国防省

 難波と会った後の三ヶ月の間、僕たちはプラナリアの薬を作っていたが難波が襲ってくることはなかった。難波も自分の計画に専念しているのだろう。そのおかげで三ヶ月という短期間でプラナリアの薬、断片再生を完成させることができた。

しかし、僕たちが気付いていなかっただけで、難波は計画を盛大に実行していた。難波はさらに世界の人までもを減らし、計画を完成させるため未来の兵器を作り人を殺していた。

その間も日本の警官総動員で難波に体当たりをしていたが、不死身となった難波に勝て

るはずもなく、あっけなく壊滅状態においやられていた。

 最近、日本の全軍隊、海外の全軍隊、兵器、全てを出払って難波に体当たりをしたが、やはり不死身の難波に勝てるはずもなく、日本だけでなく海外までもが壊滅状態においやられていた。

日本や海外の軍隊を壊滅状態においやったことにより、難波は全世界を敵に回した。難波は日々追われる身となって各地を転々としていた。追われていても難波は自分から見て無能な人間を殺し続けていった。もちろん警官、軍隊もその対象だった。

断片再生を完成させた僕は、難波を止めに行くため地下室から出ようとした。

「難波君は私たちが作った薬について知らないと思うの。だから、極力この薬の存在に気づかれないようにしてね。でも、これは私に視えた未来だから――竜也くんは違う世界が視えていたんだよね」

志桜里は僕に言い聞かせるよう言った。

僕は地下室に志桜里と恒平を残し、難波の元へと向かった。

志桜里は僕が見えなくなるまで見送ってくれていた。


難波を探す間、志桜里と通話をしていた。通話をしている時、志桜里が急に思い出したかのように――

「実はね難波君を止める方法が一つだけあるにはあるの。でも、難波君にもその未来が視えてるかもしれないの。私にはその方法の未来は視えたけど、その行動を起こした後、難波君がどのような行動をするのかが分からないの」

難波を止める方法、そう聞いたとき僕は刑務所の中で自分が考えていた難波を止める方法を志桜里に全て話した。

「もしかしてその方法って、不老不死の薬を作る過程に少し変化を加えて不老不死の効力をなくす薬を作ること?」

志桜里は「えっ」と、驚いていた。

携帯越しでも分かるが、僕がその方法を知っていることを不思議に思っているはずだ。

「そうだよ。でもなんで竜也くんがその方法を知っているの?」

やはり、志桜里は僕がその方法を知っていることに困惑していた。

「今までからその方法は考えてたんだ。でも、そのときは信じたくなかったんだ。難波が虚像干渉を使えることを……。疑っていた僕には、その方法が難波にすでにばれてると思って作ることができなかったんだ。しかも、その未来が視えたのは刑務所に入っている時で、それが最後に視えた未来でもあったんだ。未来の僕たちは確かにこの薬を作っていた。でも、僕はその未来を変える。薬を作るのは裕衣が一人でやってくれないか、作成手順を示した便箋を書いてあるんだ。それを僕の机の引き出しに閉まっておいたはずだからそれを見てみて」

「分かった、引き出しだね。私一人で頑張ってみるよ。でも、竜也くんはこれから難波君に会ってどうするの?」

「難波には未来が視えているから、どうにかして難波に未来を視る時間を作らせないよう

にしてみるよ」

「竜也くん、いくら死なないとしても、難波君と戦わないように決着をつけてね。絶対に帰ってきてよ」

その言葉に僕は何があっても裕衣たちの元へ帰らないといけないと思った。

僕も志桜里と同じことを考えていた。どうにかして、難波と戦わずして決着をつけられないのかと……

 難波と三ヶ月前に会った場所に行ったが、難波はそこに居なかった。

「そうだよな。世界を敵に回してしまったんだから……」

僕は車から降り、スマートフォンである場所に電話をかけた。相手が電話に出るまでの間考え事をしていた。断片再生はできた。そして、不老不死を無効にする薬も志桜里に作ってもらっている。後は僕が時間稼ぎをするだけだと。

志桜里は、今の進んでいる未来は自分が視えた未来とほぼ同じだと言っていた。一つ違うことは難波の元へと向かうのが僕と志桜里ではなく僕だけだということ。そしてその間に志桜里が薬を作るということだけだ。難波にこの未来が視えていないのなら、薬を完成させ一刻も早く難波を止めることができる。仮に難波にその未来が視えていたとしても、未来が変わってしまうかは分からない。

