第19話 Ragged Useless

 龍虎祭に私達が出場することになった翌日。

 周りの人からお褒めの言葉をたくさんいただいたが、正直何と答えていいか分からない。

 とりあえず『ありがとう』と無難に返しておいて、その度に疲れてこっそりため息を吐くを繰り返している。

 朝のSHRでは担任からも言われて、いよいよストレス限界へマッハで向かっている。まぁ担任からしたら自分のクラスの中から決勝出場者が四人も出て嬉しいんだろう。

 本来ストレス軽減のために組んだチームのはずなのに、なぜこんなにも疲れているのか。

 さらに追い打ちをかけるように体育(予選が終わったから今日は球技だった)でガッツリ体力を削られ、いよいよ倒れるかというところで学校が終わった。

 衣替え週間もずっと前に終わり、夏服となったみんなが帰っていく中私も席を離れ海金砂に声をかける。

「海金砂………帰ろっか」

「あ、うん………って、大刀石花大丈夫?随分ぐったりしてるけど、もしかして熱中症?」

「いや、気疲れ………」

「あぁ、朝から囲まれてたもんね」

 どうやら朝から様子を見ていたらしい海金砂が苦笑いした。笑ってる場合じゃないって。

「何で海金砂はケロッとしてるの?」

「私が決勝のこと言われたの、朝に先生から言われただけだから」

 そうか。海金砂は元々周りから避けられてるんだもんね。そりゃ周りからしたらいくら功績を上げても話しかけにくいか。

 海金砂には失礼かもしれないが、こういう時は嫌われ者が羨ましい。

「帰りにアイスでも買ってく?」

「そうする」

 疲れてオーバーヒートしそうな頭をアイスで冷やしたい。とびっきり甘いのを買おう。

「そんなら、ウチ来て食べなよ」

 すると隣から聞き慣れた声が聞こえた。振り向くと帰る準備を済ませた歩射と梢殺がいる。

「よっ、お前ら今から帰んのか?」

「あぁ、うん。今日は練習勘弁して」

 こんなに疲れてるのにキーバトルなんてしたら本当に倒れる。

「いや、今日は練習しないよ。そん代わり今から梢殺んち行くぞ」

「はぁ?それって、私達も?」

 何故いきなり梢殺の家に行くことになっているのか。

「当たり前だろ。これ書くんだよ」

 そう言って歩射が見せたのはそこそこの厚みがある書類の束だ。パッと見た感じ龍虎祭関連なのは分かった。

「さっき先生から貰ったの。再来週までに書けってことだけど、面倒だから今日書いちゃうぞ」

「えぇ………それ、明日じゃダメ?」

「この書類送らないと、放課後に体育館で練習出来ないんだと。だから早めに出す」

 なるほど。龍虎祭の決勝進出チームだけは、これまでみたいに放課後の練習が出来るんだ。そのために出場エントリーの書類が必要なんだろう。

「つーか、何で大刀石花はそんなに疲れてんだ?」

「朝から人に囲まれて同じこと言われ続けたからだよ………」

 本当にストレス溜まるんだよなぁ。求めてもない言葉だから尚更だ。

「情けねぇなぁ。褒めてくれてんだし、私はむしろ元気が出たけどな」

 歩射はそうだろうよ。けど私にとってはストレスでしかない。

「まぁまぁ、ウチに来ればお菓子とかあるから。ゆっくり休んでいきなさいな」

「あぁ、そうなの?というか梢殺は平気そうだね」

 梢殺もこういうのは嫌がるタイプだと思ったけど、平気なのだろうか。

「いや、コイツ誰からも何も言われてねぇよ」

「不思議なもんだよねぇ」

 そうか。そういえば梢殺は元々影が薄いから、人目につきにくいんだった。それなら囲まれることもないのか。

 今に限定して言えば羨ましい限りだ。

「そんじゃ行くか。大刀石花の能力でササッと………は、やめといた方が良さそうだな」

「そうしておくれ」

 マップアプリを使えば、行ったことのない梢殺の家にも行けるには行ける。でも今ならキー使っただけで副作用で倒れる自信がある。

 というわけでアナログに電車を使い私達は梢殺の家へと向かった。歩射は行ったことがあるようで、私と海金砂は二人について行く。

