第20話 楽しそうな顔してるうぅぅぅぅ!!

 サラはいつも思う。親友シェルディナードが自由であればそれで良い、と。

 大切な、大好きな、幼馴染みで親友。

 何番目の誰の子かなんて関係無い。シェルディナードはシェルディナードだから。

「まだ……ルーちゃんの、邪魔を、するんだ? アイツら」

 学園の高等部。その黄昏に染まる校舎の廊下が茜に色を変え始める。

 窓から差し込み、廊下にじわりじわり広がる赤い色はまるで血のようだ。

 藍色の瞳がどことなく物騒な光を宿し、人形めいた顔に凄みを与えている。

「サァラ」

「ルーちゃん……」

 ガシッと後ろから抱き締められ、その物騒極まりない雰囲気は跡形もなく霧散むさんした。

「なーに考えてんの?」

「んと、害虫駆除の、仕方」

「ハハ。そりゃ怖ぇなー」

 その害虫確実に始末されんじゃん。そんな風に笑って、シェルディナードはサラの頭をポンポンと叩く。

「気持ちだけもらっとく」

「…………なんで」

「一応兄貴達だからな」

「…………」

「さ。それより帰ろうぜ。ミウ迎えに行かねーと」

「……うん」

 シェルディナードの言葉にサラは頷く。

 けれど、納得はしていない。

 いつか。いつかきっと。




     ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




「よ。待たせたな。帰ろうぜ」

「ひぇっ! しぇ、シェルディナード先輩!? わ。は、はい! かか帰りましょう!」

 温室に顔を出したシェルディナードとサラ(どちらも目出し帽着用)に、ミウが音を立ててイスから立ち上がる。

「え。なに。いつにも増して挙動不審じゃん。ミウ」

「そ! そんな事ないです! 全然ないです! い、い、いつも挙動不審なんかじゃないですよ!!」

「……見るからに、挙動不審、だけど」

 ポツリとサラもそう呟く。

「酷いですサラ先輩!」

 チラッとシェルディナードが何とも言えない顔をしているケルに視線を向けるが、すかさずミウが割り込む。

「シェルディナード先輩! 帰るんですよね? 帰りましょう!?」

「いや、その前にケルになに話してたのか聞きたい気分」

「気まぐれお猫様みたいなこと言わないでください!?」

「えー」

 往生際の悪いシェルディナードに、ケルが首を横に振る。

「すまないが約束だ。私は何も話せないからな」

「ほら! だからさっさと行くんですー!」

 そこまで隠されると余計気になるものだ。

 案の定、シェルディナードがちょっと楽しそうな顔になる。


 ――――ヤバい。シェルディナード先輩が楽しそうな顔してるうぅぅぅぅ!!


「シェルディナード先輩は聞かなくて良い事なんです! あ、でも先輩が中間レクリエーションで捕まえそこなったら、残念賞で教えてあげても良いですよ?」

 もう追及をそらせれば何でも良い。そんな気持ちで言った事に、シェルディナードが目を瞬き笑い出す。

「クク……何だそれ。まぁそれならどっちに転んでも俺には損ねーけど」


 ――――言えるわけない! あたしから見たシェルディナード先輩の話なんて!


 だが夜会出席とどっちが嫌か比べたら僅差で夜会が勝つ。

 だからもしそっちが気になって、夜会から逃れられる確率が少しでも上がるなら……。そんなやや姑息こそくな感じだが使わない手はない。


 ――――それに先手打っておかないと、シェルディナード先輩セクハラで聞き出そうとするかもだし!


 実際された事はないが、何かはったりでも「どうぞ」って言ったら本当にセクハラされそうな気がしてならない。

「ま。でも気になるけど、その線はなさそだな。残念残念」

「それ絶対捕まえる気でいるって事ですよね!? 手加減して見逃して下さいよ!!」

「ハハハ。却下。ねーな」

 せいぜい頑張れよ。なんてシェルディナードはミウの頭を撫でる。

「うわーん! シェルディナード先輩の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「えー。サラ、俺バカって言われたんだけど」

「ルーちゃんは、馬鹿じゃない」

「本気で言ってません! サラ先輩怖いです!!」

 ジトリとした視線をシェルディナードの片側から向けるサラと、反対側から威嚇いかくする小動物みたいな様子で言い返すミウ。

 この図、はたから見ると。

「仲が良いな。……と言うか、彼女は度胸がある。黒陽ノッティエルードに面と向かってあんな事を言える人物はシェルディナードを除いて、私は他に知らない」

「そうなんですの。ミウって面白いでしょう? ふふ」

「何か、何も知らなきゃシェルディナード先輩取り合ってる女子二人にも見えるよね」

 サラは男だが。

「ミウ、は、もう少し、ルーちゃんの良さ、わかって」

「このセクハラドS先輩のどこを良いと思えと!? あ、じょ、冗談ですって! サラ先輩本気にしないで下さい本当に怖いぃぃぃぃぃぃー!!」

 そんな和やかな雰囲気と空気を経た数日後。

 ついに中間レクリエーションの日がやってくる。

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