第21話 一応の決着

「さあやるぜ蒼蟇。俺は今からお前がアイツを拘束するためのお膳立てに徹するから、お前はアイツの隙を見つけたら確実に拘束してくれ」


「ゲコッ!」


 蒼蟇の返事を待たずに、ジークはエンニーに向かって突進を仕掛ける。エンニーも堂々とそれを真正面から迎え撃ち、両者は目で追えない速度での激しい近接戦の攻防をはじめた。


(……ああ、畜生! これだけ殴って、蹴って、なんでお前は倒れようとしないんだ! 俺はアテネを生かしてやりたいだけなのに、どうしてお前らはそれだけのささやかな願いを壊すためにそこまで命をかけるんだよ! こんな戦い、誰も得しない戦いだ! だから……)


「いい加減、終わらせるぞ!!!」


 ジークは渾身の拳をエンニーの顔面に叩き込むと、吹き飛んだエンニーに対して上からさらにかかと落としを食らわせ、エンニーの肉体を地面にめりこませる。


「……さあ蒼蟇! 今だ! コイツを拘束しろ!」


 ジークに言われるまでもなく、蒼蟇は口から超特大の泡を吐き出す。見るからにネバネバで触りたくない泡はゆっくりとエンニーを取り込み、その身体を泡の中に閉じ込めた。


「『蛙秘伝 泡包あわつつみ』……だったっけ? その技」


「ゲコ」


 この得意気な返事は、間違いなく肯定の意である。


「……っし。これでコイツはもうこの泡から出られない。後は、魔力が切れて勝手に起きるのを待つだけだな」


 ジークは必死に泡から出ようともがくエンニーを蒼蟇に監視しておくよう頼むと、まっすぐ家の中で眠り続けるエマとアテネのもとへと歩を進めようとする。


(……と、その前に師匠だな。ま、あの人なら心配いらねぇか)






 エンニーを拘束し、こちらをじっと見つめるジークと目が合ったロイは、早々に心の中で白旗をあげていた。


(……こりゃもう無理だね。エンニーで勝てないのに、俺が単独でジークさんとやりあって勝てるわけねぇだろ。とりあえずここは、出来るだけケガしないようにここから離脱する方法を……)


ブチブチブチブチィッ……


(……ん? 何かが破られる音が背後から……あれ、もしかして……)


 ロイが顔面蒼白になりながら後ろを振り向くと、そこにはロイの布を引き裂き、力任せに拘束を解いていたドーラの姿がそこにあった。


「んなぁっ!? バーさん、アンタ急にどうし……」


「どぉこが急にだよ。お前がのんびりとしてくれたおかげで、もうアタシの魔力は完全復活済みだよ。……アタシを殺せないのはしょうがないにしても、あまりにも無策すぎるのは頂けないねぇ……」


「い、いや、魔力が回復するにしてはあまりにも早すぎ……ああもう! アンタもジークさんサイドの人間ってことだな! いろんな意味で!」


 ドーラの放つ圧倒的な威圧をモロに受け、ロイはジリジリと後退させられる。が、後ろにいるのはドーラ以上に恐ろしい存在であるジークである。

 状況はまさに前門の虎、後門の狼。……いや、ロイにとっては前門の竜、後門の竜と言うべきだろう。


「……師匠! 一応聞いとくけど、アンタ1人でも大丈夫だよな!?」


「ババアを舐めんなクソガキ。一対一サシの勝負ならまだまだ負けるつもりはねぇよ!」


 前後を竜に囲まれ、逃げ場を失い怯えていたロイ。しかし、ジークとドーラの自分などまったく眼中にないようなやり取りを聞いているうちに、彼の内には少しずつ怒りのようなものが沸き上がりはじめていた。


「……畜生、舐めやがって。俺だってユルゲンさんに認められた術師なんだ。そう簡単に遅れはとらねぇよ」


 ロイは再び二枚の布を具現化させると、布を両手に巻き付けて槍のような形状を作る。


「『形状自在の槍クロスランス』!!!」


 布で出来た二本の槍は、螺旋を描きながらドーラに向かって襲いかかる。

 ……が、ドーラはまったく表情を変化させないまま手を前に突き出すと、掌から起こした爆発で槍をあっさりと吹き飛ばした。


「……んなっ……!」


「おいおい、これがお前の全力か? ……だとしたら、拍子抜けだぜ」


 ドーラは一瞬でロイに接近し、その拳をロイに叩き込む。ロイは咄嗟に布で拳を受け止め防御するが、その際に発生した爆発によってジークのもとまで吹き飛ばされる。


「おーおー。あれを食らってここまで飛ばされたので済むたぁ、お前やるじゃないか」


「……ジークさんに褒めてもらえるのは光栄ですけどねぇ……俺の本領は補佐なので、こういう真正面からのぶつかり合いは、にが……」


 ジークに褒められたのも束の間、ロイは、ドーラの重い攻撃に耐えきれずに気絶してしまうのであった。

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