04

 色々とすっきりした状態で、彼のいるキッチンに戻った。


「おう。風呂上がりか」


「はい」


「座れよ。出来たぞ」


 机の上。食べ物が並んでいる。空腹を感じる。


「性欲は発散したんだから、次は食欲だな」


 席について。とりあえずひとつ食べる。


「おい」


「はい」


「いただきますって言わんのか」


「なにそれ。宗教?」


「そうか。まあいいよ。どうぞお食べなさい」


 食べた。


 人生で、初めて。


 おいしいと、思った。


「うまいか?」


「おいしい」


「そうかそうか。よかった」


 食べながら。


 食べているものが。


 だんだん、しょっぱくなった。


「うう」


 泣いていたから。涙の味なのだと、気付くまで、時間がかかった。


「ティッシュ使えよ」


 はなをすすって。涙を拭いて。


 また食べる。


「おいしいです」


 机の上のもの。全て、なくなった。


「俺のぶんまで食ったな」


「あっ。え。そんな」


 全部食べちゃった。


「いいよいいよ。今から作るから」


「あの」


「もっと食べたいんだろ。食べ過ぎるといけないから、軽めにするぞ」


「ありがとう、ございます。ごめんなさい。食べ物を美味しいって思ったの、生まれて初めてで。どうしていいかわかんなくて」


「じゃあ、ひとついいか」


「はい」


「食べ終わったら、ごちそうさまって言え。それでいいよ」


「はい。ごちそうさまでした」


「まだ食うんじゃないのか?」


「あ。ごちそうさませませんでした」


「日本語おかしいな。まあいいや」


 ごはんができるのを。待つ。

 初めての、気持ちだった。生まれてからずっと、ひとりで。誰かといたことなんて、なくて。


 また、しょっぱくなった。涙。拭って待つ。次のごはん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る