ダーククリスタルの帝都 〜雑貨屋の主人は錬金術師〜
村中 順
メル大陸へ
第一話 殺戮の女神
「そこの飛空船、止まりなさい。さもないと攻撃します」
と警告が発せられた。
———幾筋もの聖石のサーチライトが、一艘の飛空船を照らしている。そして、周りには三ツ目のゴーレムが取り囲み、何時でも光線を発射出来る状態にある———
「グレンダー・オクタエダル、大人しく投降することを勧めます」
とその丁寧な言葉とは裏腹に、その声は死神の囁きに思えた。
「ちっ、女神様のお出ましかい」
とグレンダーは飛空船のデッキの窓から、外の様子を伺いながら呟いた。
◇ ◇ ◇
一昨年、北の大陸で、エルマーがロッパ大陸の錬金術師に敗れたと驚きの情報を得た。これを好機と判断した共和国連合軍は、各地で一斉蜂起し、この一年を懸けてエルマー帝国の首都グランドスキルを陥落寸前まで追い詰めた。あと少し、後もう少しで、エルマーの本体であるグランドスキルを破壊し、百数年続いた恐怖から解放されると信じていた。
そのような中、あの女が現れた。
最初は、
「なんだ、エルマーの新しいホモンクルスか? 一体で何が出来るのだ? 」
と兵士だけでは無く諸将も皆、数を頼んで馬鹿にしていた。
しかし、数時間後には、連合軍は壊滅状態に陥る。
最初は何が起きたのか分からなかった。上級士官の近くに影が現れると血を噴き出して倒れていたのである。
「瞬間移動だ。瞬間移動して襲ってくる ・・・ 」
と兵の一人が叫び、その次の言葉を発する前に首が落ちていた。
その女のホモンクルスは、瞬間移動で上級士官に近づき殺していった。瞬く間に百人近くいた将校は切られ、指揮命令系統は分断、そして混乱したところに、三ツ目のゴーレム軍と、魔獣とゴーレムを合わせた様な機械化魔獣が現れ、兵士達を蹂躙していったのである。
———勝利の美酒が入った杯は、掴む直前で掌をすり抜けた———
「グレンダー、ここは危ないわ。すぐに待避を」
とカリオナ・コンフォーウェルが私の後ろで警告してくれた。彼女は錬金術を応用した機器の製作を得意とする錬金術師である。
「空港まで撤退。私も頃合いを見て向かう」
と壊滅しつつある連合軍を見ながら答えた。
私は、一度、右手を強く握ったあと、
「ああ、カリオナ。兵達に虫を飛ばして撤退を伝えてくれ。一人でも多くの兵を収容したい」
とカリオナに頼んだ。
カリオナは、私がすぐに移動しないのを不満に思ったようだが、踵を返して箱から大量のテントウ虫のゴーレムを飛ばしてくれた。私は残った兵達が移動し始めたのを見計らって、後ろに控えた魔導車に乗り込んだ。数十台の魔導車は、既に先行して走り去った所である。
「何時、あの殺戮の女神が来るか分からないわ」
と先に行ったと思っていたカリオナが後部座席から声を掛けてきた。
「殺戮の女神? 」
と答えたとき魔導車が急発進して、身体が背もたれに押しつけられる。
「ええ、見た兵士が言っていたわ。もの凄い美人だって」
とカリオナも箱を前に抱えて答えた。
「瞬間移動しているだろ? 見間違えたじゃないか? 」
と急旋回する魔導車の中で、身体を持って行かれないように手足を踏ん張りながら聞いた。
「かなりの数の兵士が言っているから、間違いないと思うわ」
「ふん、それで女神か。でも、君ほどじゃないだろう」
その時、突然重力が無くなり、次の瞬間、椅子に激しく打ち付けられた。
「こんな時に、良くそんな冗談を言えるわね。グレンダー・オクタエダル上院議員殿」
とそう言う彼女も、半分笑みを浮かべながら答える。
「冗談じゃ ・・・・」
と言いかけたとき、前を走っていた魔導車が吹き飛んだ。
「飛行型の三ツ目よ。障壁を張るわ」
