第5話

「おいおいっ、幼馴染さんよ!神崎さんってあんな感じの人だったの!?めっちゃ病み系のオーラ放ってたよね!?なんとなく逃走に手を貸してみたけどいらんかった!?」


「今のあいつの事なんて知らねーよ!少なくとも昔はあんな感じじゃなかったけど!逃がしてくれて感謝してるよ親友!なんなのよあの質問攻め!」


 逃げ込んだ男子トイレで焦る俺達ヘタレ。

 現実に耐性があまり無いオタクコンビだし、ちょっとしたイレギュラーでテンパるのは仕方ないと思うんだ。


「…とりあえず小便でもしようぜ幸人。俺、実は本当に我慢してたし」


「…俺もしとこ。…しっかし、どうすればいいかね?もう神崎に関わりたくないんだけど。あれ、絶対後でまた質問してくるよな」


 心の底から面倒臭いんだけど。

 ここは親友と相談して対策を練るべきだろう。


「ふぅ……知らんわ。スッキリしたらこの状況がアホらしくなってきた。あの感じだと神崎さんって、多分お前に惚の字じゃん。リア充は死ねばいいと思うよ。過去は水に流して仲良くやれば?」


 共に対策を練ろうよ。

 さっきまでの親友パワーはどこ行った?


「それは無理。他の男の体液が染み込んだ女とか、絶対無理。それに俺はレンちゃん一筋だ。そもそも神崎が俺に惚れてる前提じゃんそれ。ちょっと異常だったけど、単純に昔は仲良かった幼馴染が好きな女に興味あるだけかもしれないじゃんか。あと、過去を水に流すつもりは一切ございません」


「えー、惚れてると思うけど。面倒くせーやつだな。ちょっと病みっぽいリアル虹乃恋みたいなもんだろ、神崎さん。今なら美男美女カップル誕生だし、お前が神崎さんに言ってた暴言も周りに許されんじゃね?一石二鳥だと思うよ、俺は」


 何が一石二鳥だ、この若白髪。

 現実が見えてないにもほどがある。


「無・理!レンちゃんとあの女を一緒にすんな!全然違いますんで!新品と中古の間には越えられない壁があるんだよ!そもそもあんな女信用できないね!浮気とか平気でしそうだし、アウトオブ眼中だよ!」


「…見た目は否定しないのな。まぁいいや、そんなに嫌なら正直に虹乃恋が好きだって教えればいいじゃん。ドン引きされて関わらなくなるかもしんないぞ」


 見た目は…まぁ似てない事もないからな。

 正直に話してあの女にドン引きされたとしたらなんかムカつくが、それが無難か。


「しゃーない、他になんも策が浮かばないし。それでいくか」


 すぐに戻って神崎に話しかけられたら嫌だったので、トイレ前でこれからどうするか雄信と話しながら先生が来るのを待った。




 始業式やHRが終わり帰る準備をしていると、他のクラスメート達に本当にあのキモオタの下谷幸人なのかと質問攻めにされた。


 最初は疑われたが、学生証を見せたり雄信が本物だと証言してくれたりで信じてもらえる事ができた。

 やはり持つべきものは親友だね。


 朝の件の事も見ていたやつに質問されたが、笑って誤魔化した。

 アハハ~俺もよくわかんな~い、てな感じ。

 いや、マジでよくわからんし。


「よし、腹減ったしさっさと帰ろう!あ、雄信、お陰で周りにすんなり信じてもらえたわ。お礼に今から昼飯でも奢ろうか?家に昼飯あるなら別の時にするけど」


 今日は午前で学校が終わりだが、俺は一人暮らしなので家に帰っても昼飯が準備されていない。

 適当に外食するか弁当を買う必要がある。

 自炊はこれから始める予定だが、まだ部屋が腐海のままなのでまた今度。

 今日はラーメンな気分なので行きつけの定食屋に行く予定。


「お、マジで!奢られちゃうわ!今日は母親パートだし、カップ麺食う予定だったからラッキー」


「よし、んじゃ行くか」


「あ、あの!下谷君!朝の話なんだけど…」


 いざ定食屋に向かおうと椅子から立ち上がると、神崎から声がかかる。

 比田も一緒だ。


 まぁこうなるよね。

 他のクラスメートに質問されてる間ずっと二人で待ってたっぽかったし。

 めんどくさし。


「あー、うん。朝の話ね」


 まだ周りに人がそこそこいるので、ここではレンちゃんが好きだと神崎に説明するのが難しい。

 雄信と話した結果、必要以上の人達にはレンちゃんが好きだという事を教えない事にしたからだ。


 俺は最初大々的にレンちゃんが好きだと公言するつもりだったのだが、雄信の「お前それだとただの顔の良いキモオタじゃん。虹乃恋に相応しいのそれ?」で目が覚める。


 さすが我が心の友。

 いつも俺に気づかせてくれる。


 というか相応しいとか以前に、レンちゃんにハッキリ好きだと伝えて結ばれるのは卒業式の日だし。

 大っぴらにレンちゃんが好きな事が広まってしまえば、いざという時の好きだという言葉に重みが無くなる気がする。

 俺は付き合う前の淡い恋も楽しみたいのだよ。

 ほら、レンちゃんが急に現実に現れたら困るじゃん。


 そういった訳で、どうしたものかと考え中。


「下谷君、朝は変な事を聞いちゃってごめんね。ちょっと取り乱しちゃって…」


 お、普通っぽい。

 またあの病みっぽい感じで質問攻めでもしてくるのかと思ってた。


「いや、大丈夫。俺も今まで神崎に酷い事言ってたしな。悪かった」


 本当は悪かったなんて全然思ってないけどね。


「私は酷い事言われても、仕方ないし、大丈夫。ねぇ、これからは下谷君と普通に話ししたり、できるのかな…?」


 おう、自分の立場わかってんじゃん。

 普通に話すのは極力御遠慮願いたいが、レンちゃんの為だ。

 嫌だけど我慢してやるよ。


「ああ、普通に話しくらいするよ」


「そっか、ありがと。じゃ、また学校で。じゃあね下谷君、大友君」


 ふむ、これなら今のところレンちゃんが好きだと教える必要は無さそうだな。

 色々と考えてたのがアホらしくなるね。

 あばよ神崎、もう面倒臭い感じに絡んでくんじゃねーぞ。


「ああ、じゃ…」


「ちょーっと待ったぁーーっ!!」


 やかましいわこの乳女!

 もう帰って終了でいいだろうが!





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