雷帝物語
渡利
フェレトリウスと白い大鷲
むかしむかしのおはなしです。遠いむかしのおはなしです。
今はなき北の国に、ひとりのかわいらしい王子さまが生まれました。
王子さまの名前は、フェレトリウス。
生まれてすぐに母を亡くした息子をふびんに思った国王は、お妃さまの分までフェレトリウスを大変かわいがりました。
やがてフェレトリウスは大きくなると、とても美しい青年になります。
強くかしこく育ったフェレトリウスは、国民からとても愛されました。
しかし、そんなフェレトリウスをねたんだ国王は、あることを思いつきました。
「金に輝く美しいフェレトリウスよ。我が愛しの息子フェレトリウスよ。丘へ、ともに鷹狩へ行こう。大きくなったお前の狩りの腕を、私は見たい。」
いっしょに狩りへ出かけたフェレトリウスは、国王にいいところを見せようとはりきりました。
そんな狩りの途中。なんと、おともの鷹は急に苦しんで死んでしまったのです。
その鷹は、国王がかわいがっていた鷹でした。
「お父さま、お父さま。お許しください。」
泣いてあやまるフェレトリウスを、国王は許しませんでした。
「いいや、いいや許さぬ。お前は、私のかわいい鷹を殺したのだ。私のなにより大切な宝を殺したのだ。息子であろうと、お前のやったことは大罪だ。」
国王は、フェレトリウスが鷹を殺したことをせめたてると、家来に王子を縄でしばるよう命じました。
ですが、フェレトリウスは身におぼえがありません。
それもそのはず。鷹に毒のエサを与えたのは、国王だったのですから。
国王はなんと、実の息子をだまして牢屋に入れてしまったのです。
大罪人となったフェレトリウスは、牢屋の中からひたすらに自分の無実をうったえました。
しかし、国王をおそれた国民は、だれのひとりもフェレトリウスを助けようとはしません。
フェレトリウスは「いつか誤解がとけて、お父さまが自分を助けてくれる。」と、そう信じて待ちつづけました。
牢屋に入れられて二年たったある日。
目かくしをされたフェレトリウスは、外へ連れ出されました。
そこは、国王と鷹狩をしたあの丘でした。
新しく作られて間もない木の台が、とても不気味に見えました。
階段をのぼると、フェレトリウスは処刑人にひざまづかされます。
「とてもかわいそうな王子さま。あなたは、これからこの剣で首をはねられなきゃなりません。」
フェレトリウスは泣きました。
愛していた国王が、自分をおとしいれたことに。
大好きだった国民が、自分を見すてたことに。
そして何より、そんなかれらに憎しみと怒りをいだいてしまった自分自身に。
処刑人のおそろしい剣が、まっすぐにフェレトリウスの首へ斬りかかったその時。
一羽の白い大鷲が、雷とともに空から丘へ落ちていきました。
丘に落ちた雷は、その場にいる人をすべて焼きつくしました。
丘に朝日がのぼるころ、焼けあとから現れたのはフェレトリウスだけでした。
ひとり生き残ったフェレトリウスは、その奇跡を証拠にして国王に自分の無実を示しました。
処刑されたはず王子が生きていたことに怒った国王は、聞く耳を持ちません。
フェレトリウスは、国王に一騎うちを申し込みました。
国王をたおして一騎うちに勝ったフェレトリウスは、王子から新しい国王になりました。
フェレトリウスは、自分を助けてくれた白い大鷲にちなんで雷の皇帝、雷帝と名乗ると、国民とともに新しく豊かな国をつくりました。
むかしむかしのおはなしです。遠いむかしのおはなしです。
遠いむかしのおはなしは、あの丘のフェレトリウスの墓とともに今も眠り続けることでしょう。
雷帝物語 渡利 @wtr_rander
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