22.等価交換

「姫、私が知っているのはここまでです。貴女様のその『あなたのことが知りたい』という気持ちを、どうかアロイス王子に真正面からぶつけてあげてください。そうすれば、きっと、あなたの疑問にあの人は答えてくれますよ。」


レオナはにっこりと微笑んだ。


「レオナ、あなたもしかして──いえ、いいわ……やっぱり、なんでもない。」


その笑みをみて、シャルロッテはレオナはもしかして、自分のこのぐるぐるとしていた不定形な何かに気付いていたのかと思ったのだ。気づいた上で、あのようなことを言ったのかと。でも、気づいていようがなかろうが、もういいと思った。思えてしまった。


「ありがとう、レオナ」


シャルロッテは美しく笑って、礼を言った。


その後、明日も朝早いからと各自ベッドに入った2人であった。レオナは疲れていたのかすぐに眠ってしまったが、シャルロッテは眠れずにいた。ベッドの隣にある窓から見える空を見つめながら、悩みふける。


アロイス王子に秘密があるとしても、果たして私にはそれを聞く資格があるのだろうか。


不意に思ったその感情に、シャルロッテは戸惑いを感じた。いや、戸惑いではない。

これは、不安だ。

人間誰しも秘密があるものだと、エルザがやけに乾いた声で言っていたのを思い出す。だれにでも、触れられたくないドロドロとした部分があって、そこはどんなに親しい人でも決して見せないんだとか。なぜ見せたがらないの?とエルゼに尋ねれば、そこにあるのは『知られてしまうことによって、なにか起こるんじゃないか。そう考えると、怖くて動けなくなるものよ』と、そうエルザは言っていた。他人に自分の柔い部分を見せることは、同時に恐怖を伴うのだと。あのときは分からなかったけど、今ならよく分かる。

ルイナスのことを、アロイス王子は聞いてくるだろうか。もしも聞かれたら、私はなんて答えればいいのだろう。あの人に、嘘をつきたくはない。けれど、ルイナスのことを知ったらあの人は、私を、私たちをどう思うだろうか。軽蔑するだろうか、あの時みたいに。あぁ、でも……あんな顔、もう見たくない。

アロイス王子も、恐怖を感じるのだろうか。

だとしたら、おおきな恐怖に伴うほどにあの人が抱えているものは、どれほどのものなのだろう。


あぁ、でも、それでも。

知りたいのだ。どうしようもなく。

あの人の心を。

考えを、秘密を。

抱えているものを。


でも、きっとあの人ならこう思うかもね。

『貴女が言わないことを、どうして俺が言う必要があるのですか』って。ふふ、いかにも言いそうだわ。私の心を見せない限り、あの人も私に心をみせないでしょうね。

ジルベルトが言った言葉を、決して忘れることはないだろう。それが、私の秘密なのだ。


シャルロッテは目を閉じる。明日から、きっとまた変わるはずだ。

知りたいことを知るためには、直球勝負で。

そして、等価交換で。

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