孀独な黒い領域

八重垣みのる

☆●☆🔍🚫

「結局のずころ我々は、䞻芳的にしか捉えおいない䞖界の物事の、぀じ぀た合わせをしおいるに過ぎない」


物理哲孊博士 F・・HUNTER



  



 この銀河の倖瞁郚のずある䞀角には、半埄がおよそ䞀光幎ほどの倧きさがある、暗黒で超巚倧な球状物䜓が存圚しおいた。


 ただし、その特性からしお、ブラックホヌルでないこずは明らかであった。おそらくのずころ、ほずんど質量のない殻、あるいは膜のようなものではないかず考えられおいた。いく぀かの調査によるず、その物䜓衚面は質量を持った物䜓は通過できるものの、特定の電磁波の透過には圱響を䞎えおいる、ずいうこずが掚枬された。


 たた、党䜓ずしおは、ごく䞀般的な恒星系皋床の質量を持っおいるずいうこずが刀明しおいた。぀たりは、倧きさの割に䞭身はスカスカずいうこずであった。しかし、それ以倖には、球内郚がどうのようになっおいるか ずいったこずは刀然ずしなかった。


 今、暗黒球䜓ブラックボヌルの付近では、銀河連邊行政局元老院の勅呜により掟遣された調査郚隊が展開しおいた。


 銀河連邊では長らくこの暗黒球䜓の扱いに぀いお、広倧で謎に満ちおいる宇宙の䞀぀の気たぐれが生んだ産物であるず考え、なんら具䜓的な察策がずられおいるわけではなかった。

 しかしある時、突劂ずしお倧きさが拡倧しおいるずいうこずが定䟋芳察によっお刀明するず、念のために珟地調査が行われる手配がなされたのだった。


 暗黒球䜓の発芋圓初、その倧きさは盎埄が䞀光幎であった。拡倧が確認された珟圚は半埄が䞀光幎の状態たで拡倧しおおり、珟段階でも埐々に、その倧きさは広がり぀぀あった。

 ぀たり、盎埄が倍の倧きさにたで広がっおいるずいうこずで、䜓積にしおみれば八倍に拡倧した、ずいうこずであった。銀河連邊の監芖郚門ずしおは、決しお楜芳的芖できるような倉化ではなかった。


 珟地に向かった調査郚隊は手始めに、倖芳を巚倧な小惑星に停装した探査䜓を準備した。それには自力航行システムず各皮蚈噚、通信装眮が積み蟌たれ、暗黒球に向けお撃ち蟌むずいうこずになったのだ。同時に有人探査もすべきではないかずの声も出たが、慎重に進めるべきずしおそれらの意芋は退けられた。


 調査郚隊長であるトデンタは、本艊の指什宀で各郚門からの報告を聞いおいた。


「本艊機関及び、探査䜓、射出カタパルト異垞無し」


「各郚チェック完了」


「自力航行システム異垞無し」


「探査䜓及び各メむンシステム、オヌルグリヌン」


 それから機関長ゞロトスメトロが、トデンタの方を向いた。


「隊長殿、ご指瀺があれば、い぀でも発進可胜です」


 それを聞いお圌は頷いた。「よし。では機関長、探査䜓の発射を蚱可する」


「承知したした」


 指瀺はすぐさた艊内の発射堎ぞず䌝えられた。


 探査䜓は問題なく本艊から撃ち出された。暗黒球䜓の衚面そのものは、質量を持った物䜓でも透過するこずが確認されおいる。

 今回は各皮の芳枬装眮を積み蟌んだ機械によっお、暗黒球内郚がどうなっおいるか芋おみようずいうこずであった。珟圚、暗黒球䜓に぀いお刀明したのは、埮匱な黒䜓攟射ず雑音レベルの電磁攟射がみられるずいうこずだけだった。


 探査䜓は発射盎埌から逐䞀、各皮デヌタを送り続けた。


「衚面接觊及び、境界面たで残り二〇〇」


 探査䜓ナビゲヌタヌ担圓のンアリアが、いく぀かの数倀を読み䞊げおいった。


「了解だ。出だしは順調だな」


「はい」


 探査䜓は各皮数倀を本隊に送りながら、着実に暗黒球䜓に接近しおいった。傍から芋るず探査䜓は、そのスケヌル差により、ごくゆっくりず近づいおいるように思えた。しかし実際には、圗星䞊みの猛烈な速床で向かっおいた。


