第2話

「とまぁ、こんな感じが俺ちゃんの秘められた過去なのよ。そんな荒んだマイハートを癒してくれた彼女ヒロインに、てめぇさっきなんて言った?返答次第じゃ泣いて謝るから友達辞めないでね?」


 高校一年最後の日。

 一年間お世話になった教室の中で、親友のフツメン、大友雄信おおともゆうしんの言葉がきっかけで揉めている。


「お前の過去は何回か聞いたから分かってるって!友達も辞めねーよ!でもさ、さっきも言ったけど、お前の神崎さんへの対応はやっぱキツ過ぎだって!話に出てくる幼馴染なんだろうけどさぁ…。もうちょっと優しく,,」


「ノンノンノンノン!!あのビッチは今関係無いから!そもそも、あっちが俺に構わなきゃいいだけじゃん?違う?そしたらなーーんにも起こんないのよ?俺、何度も話しかけるなって言ってるやんけ!それよりも、彼女ヒロインに対してさ…でもそれ絵じゃん。ってのは許されないのよ?おわかり?」


 彼女ヒロイン こと虹乃恋にじのれんは俺の心を救ってくれた。

 彼女がいなければ、まともに女性と話す事も出来なかっただろう。

 俺にとって聖女、いや女神と言っても過言ではないだろう。


「はぁ…まぁ神崎さんの事はお前の言うことにも一理あるけどさ。ビッチとか言われたり、無視されたりしてんのに、よくめげずにお前なんかに話しかけるもんだ。あと虹乃恋のこと、絵じゃんって言って悪かったよ。確か、ドッキンメモリーズの攻略が一番難しい娘だっけ?」


「分かればいいのだよ!そう!レンちゃんは幼馴染でずーっと俺の事が好きでな!他の男にはまるで興味が無いのよ!優しくて家庭的な上に文武両道!絶対に嘘はつかないし、約束も守る真の彼女ヒロインなわけ!レンちゃんはやきもちやきだからさ、他のキャラと仲良くしてるとすぐに攻略不可になっちゃうんだよ!それに全てのパラメーターを高水準に維持しなきゃいけないし!レンちゃんと釣り合うような男じゃないと、一生を共にはできないし当然だよね!あのキリッとした顔に良く似合う黒髪…おっぱいは小さめだけど均整のとれた体…。あぁ、今すぐ次元の壁を超えてレンちゃんに会いに行きたい…」


「なぁ、それって、ゲーム要素抜いたらほぼ神崎さんじゃ…」


「あ゛!?」


「い、いや!俺の勘違いだわ!そんな気がしたけど、全然違うかもなー!」


 あんなのと一緒にされたら堪らんわ。

 親友のよしみで、今回だけは聞き流してやろう。


「…やっぱヤベーなお前…でもさぁ、もし仮にお前が虹乃恋がいる世界に行けたとしても、一生を共にできないっしょ」


 何言ってんだコイツ。

 俺のレンちゃんへの真の愛のパワー力舐めてんのか?

 さすがにそれは聞き流せない。


「屋上へ行こうぜ……久しぶりにきれちまったよ……」


 上等だよ、親友という関係はもう終わりだ。

 結構仲の良い友達からまた始めようじゃないか。


「待て待て、ちょっと聞けって!だって、お前は確かに虹乃恋に一途なんだろうけどさ。仮にお前が彼女と幼馴染だったとしてもだぞ?全てのパラメーターが高水準、ってのが無理あんだろ。勉強はそこそこできるからいいとしてもさ。見た目と運動が終わってんじゃん。高水準が100としたら5とかじゃないのお前。女子に暴言吐くし性格も悪いし。神崎さん以外の女子全員に嫌われてるようなやつが、どうやって真の彼女を惚れさせるわけ?キモくて嫌われるのは簡単だろうけど」


「はぅあっ!!!!!!!!」


 ショッキング、親友の言葉に衝撃を受ける。

 その通りだ、その通りだよ!

 俺の見た目や性格は、漫○画太郎に出てくるような汚いキャラに近い。

 今の俺では下校の時に一緒に帰ったら、友達に噂されて恥ずかしくて死ぬレベルかもしれない。

 髪の毛、眉毛、鼻毛がもっさりしているだけでなく、運動不足で小太り。

 つけている安物の眼鏡は度がキツく、レンズが分厚くて目が小さく見える。

 更に一人暮らしで部屋は汚く、洗濯もろくしない。

 面倒なのでシャワーは2日に1度。

 湯船はカビがるんるんなので、ここ半年は使っていない。

 これ見た目5も無いだろ。

 悪臭含めたらマイナスいくわ。


「ジーザス…なんてこった…。俺はこのままではレンちゃんを愛する資格が無い…。うぅ,,ああぁあああっ!!!」


「おいおい!仮の話だろ!普通泣くか!?2次元の世界に行くなんて有り得ないし、虹乃恋が現実に来る事も無いんだぞ!?」


「わかんないじゃん!人生何があるかわかんないじゃん!現にいろんな人が異世界に行ってるだろ!俺みたいなキモオタは特にだ!!ほとんどが自分が普通とか思ってるキモオタばっかだろ!現実を見ろ雄信!!」


「お前が現実を見ろ馬鹿野郎!ったく、ならちょっとはまともになる努力でもしろよ。暖かくなるとお前臭いし」


 そうだ、そうだよ。

 雄信の言う通りだ。

 俺は臭い。

 じゃないわ、確かに臭いし俺が悪いけど後で嫌がらせしてやる。

 まともになる努力をしなければ。

 いつか真の彼女に出会った時。

 愛し、愛される資格を持たねばならない。


 中学二年生の夏、女は信用しないと心に決めた。

 だが、2次元の中でずっと壊れた俺の心を癒してくれた真の彼女ヒロイン、虹乃恋ならば。

 もしも現実で出会っても、他の女とは違って信用できる気がする。


「決めた…心機一転アクト2だ…。俺はやるぞ!!レンちゃんにふさわしい男になる!絶対に!春休みで変わってみせる!やぁってやるぜ!!」


「お、おぅ。頑張れよ…」


 こうして俺の彼女ヒロインに捧げるin春休み!地獄のイケメン改造計画はスタートし、大成功で高校二年の始業式を迎えた。


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