とカリオナは、箱から八つの小さなポイントマーカを飛ばして、疾走する魔導車の周りに配置した。そして呪文を唱えると、小さな飛行物体を頂点にして錬金陣が現れ、飛行する三ツ目のゴーレムの攻撃を防いだ。
私は、魔法銃を懐から取り出し、対ゴーレム用の鋼鉄弾を込めた。
メルのオクタエダル家も元々は錬金術師の家系だった。しかしエルマー・オクタエダルによって、オクタエダル家の錬金術師は根絶やしにされてしまい、錬金術師ではない者だけが残った。その後は、エルマーという怪物を生み出した家系の贖罪のためか、オクタエダル家は真名の儀式をせず、錬金術師を含む魔法使いを輩出することを止めたのである。私は専らカリオナが作ってくれた魔法銃で身を守っている。
銃のチャンバーを左腕に押しつけて回し、
「さて、君が作ってくれた新しい魔法弾の威力を試してみるか」
と爆発音に負けない位、大声を出した。
先ほどから、カリオナが作った障壁に三ツ目の光線が当たり爆発している。
「大丈夫よ、誘導弾だから。下手くそなグレンダーでも、的を見てれば当たるわ」
と負けじと大声で答えてきた。外が五月蠅いせいか、ちょっと話がかみ合ってない。
窓を開け、銃を撃つ。
タン
と軽い発射音したあと、三ツ目のゴーレムに穴が開き、少しして爆発した。
なるほど、魔導車が揺れているにも拘わらず、三ツ目を一発で撃ち落とせる。反動も殆ど無い。数体の三ツ目を落とすと、今度は機械化された魔狼が現れた。足と頭が金属のようだ。
「おい、あれ、何だ? 」
「機械化魔獣。昔から研究されてきたけど。エルマーの奴は作れたのね。忌々しい」
「あれには、聖素弾か? 鋼鉄弾か? 」
「どっちでも良いわよ!」
とカリオナは、若干苛立って答えてきた。
タン、タン、タン ・・・
と数発撃ち尽くした。
機械化魔獣の頭の金属の部分に鋼鉄弾が当たり爆発する。チャンバーから薬莢を捨て、新しい弾を込めた。
「良し」
と声を上げたその時、魔導車が急停止する。
女が前方に現れた。
ロッパ風の、鞘に収めた長い剣を腰の辺りで横に構え、左手を剣の柄に乗せて佇んでいる。後ろで束ねた銀色の髪が、風に靡くその容姿は、重さを感じさせない、まさに女神であった。まだ相当距離があるにもかかわらず、その女の容姿が目に入ってくる。
「確かに美人だ」
と私は、つい呟いてしまった。
「なに、鼻の下伸ばしているのよ」
と後部座席から、カリオナの言葉が刺さってきた。
私達の魔導車の右脇から護衛車が吐出して、その女に向かって走って行った。
’ひき殺すつもりか’
と思ったとき、光の輪がきらめいた。
すると護衛車は、真っ二つに割れ左右に分かれて爆発した。女は佇んだままに見える。
私は運転手に向かって、
「避けろ、あの女から離れろ」
と叫び、
「カリオナ、空間干渉できるか? 」
と半分命令口調で、お願いした。
「やってみる」
と言った後、術式を唱えた。
すると魔導車の周りの小さな八つの物体が微かに光り、新しい錬金陣を構成した。
魔導車は一目散に殺戮の女神から逃げた。カリオナは続けて、魔法消去、音声消去、匂い消去、追跡障害などを立て続けに唱えている。
「森に入れ。三ツ目が空から探しているはずだ」
と運転手に命じた。
疾走する魔導車の周りで、何度か光の輪が煌めいた。そのたびに、急旋回して逃げ切り、森の中に滑り込んだ。
そして、カリオナは窓から上空を見上げ、森の木々が分厚く重なっているのを確認し、
「魔導車を真っ二つにしたのは、剣で切ったのよね? 何時、抜いたのか分からなかったけど」
と周りを警戒して、術式を変えながらカリオナが答えた。
「あの剣と剣技は、たぶんロッパ大陸の物だ。しかしあんなに早いとは聞いた事がないな。それにあの連続した瞬間移動、信じられないな」
と新しい弾倉を対人用にするか、魔族用にするか若干迷いながら答えた。