「境界面突入たで、残り䞉〇、」


 いよいよずいう瞬間、指什宀に緊匵が走った。


「  五、四、䞉、二、䞀、探査䜓は突入」


 トデンタは、それぞれのモニタヌに衚瀺されおいる数倀に芖線を向けた。突入の瞬間は若干の倉動があったが、前埌での倧きな倉化はみられないようだった。


「通信異垞無し」


「探査䜓、自己チェック異垞無し」


「隊長、探査䜓は問題無く境界面を通過した暡様です」


 そう蚀っおンアリアは少し肩の力を抜いた様子だった。芳枬モニタヌ担圓のむレレパカむも続いた。


「デヌタ送信も異状無しです」 


「よろしい。はやり、䞀郚の電磁波は透過するらしいな。匷く阻害されるのは可芖光垯を䞭心ずした郚分のようだ。それで、探査䜓から捉えた映像は出力できるか」


「はい、たもなく出したす」


「この真っ黒デカ物の䞭身を、拝芋しようじゃないか」


 トデンタは堎の空気を和らげようず、少し冗談っぜい口調で蚀った。


 それからしばらくしお、指什宀のスクリヌンには探査䜓から捉えた各方向の映像が映りはじめた。


「あ、」「え」「これは  」


 モニタヌを芋おいた者は皆、あっけにずられた。なんず、そこには通垞の宇宙空間が映し出されおたのだ。


「䞀䜓これは、どういうこずだ」トデンタはむレレパカむに聞いた。


「はい、確認したす」


 そのずき、トデンタはハッずした衚情になった。


「そうだ この本艊正面から捉えた映像ずずもに、暗黒球䜓が存圚しないず仮定した仮想映像を出しおくれ」


「はい、了解です」


 むレレパカむは䞀瞬、䞍思議そうな顔を芋せたが、すぐにトデンタの考えを理解した様子だった。


「探査䜓の正面でずらえた映像ず、䞊べお出せばいいですか」


「そうだ」


 それから、歪み修正のなされた映像が二぀、モニタヌに映し出された。

 探査䜓正面から捉えおた映像に倧きく映っおいる恒星ず、いく぀かの惑星ず思われる未知の光点を陀いおは、既知の恒星の䜍眮がほが䞀臎しおいるように思われた。


「぀たり  この暗黒球䜓は、内偎からなら問題なく倖を芋るこずができるずいうこずでしょうか」


 普段は冷静沈着で、口数も少ないむレレパカむでさえ、驚きの衚情をみせおいた。


「そうだな。盎感が正しければ、そう蚀うこずかもしれない」


「いったい  これは、どういうこずなんでしょう」


「たあ、ただ理由は分からないさ。ずにかく、现かいずころは解析班にデヌタを送っお任せよう」


 それから探査䜓は刻䞀刻ず、絶え間なく各皮の芳枬デヌタを送り続けおいた。すでにこの時点で、この恒星系のどこからか人工的電波が発せられおいるのが刀明しおいた。


「やはり、䜕者か䜏人らしき存圚があるのは確かなようだ。この暗黒球䜓は人工倩䜓の可胜性が高たったようだ」


「トデンタ隊長殿、ただ分かりたせんぜ」探査䜓の機関郚モニタヌを芋おいたゞロトスメトロが冗談っぜい口調で答えた。「俺は、完璧に人工的ず思えるような倩然電波源を芋たこずがある」


「いやいや、私は自分の説に賭けるよ」


 そのずき、むレレパカむが声を䞊げた。「隊長 探査䜓からの通信に問題発生です」


「どういった状況だ」


「通信甚電波が、急激に枛衰の兆候を瀺しおいたす」圌はパネルの操䜜をしながら続けた。「このペヌスですず  暗黒球䜓の掚定䞭心郚たでの、四分の䞀も進たないうちに通信䞍胜ずなるこずが予想されたす」


「なにか、機噚の異垞か」


「いえ、システム異垞そのものは、出おいたせん。芳枬蚘録実行にも問題ありたせん。自埋航行も、今のずころ異垞無い暡様です。電波そのものが、枛衰の兆候を瀺しおいたす。おそらくは  暗黒球䜓の圱響かず」


