオラどうした~あー?」

 来栖を蹴りまくる光輝君。

「やめて光輝君」

 ようやく声が出たけど小さすぎたのか光輝君には届かない。

「キモオタはカッコいい事なんて言わないでオナニーでもしてろよ。何だよこんなサングラスなんかしちゃってさぁ」

 ベキッ

 来栖のサングラスを壊す光輝君。

 そして笑いながら来栖を蹴る。

「何だと?」

 土まみれ、鼻血まみれになった来栖が言う。

「だからぁ~キモオタはオナニーしかする事無いんだからカッコつけてしゃしゃり出てくんなって言ってんの? わかった?」

 来栖に唾を吐いて言う光輝君。

「オナニーしかする事無い、だと」

 立ち上がる来栖。

「何だよ、本当の事だろ」

 また来栖を蹴る光輝君。

 もうやめて。

 私が言おうとしたその時、

「オナニーを、自慰をバカにするなぁああああああああああ!!!!!!!!」

 

 ドカッ


 来栖が光輝君に思い切り体当たりをした。

 畑まで吹っ飛んだ光輝君。

「こっ、この野郎」

 ドカッ

 立ち上がろうとする光輝君の顔面を思い切り蹴る来栖。

「ぐぁっ」

 再び畑に倒れた光輝君。

「こっ、この野郎、もう容赦しねーぞ」

 そう言って光輝君は地べたに這いつくばりながらスクールバックの中から鉄パイプを取り出した。

「死ねこの野郎!!」

 立ち上がり振りかぶって来栖を殴ろうとするが、それを鮮やかに避けた来栖は、

「自慰は、オナニーは素晴らしいものなんだ!! お前今日オナニーもできねー位ぶん殴ってやる!!」

 女の子の前で最低な言葉を発しながら光輝君を殴り飛ばした。


 ここからは取っ組み合いになったが175センチ位の光輝君と比べて、来栖は細くなったとはいえ180センチを超えているし、何よりパンチもキックも素人の私が見ても普通じゃない位強かった。

 結局大の字になって動かなくなった光輝君を来栖が殴り続け始めたので、私は漸くこの2人を引き離した。



 夏の夕暮れ。

 秋も近づいてきていたのでもう周りは暗くなりつつあった。

 少ししかない外灯に明かりが灯る。

 無言で歩き続ける私と泥だらけの来栖。

「しかし何で私のいる所がわかったのよ」

 釈然としないので聞いてみた。

「あいつが壊した俺のサングラス。あれこそジーグラスの完成形だったんだ」

「? どーゆー事?」

「ジーグラスは元々自分がシコった相手を追跡する為に作ったんだ」

 えっ? 

 何それ。

 ドン引きする私。

「麗華が持っているのはジーグラスの発展途上形。あの男が壊したのが完成形なんだ」

「そうなんだ……。てか何であんたそんな物作ったの?」

 ジーグラスを手でくるくる回しながら聞く私。

「……大好きな人を一生守る為」

「はぁ?」

 話が繋がらないから大きな声で聴き返す。

「ちょっと早くなったけど」

 息をのむ来栖。

「何が?」

 本当に何を言っているのかわからなかったので更に大きな声で聴き返す。

「お前の事が好きだ」

「ええっ?」

「中学の頃からずっと好きだ」

 ええええ~

 まさかの告白。

「だってジーグラスであんたを見ても数字出なかったのに……」

 びっくりしすぎて聞いてみた。

「高校2年に入ってからは……お前で抜いていないからな」

「なっ、何で……私でシコらなくなったの?」

 冷静になって考えてみれば酷い質問をしたものである。

「もうお前で抜くだけの男では無く、お前に合う男になる為にオナ禁をしたんだ」

 鼻血を出しながら言う来栖。

「お前に合う男になれる為にダイエットもしたし、お前を守れる様に格闘技もはじめた。本当は次のステップ、お洒落になってから、を実施してから告白したかったんだけど今日みたいにお前に惚れている男がまた現れないとも限らないし」

 まぁ光輝君はただの脚フェチだと思うけど。

「だから今日告白する。好きだ、付き合ってくれ」

 真剣な目で私を見つめる来栖。

 うひゃー。

 恥ずかしい。

 その真摯な目を直に見続ける事が出来ずジーグラスをかける私。

 730

 と数字が出た。

 お前2年前までほぼ毎日私でシコっていたのかよ……。

 それを見て物凄く複雑な気持ちになる。

 ……まぁ保留かな。

 私は殴られて傷だらけになっている来栖の顔にジーグラスをかけてやった。

 暗くなりつつある田舎の歩道に外灯が点いて私達を照らす。

 夏の夕風が優しく2人を撫でていった。


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JKとジーグラス 今村駿一 @imamuraexpress8076j

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