「ほい、とうちゃーく」

 駅を出てからバスに乗って、少し歩いたところで梢殺は止まった。そこにある建物を見上げる。目線を上げると看板が見えた。

「『うらごけ洋服修理店』………」

「コイツんち仕立て直し屋なの」

 そう言うと梢殺と歩射は建物の中へと入っていった。私達もそれに続く。

 建物の中にはいくつかの種類の服が置いてあり、壁の様子からなかなかに年季のある建物だというのがわかる。

「ただいま〜」

 梢殺が声を出すと、カウンターの奥から一人の女性がやってきた。梢殺のお母さんかな。

「貂熊おかえり。九十九ちゃんもいらっしゃい………って、そこの後ろにいる人達が昨日言ってた子達?」

「うん。私の部下達なのだ」

「おい、リーダーは私だっての」

 えへんと胸を張る梢殺を歩射が肘で突く。いや、このチームに上下関係は無くない?

「みんなで和室にいるから、お菓子とか持っていくね〜」

「うん。お父さん作業してるし、あんまり大きな声は出さないでね」

「りょーかい」

 私達は梢殺を先頭にお店のさらに奥へと進んでいった。

 すると廊下の奥からトットットッと小さな足音がしての足音の主が私達の前に現れる。

「お姉ちゃんおかえりー」

 現れたのは小学4年生くらいの小さな女の子だ。今の言葉から察するに梢殺の妹だろう。

「あれ、九十九ちゃんもいるじゃん。またウチのお菓子食べに来たの?」

「私をお宅の食いしん坊の姉貴と一緒にするない。大人の大事な大事な会議だっての」

 どうやら歩射は梢殺の家族全員に顔を覚えられているようだ。梢殺とはそれくらいの付き合いということなのだろう。

「って、後ろの人達はお友達?」

「まぁね。海金砂と大刀石花」

 本日二回目となる紹介に、私達は軽く頭を下げた。

「そうなんだ。初めまして、梢殺 白鼬おこじょと言います」

「はぁ、どうも」

「どうも」

 歳の割にしっかりとした挨拶に私もそれなりの挨拶を返す。海金砂も後に続いた。

「私達リビングにいるけど、白鼬はどうするの?」

「部屋で学校の宿題やってくる。お菓子食べ過ぎないでよ」

「はいはい、分かってるって」

「そう言っていつもお菓子無くなってるの」

 ピシッと言うと彼女は自室へと戻っていった。

「しっかりした子だね」

「だろ?とても梢殺の妹とは思えない」

「ホントホント、頼りになる妹だよ」

「お前、それでいいのかよ」

 そんな事を言いながら、私達は長テーブルのある和室に着いた。テーブルを囲むようにして座る。

「はーい、アイスお待たせー」

 台所からアイスクリームを持ってきた梢殺が、みんなの前にそれを置く。

「ありがとう、いただきます」

 私は礼を言ってからアイスを食べた。あぁ………冷たくて体が癒えていく。

 梢殺や海金砂、歩射も出されたアイスを食べて話を始める。

「それで、まずは何からするの?」

「そうだなぁ………とりあえずルール確認すっか。他の書類の説明も書いてあるし」

 そう言って歩射は書類の束の中から一枚の紙を取り出す。

「とは言っても、基本的にはこれまでの予選と変わんないけどな。ちょっと規模が大きくて自由度が高い程度だよ。場所は近くのスタジアム施設にある体育館を使うんだと。学校のより広いし、観客席もある」

 完全に見せ物じゃないか。こういうのって、観客として見たら楽しいものなんだろうけどさ。よりにもよって一年生で出場者として出るとは。

「ん?へぇ、ころいひえーほらひひーっへ………」

「食ってから喋れ」

 歩射に注意されて、梢殺は食べていた羊羹を飲み込んだ。

「あむっ、んぐっ………ねぇ、この『1-A』とか『3-C』って何?」

「体育の時のクラス分けを示したものらしいよ。ウチの学校は一学年九クラスを三クラスずつに分けて体育やってるっしょ?それをそれぞれ一組から順にA、B、Cって分けてんの。私達は一年生で四組、五組、六組の代表チームだから、『1-B』だな」