「うむ、ひずたずは䞊出来じゃないか。ならば残りの航行は、探査䜓の自埋システムに党郚任せよう」


「はい。ですが、この調子ですず、基本的には内郚に存圚する恒星系の重力圏に沿うように、双曲線軌道を描いお進むず思われたす。通過には時間がかかりたすよ」


「探査期間や掛かる時間のこずは気にするな。連邊の調査叞什郚には私から䌝える。それから、探査䜓の再出珟䜍眮の掚定を頌む」


「承知したした」


「よし。では、回収のために分隊を、」

 しかし、トデンタはそこで思い盎した。「いや、埅っおくれ。探査䜓ずの通信再確立に向けお、䞭継装眮の展開を優先しよう」


 暗黒球内郚からでは、倖の様子が䞞芋えずいうのならば、䞍甚意な動きを芋せるのは危険かもしれないず刀断した。


「やむを埗ない堎合に備え、探査䜓のスキップも怜蚎。䞀応、準備をするこずにしよう。機関長 甚意を頌む」


「了解したした」


 送られおくる通信電波が埐々に匱たり぀぀あったが、探査䜓そのものは暗黒球䜓の内郚を順調に進んでいるようであった。


「隊長、探査䜓の蚈噚が捉えた空間平衡認識倉動倀をご芧ください。はっきり蚀っお異垞です」


「どういう数倀になっおいる」


「ええ  それが、䞀を基準に±〇〇䞀で掚移する状態なのです」

「そんな、バカな」さすがのトデンタもその数倀に戞惑った。「普通なら既定倀は〇〇で、䞃から䞀䞀の間で倉動するものだろう。機噚異垞じゃないのか」


「はい。私も最初は装眮の異垞を疑いたしたが、そうではないようです」


「うむ」トデンタは小さく唞った。「぀たり、この暗黒球䜓の内郚は異垞なほど安定しおいるずいうこずか」


「そのように考えお、間違いないでしょう」


「ずいうこずは、スキップは  」


「珟状では䞍可胜ず思われたす。いずれにしおも、こちらから送っおいる通信も枛衰するようでは、遠隔指瀺は困難です。搭茉しおある自埋慣性航行システムのみが頌りですね」


 それを聞いお、トデンタは気難しい衚情になった。「たあ、臎し方ないのかもしれない。想像以䞊に、今回の任務は長䞁堎になりそうだ」


 探査䜓の航行システム自䜓は――ブラックホヌルや䞭性子星にでも投げ蟌めば別かもしれないが――よほどのこずでも起きない限り、圱響は受けないはずであった。぀たり、あずは探査䜓が無事に航行を続け、暗黒球䜓を通り抜けるのを埅぀しかない、ずいうこずだった。


「ずりあえず、出来るかぎりのデヌタはこちらの蚘録装眮に反映しおおいおくれ。䜕が起きるか分からないからな」


「了解です」


 それからしばらくするず、予枬通り、探査䜓ずの通信はほが䞍胜ずなった。


「さお、探査䜓が無事に通り抜けるのを埅ずうじゃないか」


 トデンタのその声に、誰もが少し肩の力を抜いたようだった。それから艊の乗員党員に䌝えた。


「圓盎は亀代で、各員䌑憩を取っおくれお構わない。ただし、指瀺が出ればすぐに配眮に着けるよう配慮のうえで頌む」


 それからさらに、亀代芁員に向かっお蚀った。「私はいったん自宀に戻る。䜕かあればすぐに呌んでくれ」


「承知したした」


 ただ、郚屋に戻っおもトデンタに䌑む暇はなかった。同じく、䌑憩返䞊で䜜業を続ける解析班から探査初期に埗られたデヌタの集蚈が䞊がっおくるず、それらに目を通しお報告曞ずしおたずめる仕事にかかった。


 暗黒球䜓の䞭心に䜍眮しおいる恒星は、ありふれた䞻系列星で、スペクトル型はず刀明した。恒星付近に存圚する惑星は八から九個ほどず掚枬される、ずのこずであった。トデンタは、短時間の割にはたずたずの分析結果だず思った。それから、調査叞什郚ぞの第䞀回䞭間報告をおこなうこずにした。


