第9話

 顔の前で両手を振っていると、「真白!」と弾んだ声に呼ばれる。

 振り返ると、目の前には息がかかるくらい近くで笑みを浮かべたポランが居て、両頬を大きな冷たい手で包まれたのだった。


「ポラン様……」

「きっと、真白はこの事を教える為に、この国に……この城に来てくれたんだな」

「そ、そんな事は……」

「これからは好きなだけ、この城に滞在していいからな」


 最初の冷たい雰囲気はどこに行ったのか、相好を崩して私の頬を包むポランは、喜びに溢れていた。


「ありがとうございます。それなら、元の世界に帰るまで、お世話になります」

「せっかくだから、真白が住んでいた国について教えてくれ。雪はどう対処していた? 国王はどう統治していた?」

「あの……」

「ポラン様、顔が近いです。真白様が困っています」

「す、すまない!」


 フュフスに言われて、ようやく、ポランは私の頬から手を離すと、代わりに手を差し出してきたのだった。


「これからよろしく頼む。真白」

「よろしくお願いします」


 握り返したポランの手は、やはりひんやりとした冷たく大きな手であった。

 それでも、人に触れられたという歓喜の熱に満ちていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

氷雪の王は温もりを知る 夜霞 @yoruapple123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