 なるほど。たしかに一々『一年生の四組、五組、六組の代表チーム』って言うのも面倒だからね。

「まぁあと先生から口酸っぱく言われたのは、来賓も来るから失礼の無いように、とかそんな事だったよ。次は………先に登録書書くか」

「登録書?」

「今日の帰りのHRで配られたろ?タレンテッドキーの登録書だよ」

「あ、これの事?」

 海金砂はスクールバッグの中から一枚の書類を取り出す。見出しには『タレンテッドキー登録書』と書かれている。

「そうそう、それね。学校で生徒達のタレンテッドキーの能力とかを管理をするためのもので、一年生はこのタイミングで書くらしいよ」

 そういえばそんなの貰ったな。

 私もスクールバッグを漁り登録書を引っ張り出した。ついでに筆記用具も出してカリカリと要項を書き込んでいく。

 名前と生年月日、住所、電話番号、タレンテッドキーを持ってるかどうか、持ってるならキーの製造番号、能力っと。

「よし、これでいいな。これ親の印鑑貰って明日の朝イチで先生に出せよ。これ無いとエントリー出来ないから」

 歩射は書いた登録書をしまって、今度は別の書類を出す。

「さてと、いよいよ龍虎祭のエントリー用紙を書いていくぞ。まずこの紙にそれぞれ名前を書いていってくれ」

 本人直筆でないとダメ、ということか。私達は用紙を回して学年とクラス、名前を書いていく。

「ん?ねぇ歩射、このKey Nameって欄は何?」

 名前を書き終わった梢殺がゼリーを食べながら用紙を指差す。たしかに私も気にはなっていた。名前の下に一つずつあるし、個人に関係する事なんだろうけど。

「あぁ、お前らプライベートでキーバトルしたがらないもんな。分かりやすく言うと、キーバトルをする上でのリングネームみたいなモンだ」

「は?何それ?何でそんなもの書かなきゃならないの?」

「ある種の文化だよ。キーバトルはそもそもストリートで行われてたものだろ?その中で有名なプレイヤーは、そういうKey Nameで呼ばれて覚えられてたりするの。んで、それが龍虎祭にも使われてるってだけ。まぁほぼエンタメのためのものだよ」

 何だよそれ………たしかに何となく使われそうなイメージはあるけどさ。だからって学校行事でそれ使うか?

「私は何しようかな………よし、これだ!」

 梢殺は特にツッコミは無いようで、すぐに『Key Name』の欄に書き込んでいく。

「もぐもぐもぐ………んぐっ、私もちゃっちゃと書いちゃおうっと」

 すぐに決めて書き込んでいく歩射とクッキーを食べながら書いている梢殺を何とも言えない思いで見てから、隣にいる海金砂を見る。海金砂も困ってるようでこちらを向いている。

 いや、これがある意味正常だと思う。むしろ何で二人はそんなにすぐに決まるんだろう。経験あるのか?

「ほい、海金砂と大刀石花はどうすんだ?」

「いや、どうするって………どうする?」

「私に聞かんでくれ」

 そんなこと聞かれても困る。いきなりこんなの決めろと言われてもなぁ。

「決めらんないから私らが決めるか?」

「うーん………そうする?」

「だね」

 このままグダグダ考えていても仕方ない。相当変なものじゃなければ歩射達に任せてしまってもいいだろう。

 そんなわけで歩射とチョコを食べていた梢殺が私達のキーネームも決めてくれて、書き込み終わると残る欄は後一つとなった。

「そんじゃ、最後はチーム名だな。何かいいのあるか?」

「普通に『1-B』で良くない?そこの代表チームなわけだし」

「大刀石花なら言うと思ったけど、チーム登録の確認ってチーム名が代表クラスからチーム名に変わってるかどうかなんだよ。だからそれだと変化が分かりにくいからやめろとさ」