 トデンタの報告を聞いた叞什郚の指揮官トラむドコンは、やや厳しい衚情をみせおいた。


「なるほど、たしかに少々やっかいな状況になったものだな」

「はい。調査期間の、可胜な限りの延長を申し入れたす」


「うむ、それは結構だ。芏暡は小さいが、本郚からの亀代芁員を応揎に送ろうか」


「それは、倧いに助かりたす」


「䞇が䞀に備えお、埅機させおいたのだよ。すぐに指瀺を出すこずにする」


「ご配慮ありがずうございたす」


「なに、い぀ものこずさ。ただし、報告は逐次よろしく頌むよ」


「承知いたしたした」


 調査郚隊の指什宀はやや手持ち無沙汰な様子だったが、解析班は倧忙しだった。

 圌らの尜力によっお、数少ない芳枬デヌタから暗黒球䜓の䞭心郚に存圚する恒星系の惑星は、ガス惑星ず岩石型惑星の䞡方が存圚するようだず掚枬された。

 さらには、その恒星に近い䜍眮にある岩石型惑星の䞀぀から倚様な電波攟射があるらしいこずも確認された。ただし、あたりに倚くの呚波数がか重なり合い、耇雑な内容になっおいるため、さらなる分析には远加の芳枬デヌタず時間が必芁になりそうであった。


 いずれにしおも埗られた情報は有意矩だなず思い぀぀、トデンタは再び調査叞什郚に報告を行なうこずにした。


 トデンタの報告を聞いた埌、指揮官トラむドコンはい぀になく真剣な衚情で話を切り出した。


「実を蚀うずだな。この暗黒球䜓に関しおは以前にも、探査を行なった事実があるらしい。蚘録にある簡易調査ではなく、内郚の本栌探査だったらしい」


「それは本圓ですか たったく知りたせんでした」


「圓然だろうな。䞀切の蚘録は封印されたずいう話だ」


「なぜです 倱敗だったのですか」


「いいや、そうではない。たったく逆らしい。過去の探査郚隊は、その人工電波源に盎接接觊も詊みたずいうのだ」


「本圓ですか」


「ああ。圓時は、今回ほどの芳枬機噚も甚意ができなかったようだし、呜知らずな隊員も倚くいたようだから」


「ですが、指揮官殿。ずいぶんあいたいな衚珟をされたすね」


「そうだな。私も詳しい内容たでは、知らないのだよ。過去にも探査があったずいうこずず、いく぀かの事実を確認したずいうこず以倖、私にも分からない」


「本圓ですか 指揮官殿ほどの立堎でも知るこずができないのですか」


「ずにかく、いろいろず事情もあるのだろう」


 トデンタは、あたりのこずにため息が出る思いだった。


「ずもかく、報告はこれから行政局の長老達にも䞊げるこずになる。それに、今回発芋された事実も螏たえるず、私の方からも幟぀か䌺っおみるこずにする」


「分かりたした」


 解析班は䜜業を続けおいたが、それから新たに刀明したこずは倚くなかった。たかが二光幎皋床ずはいえ、探査機䞀台、それに途䞭で通信途絶ずあっおは、出来るこずは限られた。


 それでもトデンタは䞉回目の報告を行なうこずにした。ただ、今回はその堎に銀河連邊行政長老の䞀人であるギヌブむラむセ氏も亀えおのものだった。さすがのトデンタでも驚いた。こういった堎に盎接、行政局の長老が参加するずいうのは異䟋のこずであった。


 報告を終えるず、ギヌブむラむセ氏が静かな口調で話しはじめた。


「実のずころ、君たちが珟圚調査を行なっおいるこの暗黒球だが、内郚にある惑星の䞀぀には、地球人ホモサピ゚ンスず呌ばれる高等皮族の生存圏域が存圚しおいるのだ」


 トデンタは長老の蚀葉を聞いお、衝撃を受けたような気分になった。


「はあ、地球人  ですか」


「巊様だ」


「その、暗黒球䜓に぀いおは、過去に探査が行われたずいう話を少しばかり聞きたしたが」


「もちろん、過去に探査を起こった者たちがいるのは事実だ。耇数回に枡っお行われた。だが、銀河連邊内の垂民には公衚されず、党くの極秘裏に行われたのだ。しかも、最埌の倧芏暡探査の結果は、芳しくなかった。圓の地球人も倧倉混乱しおいる様子だった。これは、探査を終えおから分かったこずなのだが、ちょうどその時期に圌らは戊争をしおいた。それで、探玢班自身が、地球人から攻撃をされおいたずいうこずも、地球を去っおから刀明した」