「そうね。移動の距離、連続回数、移動と移動の間の短さ、発現する位置の正確さ、どれを取っても、これまでのホモンクルスのものとは桁違いね。エルマーの護衛だったセレと同じ位か、それ以上かしら」
と一通り、防衛の結界を張り終えて一息ついたカリオナが答えてくれた。
瞬間移動には体力だけではなく、寿命に影響するほど生命エネルギーを消費するのがこれまでの通説で、使えば使うほど、身体の何処かが故障することが分かっていた。そのため、ホモンクルスでも普通は数回程度しか連続使用できない。
「司令室など、瞬間移動対策が施されているはずだが、何故、易々と突破されたのかな? 」
少し身体を傾けて、後部座席のカリオナに聞いた。
そのカリオナは、何処から出したのか、パンをかじっている。
「けつご …… うご …… ぐお、うん。結界には斑あるのよ。特に空間干渉の結界は見えにくいから、隙間が分かりにくいの。司令室だからと気が緩んでいると発見できないわね。でもその斑を正確に計算して、結界内に入っている奴など、これまでに居なかったと思うわ」
そんな事を会話しているところに、
「閣下、魔法便のようです」
と運転手が、フロントガラスの外に張り付いた物を指差して教えてくれた。
「有り難う」
と答えながら、魔法便をつまんで、座席に座り直した。それは、煤けて所何処が焼けている。
鳥のような形に織り込まれた物を広げると、
『親書 最高機密』
のマークがついている。そのため、一見すると白紙である。本来は自室の誰もいない所で開くべきだが、今はそう場合では無い。私は、徐にペンを取り出して、紙面の下の方にサインした。
すると、
『汝、証明せよ』
と言葉が紙面に現れた。
私は持っている小刀で指先を少し切り、血判を押した。
血のシミが吸い込まれるように消えると、紙面に複数の魔法陣が現れ、歯車の様に動き、そして、顔が浮かび上がった。映像便のようだ。ペンで書くことができないときに使うが、短い伝言しか記録できない。
その顔は、シロフ大佐だった。
”閣下、ご無事ですか? シロフです …………”
” …… グラフィアの無力化 ……失敗 ”
記録された内容を喋り始めたが、ちりぢりになっていた。
「記録が破壊されているわね。高熱に晒されたためだと思うわ」
とカリオナが後部座席から心配そうに説明してくれた。
「うーん」
と私はうなり声に近い返答をした。
「大佐はシン・グラフィアを探し出して、無力化するが任務だったのよね …… 」
「ああ、グランドスキルは完全に破壊できなかったが、普通に再建すれば十数年かかる。しかしシン・グラフィアがあれば、数日、いや一日で元の完全な形に戻ってしまうだろう。そうなれば、次の反撃の機会は、何年後になるか分からない」
と胃が重くなるのを感じながら、カリオナに答えた。
カリオナは、そんな事は百も承知だろう。これは、自分に言い聞かせた様なものである。
そしてカリオナは、
「 …… 」
無言だった。私が次に言う言葉を察している。
「今の我が方の状況を考えると、これを確認、場合によっては破壊するための部隊がない」
とカリオナの反応を見るために一旦言葉を切った。
「 …… 止めても、行くのでしょう? 」
とカリオナは少し落胆した様な、諦めた様な声で答えてきた。
「ああ、行く。勝利の美酒の滴だけでも頂戴しておきたい」
と魔法便に火を付けて、燃やしながら答えた。
熱さに耐えかねて、魔導車の外に投げ捨てた魔法便をカリオナが、空気へ変換して、完全に消去する。
「ありがとう」
と一言礼を言ったあと、
「おい君、トルネに繋いでくれ」
と運転手にお願いした。
「なあ、カリオナ。この魔法通信って奴は、本当に傍受されないのか? 」
と運転手が魔法通信を使ってトルネを探している間に、カリオナに聞いてみた。