「はい、こちら国防省です」

考え事が終わると同時に相手が電話に出た。

 全世界の政府を敵に回した難波は、常にマークされている状態だった。情報は国家機密にしようという話が世界の政府間で決まっていたが、一刻も早く難波を捕まえること、難波によるこれ以上の被害者を増やさないためにも、日本は国民に情報を与えていた。どこの国も情報を与えることに変わりはなかった。結局、難波の情報は国民に開示されることとなっていた。

しかも、情報を与えるだけではなく国民は国防省で難波についての情報と引き換えに、難波のさらに詳しい情報を知ることができた。ただ難波の居場所に関しては、かなり重要な情報を受け渡す必要があった。

僕は難波の居場所を知るために国防省に電話をしたのだった。

「斎藤元帥さんに代わって頂けないでしょうか?」

電話の相手は戸惑っていた。それもそのはず、斎藤元帥とは国防省のトップ兼、世界の難波に対する情報をまとめ開示する重要な役職の人間だった。

「すみません。どのような事情があったとしても斎藤元帥に代わることはできません」

国防省に電話を掛けることは安易なことだが、面白半分で電話をするはた迷惑な人がいるため、トップに辿り着くどころか電話も一度で繋がるとは思っていなかった。でも、そんな中繋がった電話だからこそ、どうにかして斎藤元帥に代わるよう話を続けた。

「そこを何とかお願いできませんか?」

「そこまで言われるのなら、分かりました。しかし、代わるか代わらないかは後で判断させて頂きます。まずはお名前と、どのような情報と交換するのか、そちらの情報からお聞きしましょうか」

事前に聞かれると思った項目を紙にまとめておいた。

耳と肩の間にスマートフォンを挟み、ペンで紙にチェックをしながら返答した。

「匿名でお願いします。その気になられればお宅の方から調べることができると思うんで。だから、今は伏せておきます。僕が交換したい情報は難波の居場所です。僕が提示する情報はお宅が欲しい情報なら何でもいいですよ」

電話越しの相手は周りの仲間と相談していたようだが、話がまとまったのか僕との通話に戻ってきた。

「私どもで相談した結果、私どもの欲しい情報は難波さんに関わるものならどのような事でも良いということになりました。少しでも情報が欲しいのです。仮に私どもが難波さんに関わるこの情報が欲しいと言えば、あなたは答えられるのですか?」

「まあ、難波のことで知っていることは、そちらの持っている情報の倍、いやそれ以上は持っているかも知れませんね」

その言葉に相手はとても驚いた。

それは、難波に関する情報がただでさえ国家機密の情報で、僕がそれ以上の難波についての情報を持っていたことにだった。

なぜか電話の周りからも騒めき声が聞こえてきた。

僕がどんな情報でも教えられると言ったため、その場に居る全員に聞こえるよう音声の設定を変えていたのだ。

僕はそのことを何とも思わなかった。

「先ほど、難波さんの居場所だと言いましたよね。分かりました。私どもが欲しい情報は、難波さんが使っている兵器のことについてです。私どもは、あの兵器がどんなに考えても現存する技術では作れないと考えています。だとすれば、あの兵器はどこで作られたのか、それが私どもが欲しい情報です」

「難波は……」

少しの間、僕は話すかどうか戸惑っていた。難波の居場所は知りたいけれど虚像干渉の話をして、国防省の人たちがそれを信用してくれるのかと思ったからだ。

でも、難波の居場所を知るためには、たとえ信用されなくても話さなければいけなかった。

だから、僕は決心して話すことにした。

「今から話すことを信じるか信じないかはあなた方にお任せします。しかし、この約束だけは守ってくださいよ。難波の居場所は教えてもらいますからね」

「分かりました、その約束は守りましょう。そして、その話を信じるか信じないかはこちらで判断させていただきます」

「難波が作った兵器は、現在みなさんを苦しませている兵器そのものです。それらは本来ならば全て未来で作られる物なんです。そう難波は未来を視ることができるんです。その能力を僕は虚像干渉と呼んでいます。そして、僕もその能力を使えます。この能力によって僕たちは未来や過去を変えることができます。今は理由あって僕だけが虚像干渉を使えなくなっていますが……。さらに難波は不老不死の薬を完成させました。たぶん、みなさんが難波を殺すことができないのはそのせいでしょう。僕も一応、不老不死の薬を飲んでいますが……」

 相手は一度も口を挟むことはなかったが、冷静に聞いて僕の言葉の文に喰いかかってきた。

「先ほど、僕たちと言われましたが、あなたと難波さん、他にも誰かいるのですか?」

僕は痛い所をつかれた。国防省の相手は、今まで僕が難波と呼んでいたのを僕たちと言い換えたことに気付いていた。

相手の出方を窺ったが、一発目で見破られるとは予想を遥かに超えていた。

 国防省は各部門のエキスパートをかき集めて作られた精鋭部隊だった。元々は民間人を保護するために作られ、一般の採用募集も行っていた。しかし、難波の現在進行形の一件があってから、元とはかけ離れた才能を持つ人間を集めていた。