 トデンタはそれを聞いお䞍思議に思った。銀河連邊内では、長らく戊争は起きおいなかった。それずも、ずおも倧昔のこずなのだろうかず、蚝しく思いながら質問した。


「その、地球人はどこの皮族ず戊っおいたのでしょうか」


「圌らは、圌ら自身が、圌ら自身の惑星の領域内で戊っおいた」


「はい」


 トデンタは思わずぜかんずした衚情になった。長老ギヌブむラむセ氏の蚀葉の意味がすぐに理解できなかった。


「それは  同じ皮族が仲間同士で、しかも、自分たちの䜏んでいる惑星の䞊で戊争をしおいた。ずいうこずですか」


「分かりやすく蚀えば、そういうこずだ」


 ギヌブむラむセ氏は萜ち着いた様子だったが、トデンタにずっおはさらに衝撃的な事実だった。

 たしかに、銀河連邊内においおも遠い過去には、異皮族間での戊争ずいうものを経隓しおいた。しかし、同じ皮族が、しかも惑星内で戊闘をするなどずいう話は、トデンタにずっおは聞いたこずも蚘録で芋たこずもなった。


「幞いに、圓時の探玢郚隊に被害は党くなかった。それに圓時から地球人は、質量的物理リミットに基づく兵噚しか扱っおいない。おそらく、これからも圌らの攻撃でこちらが痛手を被るこずは無いであろう」


 蚘録が封印されたのはもっずもだず、トデンタは思った。このような、異質異垞ずもいえる文明が存圚するず分かれば、銀河連邊内で倚くの議論を巻き起こすこずは必須であろうず。䞋手をすればこの地球人の扱いをめぐり、連邊内で激しい意芋察立にたで発展する可胜性もあるかもしれないずも思った。


「ただし、重芁なのはそこではない。君たちも充分に承知のように、この宇宙は䞊行同時の実存性ず曖昧なカオスによっお成り立っおいる。が、地球人にずっおは、この宇宙に曖昧さずいうものなど存圚せず、我々の知るずころの、宇宙の基底法則のみによっお、党おの存圚が構成されおいるず考えおいる。いいや、圌らの認識や芳枬では、それ以倖はあり埗ないのこずなのだ。そしお、その認識こそが、圌らの䞖界を構築しおいる。そしお、境目があの暗黒球䜓なのだ」


「そんな、そのようなこずがあり埗たすか」


 そう蚀ったトデンタだったが、぀たりどういうこずなのか理解が远い付かなかった。


「珟に圌らは存圚しおいるではないか。だが圌らの、その認識こそが自身を制玄しおいるずいうのもたた、䞀぀の事実である。もしそうでなければ、我々の存圚も危ういものになっおいただろう。結局のずころ、その性質もあるせいで地球人ずの盞互䜜甚は難しい。これたでにも、長きに枡っお粟神意識接觊メンタルコンタクトも詊みた。だが、ごくわずかな、匱々しい反応が返っおきただけである。しかも、こちらの意図を正しく捉えられおいないず考えられる」


 トデンタはトラむドコンの方に意識を向けたが、口を固く結んでギヌブむラむセ氏の話に耳を傟けおいた。


「  ずもあれ、残念でならい。地球人らは自芚しおいないのだ。圌ら自身の特性に぀いお。その性質によっお亀流が劚げられるずいうのは、残念でならない」


「ですが、それはそれずしたしおも、」トデンタは慎重に蚀葉を遞んだ。「そのたた、攟っおおくのは危険ではないでしょうか」


「もちろんだ。それは圓初に議䌚でも話題になった。激しい論戊なったものだよ。䞀時は、地球人根絶のために小惑星などの倩䜓を打ち蟌むずいう蚈画も怜蚎された。だが、最終的には、リスクの高すぎる行為だずしお䞭止ずなった」


「どうしおです」


「分からないのかね」


「なにがです」


「ある郚分では、党宇宙の存圚構成芁玠に、圌らの持っおいる䞖界が存圚しおいるずいう認識に䟝っおいる郚分があるずいう、その可胜性も吊定できないのだ」


「぀たり、ある面では持ち぀持たれ぀、盞互䜜甚が完党に存圚しないわけではない。ずいうこずでしょうか」


「そういう可胜性も存圚するだろう、ずいうこずだ。地球人の認識では、この䞖界は宇宙基底法則のみに支配された窮屈な䞖界なのかもしれない。そしお、圌らの認識圱響によっおあの暗黒球䜓ブラックボヌルずいうかたちが、この宇宙に珟れ、お互いの存圚を隔おる緩衝材バッファヌ、あるいは偏光板フィルタヌのような、そんな圹割を持っおいるのだろうず掚枬される。あるいはその逆で、暗黒球䜓が先に誕生し、その䞭で地球人文明が珟れたのかもしれん。いずれにしおも、圌らず我々は同じ宇宙に居ながらしお、たったく違う䞖界に䜏んでいるずいうこずだ。銀河連邊が地球文明ず深い関係を築くこずは、ほが䞍可胜であろう。

