第3話

 春休みが終わり、始業式の朝。

 生まれ変わった俺、いや、昔の俺に戻った様な俺は、昇降口でクラス替えのプリントを見ながらため息をつく。


「…神崎と一緒なのか」


 去年は違うクラスだったので、たまに訪れては話しかけてくる程度だった。

 同じクラスになれば嫌でも目に入るし、行事

 でも関わらなければならないかもしれない。

 心機一転、虹乃恋の為に自己改革を行った俺には少し面倒な相手だ。

 これからやる事を考えると、神崎との接触は最低限にしておきたかった。

 俺の精神が持つか謎だし。


 だが我が親友、大友雄信が同じクラスなのは嬉しい。

 友達あいつしかいないんだもの。


 プリントを再度確認し、決められた教室に向かう。

 2-B、鉛筆の芯みたいなクラスに到着。

 登校時間にはまだ早いので、教室の中にいる人数は少ない。


 その中に我が心の友、雄信を発見。

 机に突っ伏している。

 またネトゲのやり過ぎで寝不足なんだろう。


「雄信、二週間ぶりぐらいか?今年もよろしくな」


 眠そうにしながら、親友がもぞもぞと起きて返事をする。


「…おー。今年もよろしく。春休み中に昼夜逆転生活してたら寝れなくてさー。寝ないで登校したから今になって寝みーのなんの……えーと、誰?」


 こちらを見た途端に怪訝な顔をする親友。

 目のクマは酷いし口元にはヨダレがついてる、汚ねぇツラだわ。


「お前の親友、下谷幸人だ。グッモーニン」


「…誰だか知んないけど、眠いから冗談なら後にしてくれー」


 また机に突っ伏して寝ようとする親友の頭をひっぱたく。


「なにすんの!?…えっと、マジで誰だ?幸人はあんたみたいなイケメンとは正反対な、臭くてキモいオタクなんだけど?」


 彼女ヒロインに捧げるin春休み!地獄のイケメン改造計画は、大成功に終わった。


 元々、見た目だけはトップクラスの母親アバズレ似の顔だ。

 臭くてキモいオタクな二週間前の俺とは、かなり見た目が変わっているだろう。

 眼鏡がコンタクトになるだけで、印象がだいぶ変わるしな。

 俺だとわからないのも無理はない。


 でもそこは親友として、すぐに気付くべきじゃないかな?

 声や雰囲気とかでさぁ。

 俺は机に突っ伏して顔が見えなくても、お前の後頭部見ただけですぐ気づいたよ?


 そして、親友に対するイメージが臭くてキモいオタクってのはどうなのよ?

 その通りだったけど、酷くね?

 人に親友の説明をするなら、もうちょっと言い方があると思うんだ。


「マジで俺、下谷幸人。褐色ロリの抱き枕を愛用しているお前のズッ友だよ。臭くてキモいオタクじゃないから、わからなかったかな?明日、お前がオススメしてきたエロゲー返すね。見た目が褐色ロリでも、男の娘やふたなりは俺にはレベルが高過ぎて無理だったわ」


 仕返しに大きめの声で性癖暴露だ。

 チラチラとこちらを周りに見られている事に気づき、焦る親友。


「オーケー、マイブラザー!何を言っているのか、全然わからないけどね!すぐに気付かなかった俺が悪かったよ!ちょっとあっちで話そうか!」


 周りに聞かれたら困る事がある様子の親友に従い、教室の隅に移動。


「後で絶対仕返ししてやるかんな…それよりどしたのお前。春休み中に連絡取れないと思ってたら、何そのキモオタからイケメンへの劇的ビフォーアフター。そんな匠の技にかかったら、気付くわけないっつの。お前だってすぐに気付く方がおかしいからね?しっかし今の整形って、傷跡とかすぐ治るもんなんだな」


 失礼極まりないな、こやつ。


「春休み前に言ったじゃん。俺はレンちゃんに相応しい男になるって。お前の連絡無視してたのは、自分を磨くのに精一杯でそれどころじゃなかったからだし。ちなみに整形とかしてねーぞ。純度180%の下谷幸人だっつの!自分で言うのもなんだが、元々顔は良かったからな!」


 春休み中の地獄のイケメン改造計画。

 精神的にも身体的にもたるみまくっていた俺が、たった二週間程でここまで変身するのにどれだけ苦労した事か。

 レンちゃんに毎日ガラスの板の向こう側から頑張って!と、何度も励まされなかったら絶対挫けてたよ。


 筋肉痛や空腹で自家発電できないくらいに疲弊していたからな。

 改造計画の終盤に、夢の中でレンちゃんが癒してくれたのが思い出深い。

 凄く幸せな気持ちになれました。


「マジかよ…呪いでもかかってたのか?前のお前は…」


 ハッハッハ!ぬかしおる!

 呪いは伝播するぞ?


「お前、最近若白髪増えてきてるからな。ネトゲに呪われてんじゃね?またネカマに騙されてんだろ。寝不足になるほどネトゲする同年代の可愛い女の子なんて、いるわけねーじゃん。可愛い女の子がお前みたいにネトゲに青春捧げると思う?現実見ろって」


「う、うるせえ!お前にだけは言われたくないっつの!俺のはお前の二次元と違って、可能性があるだけマシだ!お前が現実みろ!…マジで白髪そんなヤバいの?」


「いやいや、俺のも可能性はあるからね。しかもお前と違って努力してるから、ドンドン可能性が上がってると思うよ?ちなみに白髪は後頭部見ればお前だってすぐ分かるレベル」


 そんな気にするほどじゃないけどね。

 ちょっとした嫌がらせですよ。

 ストレスを感じて白髪が増える可能性を作ってあげただけ。


「…マジか。治す方法検索しなきゃ…。つーか、お前見た目変わっても中身そのままヤベーまんまじゃん。もし万が一、いや垓が一可能性があったとしても、性格も直せなきゃ虹乃恋に釣り合わないから結局は可能性0だな!」


「…性格に関してはこれから矯正していくつもりだ。一つ、方法を思いついたからな」


 上手くいくかは分からないがレンちゃんに釣り合う男になるには、この方法でいくしかないだろう。


「ふーん。どんな方法か知らんけど、その拗れた性格直すなんて難しいだろ。いくら見た目良くなったって、どーせまた神崎さんに暴言吐いたり、女子を無視して嫌われるって。お、外見ろよ。丁度神崎さんが登校してきたぜ。やっぱ美人だから目立つよなぁ。ほら、アホの真理とセットだ。今年は神崎さん同じクラスだし、ここに着いたら確実にお前に話しかけてくるっしょ!期待してるぜー、親友よ?」


「…ああ、大丈夫。レンちゃんの為なら、俺は変われる」


 過去に好きだった幼馴染、黒髪の彼女ヒロインを窓から見つめ、覚悟を決めた。

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