「さすがですね。僕たちが、僕や難波以外を指していることに気付くとは。その見解通りですよ。でもそれは、次の情報交換の時にでもお話しさせて頂きます。僕が今ここで全ての情報を提示してしまっては、次回からの情報交換ができませんからね」

「そうですか……」

 今度は素直に聞き入れてくれたかと思ったが、僕の早とちりだった。

「やはりお名前を教えて頂けませんか。私どもはあなたの話をきっと信じるでしょう。そうなれば、あなたに一度お会いしておきたいと私どもは考えるでしょう。ですから、あなたに会うためにはお名前を知っておく必要があるのです」

国防省の人の言い分に賛同している自分がいた。僕ほど難波の情報を持っている人間を国防省がみすみす見逃すわけがないからだ。

僕はそのままの勢いで名前を言ってしまっていた。

「そうですよね……僕は久遠竜也といいます。僕のことは好きに詮索してもいいですが、家族のことだけは調べないで下さい。もし、それをしたと僕が判断した時はあなたたちを消しますから」

「そうですか……それは怖いですね。重々承知しておきます。難波さんは今、中央国立国主会館にいます」

「そうだ、先ほどから思っていたんですけど、なぜ難波のことを〝さん〟付けで呼んでいるんですか。難波は世界を敵に回して、残虐な殺人を繰り返しているんですよ」

 初めからずっと気になっていた。

難波のことを難波さんと呼ぶ国防省の女性に。

「そうですね。ただ難波さんも日本の国民なので――それと、これは一個人の考えなのですが、難波さんが行っている残虐な殺人について、全く理解してあげられないわけでもないですから……」

 国防省の女性は国を守る仕事をしている上で、難波のしていることに理解があると言った。

 確かにその通りで、僕が知っている難波の計画には、ただ単に有能な人を残すというだけで、他の人を全て殺すというものではなかった。難波はいくら有能な人材でも、世に知られていて罪を犯した人、知られていなくても罪を犯した人、殺人犯などはどんな有能な人材でも殺すというのが難波の計画の中にはあった。僕もこの計画に組み込まれている難波の考えに反対することができなかった。

それに無能な人間でも、将来が有望な人材や人の為に日本につくせる人間は殺さないと言っていた。

元々、僕もこの世界に面白味を見いだせなかった。そして、罪を犯している人を許すことができなかった。何度自分の持つ力でそんな人間を殺そうとしたことか分からない。

「確かに難波のしていることは世界を敵に回すことかもしれません。でも、あなたのおっしゃたように、僕も難波の行動を理解できないわけでもないんです。でも、これ以上罪のない人を殺すのだけは許せません。だから、僕は難波を止めたいんです。でも、あなたのような人がいてくれて僕は嬉しいです」

「難波さんの行動全てを否定している人はそれほど多くないでしょう。それと話を戻しますが、一度会って話をするという件に関しては、こちらの方からご連絡のさせていただきます」

「えっ」

僕の口からは声が洩れていた。

こちらから連絡、それはできないはずだ。僕の連絡先を国防省には教えていない。

「すみません。お伝えするのを忘れていました。私ども国防省では、情報を教えて下さった方にお金を渡すという話に初めなっていました。しかし、そのせいで国民の中にお金目的で電話をしてくる人が増えてきました。中には正規の情報を教えてくれる人もいましたが、前者の人がいるために後者の方の電話が通じないという事態が起こりました。その結果私ども国防省では、正規の情報以外で電話した人は警察に拘束されるという条件を出しました。実際電話の件数は減りましたが、それでもなお、お金目的の電話が月に数件ありました。警察に拘束されるというのは虚偽ですが、電話を掛けた人の電話番号を記録するという措置を取ってきました。今もその措置を取らせさせて頂いています。そのため、あなたの電話番号を私どもは知ることができます」

僕はこの言葉を聞いて驚いた。まさか国防省に電話をするだけで電話番号を特定されるだなんて思ってもいなかった。電話番号が分かったという事は、僕の住所も自ずと知ることができる。携帯会社にでも連絡をすれば、すぐにでも住所は分かるだろう。これに驚かない人は居ないはずだ。そして、僕もそのうちの一人だった。

「ありがとうございます。中央国立国主会館ですね」

言い切るようにして、僕は相手の返事も聞くことなく電話を切った。

これで僕の情報は全て国防省の手中にある。名前を教え、連絡先まで知られ、さらにはその情報から住所までもが特定された。

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