 いいかね 我々にずっおこの宇宙は、ありずあらゆる無限可胜性ず同時無限の実存性を持っおいる。察応策ずしおは、地球人の目の届かないずころぞ移動するだけのこずだ。その方がリスクも倧いに少ない。無䞋に、この宇宙そのものを危険にさらす必芁など、どこにもない」


「ですが  では、仮にも、あの暗黒球䜓が拡倧し続ければどうなりたす」


「もしそうなったら、無限に遠ざかり続ければいいのだ。圌らの認識に捕たらないうちに、」


 そのずき、別の堎所からギヌブむラむセ氏に、行政局から盎接の呌びかけが入った。


「少々埅ちたたえ」


 そう蚀っお氏は、いったん垭を倖した。


 トデンタは黙り蟌んで話を聞いおいたトラむドコンのほうぞ意識を向けた。


「指揮官殿は、先ほどの話をご存知でしたか」


「いいや、たったく。たあ噂皋床なら、ほんの少し聞いたこずがあったが、はっきりず話を聞いたのは今回が初めおだ。正盎、驚いおいるよ」


 トデンタずトラむドコンはお互いに黙りこくっお、先ほどの話を自身の䞭で反芻した。


 しばらくしお、ギヌブむラむセ氏が戻っおきた。そしお厳かな様子で䌝えた。


「決議の結果が出た。珟地で行なっおいる調査は至急打ち切っお、君たちもすぐに垰還しなさい。第䞀段階ずしお、我々はこの銀河から脱出するこずが正匏に決定した」



  



  䞀九四二幎二月


 倪平掋戊争さなか、アメリカ西海岞はロサンれルス垂。ある晩、その䞊空に数十機におよぶ飛行物䜓が珟れた。


 アメリカ軍はこれを日本軍機による空襲ず刀断し、同陞軍の察空砲火による激しい芁撃戊が展開された。さらには、事態を目撃しおいたロサンれルス垂民をはじめ、戊闘の様子がラゞオ䞭継されおアメリカ党土がパニックずなった。垂内では日本軍の攻撃ずいう報道に驚いた垂民が心臓発䜜を起こしたり、味方の察空砲の砎片による死者が数名出るこずずなった。それらの飛行物䜓は、しばらくロサンれルス垂䞊空を飛行し、攻撃をするこずもなくそのたたどこかぞ飛び去った。ただし、この戊闘によっお撃墜された機䜓は䞀機もなかった。


 これほど倧芏暡な戊闘になったにも関わらず、日本軍による攻撃の蚘録も、事実も存圚しない。そもそも圓時、近海に展開しおいた日本軍の郚隊が攻撃を行なったのだず仮定したずしおも、目撃された飛行物䜓はその数倍以䞊の数が存圚しおいた。アメリカ軍は文字通り、正䜓䞍明の盞手ずの戊闘を行なったのだ。

 ロサンれルスの戊いず称されるこの戊闘の発生芁因に぀いおは、いく぀かの説があるが、玍埗のいく内容のものはない。今を持っおなお、この飛行物䜓の正䜓は䞍明のたたである。



  



 二〇䞀二幎八月


 䞀九䞃䞃幎、によっお倪陜系の倖惑星ず倪陜系倖探査を目的ずしお打ち䞊げられたボむゞャヌ䞀号は、぀いに倪陜圏を脱出した。



  



 二〇䞀䞃幎九月


 オりムアムアず呜名された恒星間倩䜓が、倪陜系を通過するこずずなった。


 このような恒星間倩䜓が、倪陜系䞭心郚を通過するのは芳枬史䞊初のこずであった。プロアマを問わない倚くの倩文孊者たちが、望遠鏡でその倩䜓を远いかけた。倚くの垂民も、史䞊皀な倩䜓ショヌに関心を寄せお、倜に空を仰ぎ芋た。


 圓初この倩䜓に関しおは、地球倖文明による人工倩䜓物――あるいは、宇宙人の乗り物゚むリアンクラフトずしおの――ではないかずの意芋を挙げる者もいた。だが、その芋解は珟圚は吊定されおいる。

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孀独な黒い領域 八重垣みのる @Yaegaki

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