「貴方の魔法懐疑は分かるけど、この通信はそう簡単には解析出来ないわ。暗号変調術式が交信する間に変わっていくから。それとも、私の設計を疑っていらっしゃるのかしら?」
と方式の発案者の一人であるカリオナが答えた。
「いやいや、疑う訳ではない。君の能力と技術を疑う訳ではないよ。うん」
と痒くもない額を掻きながら答えた。
「繋がりました」
と運転手が此方を向いて話に割り込んできた。
よく見ると、まだ二十五、六の若者だが、目に強い光と意思を感じた。階級は上等兵。警護隊か。ちょっと前なら近衛と呼ばれていた部隊の所属だな。
「君、名前は? 」
と尋ねると、狭い運転席で、上半身ひねって敬礼しながら、
「アルザック・バイトロ、上等兵であります」
と緊張して答えた。
「アルザック、有り難う」
と声をかけると、さらに緊張して、
「上院議員閣下の警護ができて、光栄であります」
と声を張り上げた。
私は、緊張したアルザックが、さらに身体をひねりそうなので、頷くだけに留めて魔法通信機に手を置いた。すると私の耳の周りが、仄かな緑色の光に包まれる。
”待たせた。久しぶりだな。トルネ”
”グレンダー、こんな時になんだ? 優雅な上院議員殿のお相手などしている暇は無いぞ”
”相変わらずだな。今日は、元特務隊のリーダとしてのお願いだ。ちょっと小うるさい女神様をまきたくてね”
”ほう”
”明日、其方に向かう。低空の三ツ目は落とせるが、まだ高高度の奴がいると思う。それを撃ち落としてくれないか? ”
”了解。ところで、我らの小うるさい小姑は一緒か? ”
とトルネが言ってきたので、つい後ろのカリオナを見てしまった。
「なによ。トルネが、また私の悪口を言っているのでしょう。今度会ったら、ただじゃ置かないわと伝えて」
と錬金術の箱を抱えて、頬を膨らませて、ドスンと座席に深く座り直した。
”ああ、一緒だ。ただじゃ置かないそうだ”
”おや、魔法通信機は傍受できないじゃないのか? ”
”うーん、分からない。顔を見ただけなのだがな”
”まあ、こう言うのに関しては異様に感の良い奴だからな。オープンにしていなくても分かるのだろう。ハハハハ …… こっちは、三ツ目を落とす準備をする。女神様を出し抜いてこい”
”恩に着る”
と魔法通信を切った。
◇ ◇ ◇
緊張した野営から一夜明けた。ここに集まったのは四台の魔導車と十数人の兵士達だ。皆の意見を聞き、四台で別々のルートを通って空港に向かうことにした。女神は私のほうに引きつけたい。
そこで私は、カリオナに魔法障壁を少し緩くしてもらい、魔導車で円陣を組んでいる中心に立って、
「諸君、グレンダー・オクタエダル上院議員である。今日の敗北で明日が消えたわけではない。我々、共和国連合軍は何十年もの間、耐えてきた。この試練もその一つでしかない。空港で落ち合おう。とにかく逃げて逃げるまくるのだ。明日の勝利のために! 」
と指揮官を装い声を上げて魔導車に乗り込んだ。
「アルザック、危ない目に遭わせて申し訳ないな」
と若い運転手に詫びを入れたが、本人は、
「お任せください」
と声を上げて魔導車を急発進させた。
「女神を引きつけるために演説をぶったのね。全く貴方ときたら」
とカリオナの冷静な声が何故か助かった。
「君にも済まないと思っている」
「何言っているのよ。貴方との付き合いは長いのよ。こんな事で驚かないわ。問題は、殺戮の女神にとって、上院議員殿に追うだけの価値があるかだわねぇ」
「むむ、手厳しいな」
カリオナ・コンフォーウェルは、亡くなった妻の姉だ。しかし私より年下。容姿端麗、錬金術関連の装置を作らせたら、このメル大陸では、エルマーを除いて右に出る者はいない程の才女だ。妻が生きていたころから、色々な装置を作ってくれ、妻を亡くしてからは、特務隊の一員になっていた。有能な秘書とも言える。他人は色々と噂を立てるが男女の仲ではない。むしろ実の姉の様な存在だ。
