11 over extended. final & prologue.
彼とは、この公園で出会った。
ベンチがひとつ。自動販売機がひとつ。それ以外は、何もない公園。遊具も砂場もないので、子供すらいない。
仕事の合間に、よくここで、ふたりでいる。誰もいないから、ゆっくりベンチに座っていられた。
夜。
この街は、星空がよく見える。街のネオンが特殊素材らしくて、街がどれだけネオンの灯りで輝いていても、空には星があった。
「晴れてんなあ」
晴れてさえいれば、月も星も綺麗に見える。
自販機で買った飲み物を持って、座る。この飲み物がなくなったら、仕事に戻らないといけない。そういうふたりのルール。あんまり席を空けていると、連絡が来たときに対応できないから。
いつも、同じものを買う。交互に違うパッケージが出てくるやつ。
「ねえ」
「うん?」
「まだ死にたい?」
突然質問を投げかけたので、彼はびっくりしたらしい。
「あっ。げふっ」
げっぷしてる。
「ひっく」
げっぷがしゃっくりに変わる。あいかわらず
「ふふふ」
「すまん。びっくりして。ええと。死にたいかどうかって?」
「うん」
「死にたいよ、そりゃあ」
「そっか」
「死にたいと思う気持ちは、簡単に消えたりしない。俺が生きてる限りは消えないよ」
飲み物の蓋を開けるのに苦労しているふりをした。
「俺が開けますよ。ひっく」
「あ。ありがとうございます」
彼に飲み物を渡して。タイミングを見計らう。
開ける瞬間、彼にキスをした。
ゆっくり。時間だけが過ぎる。
「舌を入れる時間が長すぎる。死ぬぞ俺」
「しゃっくり、止まった?」
「止まったよ。おまえの舌のせいでな」
「それはよかった」
彼の手から、飲み物をやさしく奪って。蓋を開けて、呷る。
「あ」
「だから酒じゃねえって」
「帰りコンビニ寄って行こうね」
お酒と、あと、消耗品。買って帰ろう。
何もない公園、星空の先 春嵐 @aiot3110
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