03

 結局。

 彼の部屋の前。


「ほれ。入れよ」


「ホテルじゃない」


「今更言うなよ。自炊できるラブホテルがどこにあるよ」


 言い返せなかった。


 警戒しながら、彼の部屋に、入る。高層マンション。最上階。自分たちの会社の給金では、たぶん逆立ちしても入れないぐらいの値段のところ。


 部屋のなかは。


 ホテルみたいだった。質の高い調度品。飾られた絵。高級そうな机と椅子。なんかものすごく大きなテレビ。


「家具は気にしないでくれ。ここに初めて来たときからずっと置いてある。初期装備みたいなもんだ」


「装備って」


「今ごはん作ってやるよ」


 彼。奥に消えて。


 エプロン姿で出てきた。


「えっ。エプロン。えっ」


「そりゃあ、ごはん作るんだからエプロンに三角巾だろ」


「うそでしょ」


「座ってろよ。おまえが料理できる人間には見えない」


 言われるまま。

 机に座った。


 なんか。

 今まで意識したことがないけど。

 すごく、異性の匂いというか、なんか、いけない気分にさせるフェロモンのような感じが、ある。


 ちょっとだけ。

 心がざわつく。


「テレビの下」


 言われるまま。テレビの下の戸棚を開ける。


「下の段。左から3つめ」


 下の段。左から3つめ。


 えっちな本。


「なにこれ」


「使っていいぞ」


「なっ。なにをっ」


 本を床に叩きつけた。ぱちいんっという音。

 その拍子に、ページがめくれる。


「あっ。けっこう絵柄が好みかも」


「じゃあ遠慮せず使えよ。ごはんができるまではまだ時間がある。ベッドは廊下3つ先」


 なんか、調子狂うな。

 でも、なんか、いけない気分だから。このまま致してしまおう。


「おい」


「ひいっ」


 声をかけられただけで、ちょっとびくっとしてしまった。


「身体を大事にしろよ。手を突っ込んでかき回したり、血を流してぐちゃぐちゃにするのは認めん」


「あ、はい。ごめんなさい。なるべくやさしくします」


「よろしい。風呂はベッドの近くだから、好きに使えよ」


「はい」







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