第6話

「…どうかした?比田さん」


 腹減ってんだけど。

 隣の神崎と一緒に空気読んで帰れや。


「えーと、あのさ!朝あたしがいなくなった後、美夜が下谷君に質問したんだよね?できれば、その答え教えて欲しいなーなんて…」


 うっわ、コイツせっかく後回しにできたのに何言ってくれてんの?

 しかも無駄にデカい声でちょっと待ったーなんて叫んだせいで、残った奴等が注目しちゃってんじゃん。

 これじゃますますここじゃ答えらんねーよ。


「…あまり人前で答えたくないな」


「真理!それはもういいって言ったよね!?ごめんね、下谷君。帰るよ、真理」


 ほら元の質問者ももういいって言ってるし、帰れ帰れこのデカ声乳女。


「えー!美夜もどうしても気になったから変になっちゃったって言ってたじゃん!あたしもカメムシをイケメンにした女がどんななのか気になるし!」


 元とはいえ、本人の前でカメムシ呼ばわりかよ。

 空気読めないし、マジ現実の女ってクソだな。

 カメムシをイケメンにした、2次元の素晴らしい女性とは比べ物にならん。


「真理!下谷君に失礼だよ!それに、答えたくない質問だってあるでしょ!」


 その通りだ、マジ迷惑だわこのクソ女コンビ。

 さっさと帰れし。


「じゃあさ!ヒント!ヒントくらいならいいでしょ!今まで美夜にビッチとか腐れ女とか言ってたお詫びって事で!ヒントくらいならここで教えたってハズくないっしょ!」


 うっざ、どうすりゃいんだコイツ。


 ヒントくらい答えるべきか悩んでいると、隣で空気と化している親友と目が合った。

 何?そのため息とやれやれみたいなポーズ?


「幸人ー、バレないくらいのヒントなら教えてもいんじゃね?言っていい加減がわかんないなら、代わりに俺が答えてもいいし」


 ふむ、それもありだな。

 俺が下手な事言って失敗するより良さそうだ。

 さすが親友、頼りになるぅ!


「そうだな。俺からは話しづらいし、頼む雄信」


「…おっけ!任せとけ!…っぷぷ…!」


 …ニヤニヤしながら笑うの堪えてません?

 おい、大丈夫だよな親友?

 そのキモいウインクを止めろ。


「おー!オタコンビの白髪の方は話がわかるねぇ!それじゃキリキリ吐いて貰おうか!」


「…お願いします。大友君…」


「し、白髪の方…ま、まぁいいや。幸人の好きな女の子のヒントその1!勉強ができて運動もできる!」


 当たり障りないヒントだ。

 これなら任せて大丈夫そうだな。


「ほうほう!その2は!?」


「その2はそーだな…優しくて家庭的だっけ?」


 親友の問いに無言で頷く。

 仲が進展するとレンちゃんが昼飯に手作り弁当を作ってくれるんだよね。

 俺の好きなエビフライをいつも入れてくれてるし、最高だよ!

 一枚絵だから中身がいつも変わらないというのはいいっこなしな。


「…その3は、何かな?」


 もういいとか言ってた癖にグイグイくるな神崎よ。


「その3はー…えーと、そう!キリっとした顔の黒髪貧乳!」


『え!?』


 比田と聞き耳を立てていたクラスメート達が揃って神崎に目を向ける。

 神崎は目を見開いて俺を見ながら固まっていらっしゃる。


 …親友よ、なんか誤解が生まれている気がするんだけど。

 何この神崎が好きなんじゃね?みたいな雰囲気…。


 いや、親友を信じよう。

 何か策があるのかもしれないし…。


 大丈夫、このくらいのヒントならまだ100%神崎が相手だという事にはなるまい。

 勉強と運動ができて優しく家庭的なキリっとした顔の黒髪貧乳とか、探せば学校に何人かいるはず。

 …いるよね?


「そしてこれは大ヒント!その4!その女の子は幼なな…」


「そぉぉぉいっ!!」


 ギルティ!!

 コイツを信じた俺が馬鹿だった!!


「ウゴッ!?」


 楽しそうに話す裏切りの友の鳩尾に一撃。

 拳で黙らす。

 わざと俺の好きな相手が神崎だという誤解を与えるようにしたな!

 冗談じゃねーぞ、この野郎!


「ギブギブ!!」


 何がギブだこの野郎。

 どういうつもりか後でハッキリ聞かせてもらうからな!

 親友の首を腕で締めながら、引きずってこの場を撤退を開始する。


 …妙だな。

 この場を騒がした張本人の俺達が逃げるのを、止める声が1つもない。

 教室から出る前に、この騒ぎの爆心地を確認する。


 …なんか神崎泣いてね?

 比田が良かったねぇとか言いながら、背中ポンポンしてるよ。

 周りの奴等はそれをポカーンと見てる感じだね。


 わけがわからないよ。

 この状況どうすりゃいい?

 泣いた神崎を放置して、このまま黙って逃げて大丈夫か?


 こんなシチュエーションは、俺の知ってるギャルゲーに無い。

 頼りの親友は裏切り者だったから頼れないときた。

 …悩んでも仕方ないか、俺が今できる事は1つしかないし。


「ご、誤解だからな!勘違いするなよ!」


 捨て台詞を残して逃げた。







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