 あら、そう上手くはいかないのか。となると考えるしかないな。

「なぁに、安心しろっての。チーム名はもうとっくに考えてあるから。私達にピッタリの名前をな」

 そう言うと歩射はエントリー用紙のチーム名記入欄にスラスラと書き込んでいく。

「どう?なかなかいいでしょ?」

 自信たっぷりに突きつけてくる用紙を見て、私は何とも言えない表情になった。海金砂もだ。

 いや、チーム名の意味は分かるのだ。分かるのだが………

「本当にこれにするの?」

「んだよ、我ながら最高の発想だぞ」

 たしかに私達にピッタリかもしれないけどさ………

「皮肉効かせたねぇ………むぐむぐむぐ」

 梢殺が甘納豆を食べながら私の考えていたことを言ってくれた。まぁ分かってこれにしたんだろうけど。

「まぁ、これに関して一番文句言う権利があるとすれば海金砂だけど、どうよ?」

「え?私?」

「でしょ。これはどう見ても」

「そ、そっか………」

 海金砂は用紙をマジマジと見て少し考えた。それからゆっくりと頷いて口を開く。

「………いいんじゃない」

「いいの?」

「他に思いつかないし」

「それもそっか」

 本人がいいと言うのなら、私から言うことはない。そもそもチーム名にこだわりは無いし。

「梢殺もこれでいい?」

「あむっ………いいんじゃない?」

 梢殺もマシュマロを食べながら頷いた。

「よっしゃ!そんじゃあこれで決まりだな!明日からまた頑張ろうぜ!」

「はんはろぉ、ほーぉ!」

「だから食べながら話すなっての!というか梢殺、お前それでお菓子何種類目だ!」

 こうして私達のチームが正式に誕生した。

 クラスのみんなが優勝目指してる中、あれだけ無能だと馬鹿にされても一致団結することもなく。やる気や実力、あらゆる面でいつまで経っても足並みが揃わない。そんな私達にピッタリのチーム。

