本当の世界

ruckynumber

世界の真実

俺は、この世界がいやになった。


自宅のマンションの屋上に登り、柵を越える。


街に背中を向けて縁に立つ。


「ごめん……!」


体を徐々に傾けていく。


夜空には無数の星が瞬いている。


体が地面と平行になった。

ついに足が建物から離れる。


「うっ!」

背中に風圧を感じる。


かいていた手汗はもう乾いている。


風が周囲の音をかき消し、俺の鼓膜は何も受け付けない。


後ろを向く。


街の方を見ると、学生たちが何やら楽しそうにやっている。


もう少しで、俺はこの世界とお別れする。


走馬灯が頭を駆け巡る。


やめろ、この状況で助かる術はない。


最後まで、この綺麗な夜景を拝ませてくれ。


地面と衝突する。


と思った瞬間。


時が止まった。


「え……?」


声は出せる。


しかし、何もかも止まった。


たなびくスーツも、脱げた革靴の自由落下も、向こうにいる学生さえも。


【リセットがかけられました。実行しますか?】

【YES】【NO】


目の前に表示された。


記憶をどこかからダウンロードしたように思い出す。


俺は微笑して【NO】を選択する。


俺は目覚めた。


本当の世界は、さっきまでの世界よりも自由なこともあるし、不自由なこともある。


「まだまだ改良が必要だな」


そして俺はまた取りかかる。

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