あまり舗装されていない道を疾走する。魔導サスペンションは、とっくに壊れているのか、振動がもろに身体にぶつかってくる。カリオナは直したいと思っているだろうが、今は我慢してもらう。
しかし、アルザックの運転には驚かされる。森の中を殆ど速度を落とさずに疾走するのだ。そして、見えないはずの大木を器用に避けていく。私は正直に言うと、この時、少しびびった。
しばらく走って、木々が無く開けた場所に着いた。次の森までにトルネが、高高度の三ツ目を撃ち落としてくれるとありがたいのだが。
「女です」
とアルザックが、低いがハッキリと分かる声で警告してくれた。
’こちらに来てくれたか。他の魔導車が無事なら良いのだが’
と思った。
直ぐに戦闘に突入すると思っていたが、女は右手を前に突き出し、静止しろと告げていた。
「グレンダー・オクタエダル上院議員、ご主人様から伝言があります」
とその女、殺戮の女神が声を発した。
長い剣を鞘に収めて腰の後ろで水平にして、左手を剣の柄に添えて立っている。
私は魔導車の扉を開けて、徐に靴を地面に下ろした。
「こうして、話をするのは初めてですね。私の名前はご存じのようだ。貴方のことは何とお呼びすれば良い? 」
風の無い湖の様な、一切の感情の高ぶりないその姿は、全く重さを感じさせない。
その空気に似た造形物から、
「殺戮の女神とお呼びください」
と声が聞こえた。
「それは、こちらの兵達が勝手に付けた二つ名だ。ご自身のお名前は? 」
と再度聞き直した。
すると、この時初めて、小さな羽虫が作ったような波紋が湖面に広がった。
しばらく間があき、
「シェリー」
と小さな声でポツリと答えた。
そして、波紋は直ぐに鏡のようになり、
「ご主人様から申しつかっております。身内のよしみで登降すれば命は助けると。そしてカリオナ・コンフォーウェルを引き渡せとのご命令です。もし飲まないなら、切って捨てよとのこと」
と元の感情ない言葉で淡々と答えてきた。
私は、彼女の問いには、答えずに
「シェリーさん、魔導車に乗った他の同志はどうした? 」
と聞いた。
女神は、少し首を傾げて、
「私の任務は、各部隊の指揮官の処理だけです。他はゴーレムか、合成魔獣が対処しているでしょう」
と答えた。そして、
「ご主人様からの申し出の返答や如何に? 」
と少し強い口調で問い直してきた。
私は、その詰問にも直ぐに答えず、考えるそぶりをして、上空を見上げた。
青い空に、鱗のような雲が見える。夏も終わりだ。
そこに、三本の光の筋が走った。トルネの長距離大弓から発射された矢と直ぐに気づいた。位置的に女神は、まだ気づいていない様だ。
「シェリーさん、私はエルマーの脅しに屈しないし、懐柔にも乗らない主義でね。どうだね。私だけを残して、この魔導車の二人は見逃してくれないか? 」
森を抜ける初秋の風が、感情のない女神の髪の毛を揺らしている。今朝、この辺りは、少し雨が降ったのだろう。土と木々の匂いがする。
束の間の静寂。
「いえ、ご主人様のご命令は先ほどの通りです。従わないなら、切って捨てます」
と女神は左足を引き、鯉口を切った。
その時、魔導車が、急発進し、私と女神の間に割り込んだ。
魔導車が、私の視界から女神を遮るまでの僅かな時間、
「無駄なことを」
と女神の口が動き、声が聞こえるような気がした。
そして、
キーン
———金属がぶつかる音———
私の目の前に、瞬間移動で現れた女神の一閃を何かが妨害した。
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