 その名は────




 カリカリカリ

 部屋の中にペンを走らせる音が響く。その中に穏やかな水の音が混じった。

 ポットにお湯を注いだ少女の眼鏡が、湯気で少し曇る。ポットに蓋をしてから少しして、少女は中身を氷の入ったカップに注いだ。

 注がれた液体がよく冷えてから、それを机に向かっている彼女に差し出す。

「あ、あの………よろしければ、ど、どうぞ」

「あぁ、すまないな」

 机に座る彼女は静かに礼を言うとカップに口をつけた。ストレートに伸びた長い髪が揺れて、何とも優雅で絵になる様だ。

「美味しいよ。いつもありがとう」

「い、いえ、そんな………それより、その書類って………」

「あぁ。他所の生徒のことばかりで、自分達のことがすっかり杜撰になってしまっていた。お前も後で書いてくれ」

「は、はい、分かりました。今年も四人で出れてよかったですね」

「そうだな、と言いたいところだが………そういうのは四人揃ってから言いたいものだ」

「そういえばそろそろ集合時間ですよね?まだ来ないんでしょうか?」

「私に聞くな。まったく、どこで油売ってるのやら」

 するといきなり部屋の扉が大きな音を立てて開いた。入ってきたのは髪をポニーテールにまとめた生徒だった。どこか日本人離れした顔立ちだ。

「おっまたせ〜‼︎」

「ひゃあッ⁉︎」

 大声で入ってきた来訪者に、眼鏡の少女が驚いて声をあげた。後ろによろめくと泣きそうになってカタカタ震えている。

「ちょ、ちょっと!お、驚かせないでくださいよ!」

「あっはっは!いやぁ、いつも驚いてくれるのが面白くてさ!ついやっちゃうんだよね」

「ひ、酷い!」

「はっはっは!じょーだんだよ、じょーだん!」

 一気に騒がしくなった部屋を見て、机に座っている彼女は小さくため息をついた。

「はぁ………集合をかけたのは昨日だぞ。どこで何をしていた」

「いやぁ実はさ、ここに来るまでにキーバトル仕掛けられちゃったのよ〜!しかも相手六人!その相手してたら遅くなっちゃったの」

「えっ⁉︎だ、大丈夫ですか?保健室行きますか⁉︎」

 眼鏡の少女は本気で心配して彼女に駆け寄ろうとする。

「やだなぁ、じょーだんに決まってるでしょ?アタシがその辺のヤツら六人相手に負けるわけないじゃん」

 ポニーテールの少女は朗らかに笑うと部屋を見渡して首を傾げる。

「あれ?アイツは?」

「お前も知らないのか。まぁ、アイツのことだ。何か調べごとでもしてるんだろう」

 そう言って彼女は目の前の書類の記入に意識を戻そうとした。しかしその手を動かすことはなく、代わりに口が動く。

「お前が遅刻とは。珍しいな」

 それは誰に向けられて言われた言葉なのか。そこにいるみんなはすぐに分かった。

「調べごと、してた」

 部屋にいる三人とは明らかに違う低めの声が、彼女の真後ろから聞こえた。

 そこにいるのは黒いマスクをした短髪の少女だ。鋭く無機質な瞳で周りを見渡す。

 さっきまで部屋にはおらず、入ってきた様子を見た者も誰もいない。まるで幽霊のように背後に立っていたのだ。

 それでもそこにいることにみんなは驚くことなく、平然とそれを受け入れた。

「こんにちは、これで四人揃いましたね。紅茶淹れますか?」

「うん、おねが〜い!いやぁ、暑くて飲み物飲まないとやってられないよ!」

「私は、いい」

「分かりました」

 テキパキとアイスティーを淹れる準備を始めた少女を見てから、ポニーテールの少女は、マスクの少女を見る。

「アンタよくこんな暑い中で何も飲まずにいられるよね。そんな暑そうなマスクまでしちゃってさ」

「普通だ。それより、報告がある」

「何だ?」

 四人が揃ったことにより、書類を書くのをやめた彼女はマスクの少女に視線を向けた。

「龍虎祭の、出場者のこと」

 マスクの少女の言葉にポニーテールの少女が身を乗り出した。

「あれ?もう全チームのエントリー終わったの?」

「違う」

「だろうな。現に、ここにエントリーしてないチームがいる」

 彼女は自分の手元にある書類を見てから、視線をマスクの少女に向けた。

「しかし、言ったはずだ。報告は全チームのエントリーが済んでからまとめて行え、とな」

「分かってる」

 彼女は書いていた書類に視線を落として、眼鏡の少女が淹れてくれた紅茶のカップに手を伸ばした。

「なら今はよせ。一々聞いていてはまとめるのも面倒で………」

「例の事件の女子生徒二名が、予選を突破した」

 しかしマスクの少女の一言が、再び彼女の手を止める。それから視線を上に上げた。

「………どういう事だ?」

「言葉の通りだ」

 彼女の質問にマスクの少女は短く答える。

 そこに自分の分とポニーテールの少女の分のアイスティーを淹れた眼鏡の少女がやってきて席に座る。

「例の事件って、二ヶ月くらい前にあったいじめのことですか?たしか、女子生徒二名を八人の生徒がキーで痛めつけた、でしたって」

「そうだ。その被害者二名が、予選を通過した」

「同じチームとしてか?」

「あぁ」

「って事は、その二人とアタシらが戦うかもってこと?」

「あぁ」

 行儀悪く肘をついて紅茶を飲むポニーテールの少女の問いに、マスクの少女が頷いた。

「でも変ですよ。たしか一人はキー使えないって話ではありませんでしたか?三人で四人チームを全部倒したって事ですか?」

「いや、違う。キーを、使えるようになっていたんだ」

「何それ?今まで全然使えなかったのに、試合になって使えるようになったって事?いくらなんでも都合良すぎるでしょ?」

「だが、事実だ」

 ピシャリと言い切るマスクの少女に全員が眉を顰めた。

「たしか彼女達の体育のクラスは『1-B』だったな。残り二人のチームメンバーは?」

「………」

「ん?何故黙る?」

「………」

 そう聞かれて、マスクの少女は黙って制服の胸ポケットから紙を取り出して差し出す。

 それは本来であれば本人達以外の生徒が見る事はない、1-Bの代表チームのエントリー用紙だった。

 その用紙を覗き込んだ彼女の眉がピクッと動いた。それでも尚、全てに目を通してから、用紙を机に置いて言葉を発する。

「何故もっと早く報告しなかった?」

「まとめて報告しろと、言われたから」

「嘘をつけ。絶対私を揶揄うためだろう」

 そう言われてもマスクの少女の表情は少したりとも動かず、無表情のままだ。

「まったく………近頃様子が変だとは思っていたが、まさかこういう事だったとは」

「調べるか?」

「いや、それはするな。するだけ無駄になる。私が直接会って話そう」

「分かった」

 彼女は指示を出すと、再び用紙にを向けた。書いてある内容に改めて目を通した。


1-B代表チーム


一年五組 歩射かちゆみ 九十九つくも 

Key Name 99 Bullet


一年五組 梢殺うらごけ 貂熊くずり

Key Name Grim Reaper


一年五組 大刀石花たちせ 三狐神さぐし

Key Name Connect Blade


一年五組 海金砂かにくさ えやみ

Key Name KHAOS


チーム名 Ragged Useless不揃いな無能達

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